システムアーキテクト試験 2013年 午後101


安否確認システムの導入に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。

 A社は、中堅の総合商社であり、配下に10社のグループ会社を保有している。A社グループでは、大規模地震を想定した安否確認システムの導入を行うことにした。情報システム部のB課長がリーダとなって本案件を担当することになった。   〔安否確認システムの導入に向けての検討〕  B課長は、安否確認システムの要件を決定するに当たって、総務担当役員、総務部担当者などにヒアリングを行い、次のようにまとめた。  (1)社員に対する安否確認は、A社グループの国内営業地域内で震度5強以上の地震が発生したときに発動する。安否確認が発動されると、社員に対して緊急連絡が行われ、これを受けた社員は安否情報の登録(以下、安否登録という)を行う。  (2)緊急連絡は、電子メール、電話のどちらでも行えるようにする。A社グループでは、ほとんどの社員が携帯電話を保有しているので、これを有効に活用する。  (3)社員の緊急連絡先は、社員が自ら登録する。社員ごとに複数の連絡先が登録できるようにする。  (4)安否確認システムの利用者管理には、人事マスタを利用する。安否確認システム以外の既存のシステム(以下、社内システムという)は社員コードを共通の利用者IDとしてシングルサインオンを実現しているので、各社員は自分の社員コードを覚えている。  (5)安否登録は、電子メール、電話のどちらでも行えるようにする。入力はできるだけ容易にし、本人の現在地、本人及び家族の安否、出社可能かどうかなどを登録できるようにする。  (6)会社単位、部単位に、安否登録状況の一覧が参照できるようにする。  (7)安否確認発動時に、社員の中から安否確認作業の担当者(以下、確認担当者という)を決めて作業が進められるようにする。  (8)安否情報が一定時間以内に確認できない社員のうち、地震区域にいないことが明らかな社員については、一旦、安否確認作業の対象外とする。地震区域にいる可能性がある社員については、確認担当者が様々な手段で安否の確認を行う。この作業を個別確認という。個別確認は短時間で行うことが望まれるので、対象となる人数はできるだけ少なくなるようにする。  (9) (8)一旦安否確認の対象外とした、地震区域にいないことが明らかな社員については、個別確認終了後に別途安否確認を行う。   B課長は、以上の要件を基に、複数のソフトウェアパッケージ及びASPサービスを比較検討した結果、C社のASPサービスを利用した安否確認システム(以下、新システムという)を導入することを決定した。   〔現状調査の結果〕  新システムには、社員情報を登録する必要がある。登録には、人事マスタを利用するので、人事マスタの調査を実施した。その結果、次のことが判明した。  (1)人事マスタの主キーは社員コードである。社員コードは、1桁目がグループ内の各会社を表すアルファベット、2桁目が雇用形態を表すアルファベット、3桁目から6桁目までが各社員に割り当てられた数字の連番になっている。  (2)A社グループの社内システムは、シングルサインオンを実現しており、共通パスワードは人事マスタに対応して管理されている。共通パスワードは社員が随時変更可能であり、社内システムにリアルタイムで反映される。  (3)社員の所属部署は人事マスタで管理され、組織変更や人事異動の際には、発令日の前夜のバッチ処理で新所属部署に変更される。
 また、A社グループの海外出張の実態を調査したところ、常時、全社員の数%に当たる約100人が海外出張をしていることが分かった。海外出張者については、危機管理の観点から、誰がどの都市に出張しているかの情報を、総務部が正確に把握している。
  〔新システムの機能〕  新システムの機能の概要は、次のとおりである。
 (1)アクセス方法   ・PC及び携帯電話からの入力、参照が可能である。   ・固定電話からの入力が可能である。   ・Webページへのアクセスの際は、利用者ID及びパスワードによる認証を行う。
 (2)緊急連絡先登録機能   ・緊急連絡先を1人最大5件まで、優先順位を付けて登録する。電子メールアドレス、携帯電話メールアドレス、固定電話番号及び携帯電話番号が登録可能である。
 (3)安否確認応答機能  ・安否確認メッセージは、あらかじめ準備されたパターンの中から選択する。確認する安否情報は、本人の現在地、本人及び家族の安否、出社可能かどうかなどである。  ・登録された緊急連絡先がメールアドレスか電話番号かを自動判別し、メール送信又は電話の発呼を行う。メールには応答用WebページのURLを埋め込み、このURLにアクセスすることによって社員が自動認証されて安否情報を登録することができる。電話では、質問に対して数字キーで応答し、その結果が登録される。  ・電話の発呼に応答しない場合は、発呼を指定回数繰り返す。この回数はシステムの初期設定時に任意に指定できる。  ・対象者全員に送信又は発呼が終了すると、安否情報が登録されていない社員について、第2連絡先へ送信又は発呼を行う。同様に第5連絡先まで繰り返す。
 (4)安否情報自主登録機能   ・社員が、安否確認システムへ直接アクセスすることによって、自主的に安否情報を登録する。
 (5)安否情報参照機能   ・安否確認メッセージに対する応答の有無、登録された安否情報の明細及び集計表を参照する。集計表の集計単位は、会社、本部、部など5階層まで指定できる。
 (6)個人マスタ管理機能   ・利用者ID、氏名、所属部署、役職及びパスワードを管理する。   ・利用者IDは10桁以内の数字である。
〔新システムの導入に当たっての対応〕  B課長は、新システムの導入に当たり、社内システムとのインタフェースを確認し、対応が必要な項目を洗い出した。それらの対応内容を検討した結果、新システムの特性上、カスタマイズは行わず、社内システム側のインタフェースの変更、システム運用の変更及び業務の変更によって対応することを決定した。B課長が検討した内容及び結果を次に示す。
 (1)社員コード変換   新システムの利用者IDを各社員に割り当てるに当たり、次の三つの方式を考えた。   ①各社員に新たに一意の番号を割り当てる。   ②会社及び雇用形態を表す2桁のアルファベットの組合せを、それと対応する数字3桁に変換し、その後に社員コードの下4桁の数字を加え、7桁の新番号を作成する。   ③会社及び雇用形態を表す2桁のアルファベットを、それぞれ01~26の数字に置き換えて4桁の数字とし、その後に社員コードの下4桁の数字を加え、8桁の新番号を作成する。   B課長は、安否確認システムの利用頻度が少なく、また、社員が緊急時に利用しなければならないことを考慮して③を採用することを決定した。
 (2)パスワード連携   新システムのパスワードに利用できる文字及び桁数は、現在の社内システムで使用しているパスワードに利用できる文字及び桁数と変わらないので、同じパスワードが使用できる。しかし、社内システムのパスワードをリアルタイムで新システムに反映させるには、大幅な改修が必要になる。そこで、リアルタイムでの反映は行わず、夜間のバッチ処理で反映させることにした。   社内システムと同じパスワードに限定するために、新システムのパスワード変更機能は使用させないことにした。
 (3)所属部署の変更   組織変更や人事異動に伴う所属部署の変更は、発令日の前夜のバッチ処理で実施しているので、新システムも同じタイミングで更新することにした。   〔新システムの運用の検討〕  B課長は、新システムの概要を総務部に説明し、併せて新システムの運用について協議して次のとおり決定した。  ・新システムにアクセスするためのURLは、全社員が常時携帯している危機管理ハンドブックに記載する。  ・新システムに登録する緊急連絡先の優先順位は、携帯電話メールアドレス、電子メールアドレス、携帯電話番号、自宅電話番号の順とする。  また、B課長は、次の三つの目的のために、今後、年2回定期的に安否確認訓練を行うことを提言した。  ①システムが正常に動作することを確認するため  ②社員が操作に慣れるため  ③全社員への緊急連絡という観点から、あるリスクを回避するため
 さらに、個別確認の対象となる人数を少なくするために、ある情報を確認担当者に提供すべきであることを提言した。

設問1

新システムには、安否確認応答機能があるにもかかわらず、安否情報自主登録機能が実装されている。安否情報自主登録機能は、どのような場合にどのように利用することを想定して実装されているか。35字以内で述べよ
模範解答
緊急連絡を受けられない場合に,自主的に安否情報を登録すること
解説

模範解答の核心キーワード・論点整理

  • 安否情報自主登録機能
  • 利用想定:緊急連絡を受けられない場合
  • 目的:社員自身が自主的に安否情報を登録できること
  • 背景:「緊急連絡」と「安否登録」は異なる接点、双方向のコミュニケーションであることへの配慮

なぜこの解答になるのか(問題文の引用を交えた説明)

問題文の【新システムの機能】には以下の記述があります。
(3)安否確認応答機能
・登録された緊急連絡先がメールアドレスか電話番号かを自動判別し、メール送信又は電話の発呼を行う。
(中略)
(4)安否情報自主登録機能
・社員が、安否確認システムへ直接アクセスすることによって、自主的に安否情報を登録する。
これは、緊急連絡を受け取って安否を登録する仕組み(安否確認応答機能)とは別に、社員が自分でシステムにアクセスして安否を登録できる仕組みがあることを示しています。
また【検討事項】の要件(5)には、
安否登録は、電子メール、電話のどちらでも行えるようにする。入力はできるだけ容易にし、本人の現在地、本人及び家族の安否、出社可能かどうかなどを登録できるようにする。
このことから、緊急連絡による一方通行の通知と、社員の自主的な登録を組み合わせていることが分かります。
さらに【新システムの運用の検討】でB課長は、
全社員への緊急連絡という観点から、あるリスクを回避するため年2回定期的に安否確認訓練を行うことを提言。(中略)③全社員への緊急連絡という観点から、あるリスクを回避するため
この「あるリスク」とは、社員全員に緊急連絡が確実に届くとは限らないリスクであることが想定されます。
よって、「安否情報自主登録機能」は、
  • 緊急連絡が社員に届かず応答できなかった場合や、
  • 通信手段が使えない場合などに
  • 社員本人が自らWeb等からアクセスして安否を報告できるための機能
として実装されていることを意味します。

受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ

  • 緊急連絡を必ず受けるものという誤解
    緊急連絡が届かなかった場合の対策機能である点を見落としがち。
  • 安否確認応答機能と安否情報自主登録機能の混同
    「安否確認応答機能」は緊急連絡に対する応答、「自主登録」は自主的に安否を登録するものと理解する。
  • 電話やメールのみの応答と考える誤解
    自主登録機能はWebアクセスなど多様なアクセス手段を想定。

試験対策として覚えておくべきポイント

  • 安否確認システムにおいては、「緊急連絡による応答」と「自主的な安否登録」は両輪であることが多い。
  • 緊急連絡が届かない、または応答できないケースに備え、必ず自主的に安否登録できる仕組みが必要。
  • 解答は、「どのような場合に」「どのように」利用するか(条件+利用方法)を的確に簡潔に用いることが求められる。
  • 問題文の機能説明と運用検討部分の記述をしっかり拾い、矛盾なく説明できる理解深度が合格に必要。

まとめ表

項目内容
機能名安否情報自主登録機能
利用想定緊急連絡を受けられない場合
利用方法社員が直接システムにアクセスして自主的に安否を登録
問題文の要点- 新システム機能(4) 直接アクセス可
- 検討事項(5) 入力は容易に
試験のポイント緊急連絡届かないケースの対応策を把握、応答と自主登録の違いを理解すること

この理解を深めることで、安否確認システムの運用や設計思想の全体像を効率良くつかめるでしょう。

設問2(1)〔新システムの導入に当たっての対応〕について、(1),(2)に答えよ。

社員コード変換の方式について、、③を採用した理由を25字以内で述べよ。
模範解答
社員コードだけで容易に導ける利用者IDだから
解説

模範解答の核心となるキーワードや論点

  • 【社員コードだけで容易に導ける利用者ID】
  • 変換ルールが明確かつ単純で、慣れた社員が理解・利用しやすい
  • 新たな番号の割り当てなしで既存情報から自動生成可能
  • 緊急時利用の容易性・操作性を重視

なぜその解答になるのか(問題文引用を用いた論理的説明)

問題文(新システムの導入に当たっての対応 (1))には、社員コード変換の3つの方式が示されています。
方式番号内容
新たに一意の番号を割り当てる
会社・雇用形態2桁アルファベットを数字3桁に変換し、下4桁と結合し7桁の新番号を作成
会社・雇用形態2桁アルファベットをそれぞれ01~26の数字に置き換え4桁の数字とし、下4桁と結合する
B課長は「③を採用」した理由として、模範解答にある「社員コードだけで容易に導ける利用者IDだから」と述べています。
これは社員コードの構造:
  • 1桁目:グループ内の会社(アルファベット)
  • 2桁目:雇用形態(アルファベット)
  • 3~6桁目:連番(数字)
を活用して変換するため、社員は自分の「社員コード」を知っているので、「利用者ID」への変換や推測が簡単になることを意味しています。
また、問題文には「安否確認システムの利用頻度が少なく、社員が緊急時に利用しなければならないことを考慮」したと記載されており、
  • 緊急時にIDが複雑・分かりにくいと混乱する恐れがある
  • 既存の社員コードの構造を活かして簡単にIDを導出できる③は使いやすい
という判断に繋がります。
その他の方式は、
  • ①は一意の番号を新たに割り当てるため、覚える負担が大きい
  • ②は数字3桁への変換があるが、問題文中の③の方がアルファベット別に01~26の数字に置き換えるため規則的で分かりやすい
ため、③が最も社員にとって理解・利用しやすい方式であるといえます。

受験者が誤りやすいポイント・ひっかけの選択肢

  • 「新たに番号を割り当てる①方式」に対して、シンプルさや覚えやすさで選ぶと思い込みやすいが、問題文の背景から緊急時に覚えにくく混乱する可能性がある点を見逃す。
  • ②方式は「数字3桁に変換」とあるが、③方式のほうがアルファベットを2桁ずつ数字に置き換え分かりやすく扱いやすい。
  • 問題文の「緊急時」「利用頻度の少なさ」などの条件を無視し、「パターン化」「一意性だけ」を重視しがち。
  • パスワードや認証関係と混同して「複雑さを増す方が安全」と錯覚する場合があるが、緊急の利用で混乱を起こさないことが最重要。

試験対策として覚えておくべきポイント・知識

  • 緊急時に使うシステムのユーザーIDや操作方法は、できる限り既存の情報や規則でシンプルに設計することが重要。
  • 社員コードやマスタの既存構造を活用した変換方法のメリットは「易導性」「覚えやすさ」「運用コスト削減」である。
  • カスタマイズせずに既存システムの運用や業務ルールで対応する場合、利用者の視点(操作の簡便性)を重視する。
  • 似たような番号変換方式でも、「規則の単純さ」と「利用者の理解のしやすさ」が選択基準になる。
  • 問題の背景にある「安否確認システムは利用頻度が少なく緊急時に使う」という特性を見逃さない。

以上の点を踏まえて、緊急時にも社員がスムーズに利用できることを評価し、「社員コードだけで容易に導ける利用者IDだから」という短文で表現されています。

設問2(2)〔新システムの導入に当たっての対応〕について、(1),(2)に答えよ。

パスワード連携について、社内システムのシングルサインオンのパスワードのリアルタイム連携を採用しなかったことによって、全社員に周知すべき事項がある。。その内容を40字以内で述べよ。
模範解答
パスワードを変更した日は,安否確認システムには旧パスワードでアクセスすること
解説

コアキーワード・論点整理

  • パスワード連携の方法:社内システムのパスワードをリアルタイム連携させることはせず、夜間バッチ処理での反映にしたこと
  • パスワード同期の遅延:社員が社内システムのパスワードを変更した場合、新システム(安否確認システム)には翌日夜間に反映されるため、変更直後は旧パスワードでのみアクセス可能
  • ユーザーへの周知事項:「パスワード変更した日」は新システムに旧パスワードでアクセスする必要があること

解答がなぜそうなるのか(問題文の引用・説明)

問題文〔新システムの導入に当たっての対応〕(2)パスワード連携には次の記述があります。
新システムのパスワードに利用できる文字及び桁数は、現在の社内システムで使用しているパスワードに利用できる文字及び桁数と変わらないので、同じパスワードが使用できる。しかし、社内システムのパスワードをリアルタイムで新システムに反映させるには、大幅な改修が必要になる。そこで、リアルタイムでの反映は行わず、夜間のバッチ処理で反映させることにした。
社内システムと同じパスワードに限定するために、新システムのパスワード変更機能は使用させないことにした。
このことから、
  • パスワードの変更は社内システムで行い、それが新システムにリアルタイムに反映されないため、
  • パスワード変更当日は新システムのパスワードが旧のままであるため、
  • 新システム利用時はその日のうちは旧パスワードでログインしなければならない、
というルールが必要となります。これを社員全員に周知することが不可欠です。

受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ

  • リアルタイム連携の中断が混乱を招くことを見落とす
    変化が即時に反映されない点を軽視し、「同じパスワードが使えるなら問題ない」と誤認しやすい。
  • パスワード変更機能の無効化の意味を理解しにくい
    新システムでのパスワード変更が不可である理由は、「社内システムとのパスワード同期のため」との点を見逃しやすい。
  • 周知事項の内容誤解
    「新パスワードでアクセスができない」というニュアンスの問題文なので、「新パスワードを使う」と教えてしまう誤り。

試験対策として覚えておくべきポイント

  1. パスワード同期の方式と影響
    リアルタイム連携ができない場合は、バッチ更新までパスワードが旧状態となるため、その期間の認証ルールを周知する必要がある。
  2. シングルサインオン(SSO)であってもパスワード変更時の連携遅延があるケース
    SSOの便利さの裏で、個別システム間の連携方式により認証トラブルが起こることがある。
  3. システム導入時の運用ルールとユーザー教育は不可欠
    技術的に最適解が取れない場合は、運用面でリスクをカバーするのが現実的な対応策になる。
  4. 新システムのパスワード変更機能を停止する理由を押さえる
    社内システムとの整合性維持のため、新システムでは個別パスワード変更を禁止するケースがある。

以上の理解に基づき、模範解答の「パスワードを変更した日は,安否確認システムには旧パスワードでアクセスすること」は必須のユーザー周知事項として正解となります。

設問3(1)〔新システムの運用の検討〕について、(1)~(3)に答えよ。

緊急連絡先について、携帯電話メールアドレスを最優先にしたのはなぜか。40字以内で述べよ。
模範解答
携帯電話は常時携帯している可能性が高く,任意のタイミングで応答できるから
解説

1. 模範解答の核心となるキーワードや論点

  • 携帯電話は常に携帯している可能性が高い
  • 任意のタイミングで応答できる
  • 優先順位として「携帯電話メールアドレス」が最上位に設定されている理由

2. なぜその解答になるのか【問題文の引用を交えた論理的説明】

問題文の〔安否確認システムの導入に向けての検討〕の(2)では、「A社グループでは、ほとんどの社員が携帯電話を保有しているので、これを有効に活用する」と明記されています。つまり、携帯電話は社員にとって常に持ち歩いている通信手段であり、緊急連絡の最適な控え先といえます。
また、〔新システムの運用の検討〕では、緊急連絡先の優先順位を「携帯電話メールアドレス、電子メールアドレス、携帯電話番号、自宅電話番号」と定めており、最優先は携帯電話メールアドレスとなっています。これは、携帯電話のメールは「任意のタイミングで応答できる」特性があるためで、電話のように受電しなければならず相手の都合で応答が難しい場合があるのとは異なります。
緊急連絡では、迅速かつ確実に連絡が届いて、かつ相手がすぐ応答できることが重要なので、「携帯電話メールアドレス」が最優先に選ばれているのです。

3. 受験者が誤りやすいポイント・ひっかけの可能性

  • 電話番号(携帯電話番号)を最優先と考える間違い
    電話連絡は確実性が高いと考えられがちですが、相手が電話に出られない・通話中などの理由で応答できない場合があります。一方、携帯電話メールは電波があればいつでも受信可能で、返信もタイミングを見てできる点が違います。
  • 固定電話を優先と誤解する
    固定電話は携帯性に劣り、出先で電話に応答できないケースが多いため、緊急連絡では優先度が低いです。
  • 電子メールアドレス(PCメール)を最優先と間違う
    PCメールは携帯電話に比べて、いつでも受信確認できるとは限らず、また携帯メールよりも即時性が劣るため優先順位は下になります。

4. 試験対策として覚えておくべきポイント・知識

  • 緊急連絡先の優先順位は、携帯電話メールアドレスが最上位に設定されるケースが多い理由は「持ち歩き状況」と「いつでも確認できる利便性」があるため。
  • 電話連絡は「リアルタイム応答」が必要だが、メールは都合の良いタイミングで確認・応答できるため使い分けられる。
  • 携帯電話の特性(常に携帯している、いつでも受信可能)を理解した上で活用されることが多い。
  • 固定電話やPCメールは、それぞれ移動性や即時性で携帯電話メールに劣るため、緊急時の優先度は低く設定される傾向にある。
  • 情報処理技術者試験では、要件に書かれた「なぜその配慮がされているのか」を本文から論理的に読み取る力が問われるので、本文の根拠箇所を具体的に確認しながら解答をまとめる訓練が重要です。

設問3(2)〔新システムの運用の検討〕について、(1)~(3)に答えよ。

安否確認訓練を年2回定期的に行うことにした目的に挙げられている、回避すべきリスクとはどのようなリスクか。35字以内で述べよ
模範解答
社員が緊急連絡先の変更を登録せず,緊急連絡が届かなくなるリスク
解説

1. 模範解答の核心となるキーワードや論点の整理

  • キーワード
    • 「緊急連絡先の変更を登録しない」
    • 「緊急連絡が届かなくなるリスク」
    • 「安否確認訓練によるリスク回避」
  • 論点
    • 社員の緊急連絡先情報は本人が登録・管理するため、情報が更新されない可能性がある。
    • 連絡先が古いままだと、緊急時に連絡手段が機能しない。
    • 定期的な訓練で社員に操作を習熟させるとともに、連絡先の最新化を促し、連絡が届かないリスクを低減する。

2. なぜその解答になるのか(問題文の記述を踏まえた論理的説明)

B課長が年2回安否確認訓練を行う目的として、③に「全社員への緊急連絡という観点から、あるリスクを回避するため」とあります。
このリスクの正体は、問題文の以下の記述から読み取れます。
  • 〔安否確認システムの導入に向けての検討〕(3)
    「社員の緊急連絡先は、社員が自ら登録する。」
    また、複数の連絡先が登録可能とあることから、本人が随時登録・変更しないと古い情報のままとなってしまう可能性がある。
  • 〔新システムの運用の検討〕
    「緊急連絡先の優先順位は携帯電話メールアドレス、電子メールアドレス、携帯電話番号、自宅電話番号の順とする」
    つまり、緊急連絡が確実に届くためには連絡先情報の正確さが必須。
  • B課長は「社員が操作に慣れること」と「システムが正常に動作すること」も同時に目的として挙げているが、それだけではない、三つめの目的が「あるリスクの回避」である。
これらから、訓練により社員が自らの緊急連絡先情報を最新の状態に更新しやすくすることで、緊急時に連絡が届かない、つまり安否確認が機能不全に陥るリスクを回避する狙いがあることがわかります。

3. 受験者が誤りやすいポイントやひっかけの選択肢とその理由

  • 誤りやすいポイント
    • 「システムの障害」や「通信手段の不備」をリスクと考える誤り
      → 問題文では「システムが正常に動作すること」は別目的(①)としており、③のリスクはそれ以外のもの。
    • 「個別確認の対象を減らすこと」や「社員の安否不明者の増加」など、安否確認活動の効率や精度を挙げる誤り
      → リスクは「連絡先が古くて連絡が届かない」ことに直接関係。
    • 「社員が安否登録をしないこと」そのものをリスクとする誤り
      → 問題文では「緊急連絡先の変更登録欠如」に焦点。
  • ひっかけとなる選択肢例
    • 「通信回線の断絶」
    • 「システムログインの失敗」
    • 「社員が緊急連絡を無視すること」
      いずれも実際のリスクの一部や操作ミスであるが、今回の設問の文脈では該当しない。

4. 試験対策として覚えておくべきポイントや知識

  • 安否確認システムの要件では、「本人による情報管理」が多くの課題の源泉であることを意識する。
    → 社員の登録・更新義務が確実に行われないと、全体の通知・確認機能に支障が出る。
  • 定期的な訓練の目的は「システム動作確認」「利用者の操作習熟」「リスク回避」など複数あることが多い。
    → それぞれの目的の違いを問われる問題では、問題文の記述をしっかり確認し状況に適したリスクや目的を特定する必要がある。
  • 緊急連絡先の優先秩序や登録方法はシステム要件で明示されていることが多い。
    → 正確な情報に基づく通知手段の確保が重要。
  • 安否確認システムは、業務運用・社員の行動ルールと密接に関連しているため、単なるIT技術だけでなく運用面での工夫が問われることを理解する。

以上のポイントを押さえ、設問の趣旨に沿ったリスクを明確に把握できるようにしてください。

設問3(3)〔新システムの運用の検討〕について、(1)~(3)に答えよ。

個別確認の対象となる人数を少なくするために、確認担当者に提供すべき情報はどのような情報か。その内容を10字以内で、また、その情報を提供する理由を30字以内で述べよ。
模範解答
内容:海外出張者の一覧 理由:海外出張で国内にいない社員は個別確認の対象としないから
解説

模範解答の核心キーワードと論点整理

項目内容
内容海外出張者の一覧
理由海外出張で国内にいない社員は個別確認対象外
  • 個別確認:安否確認メッセージ送付後、安否登録がされていない社員について、地震区域内にいる可能性がある者のみ確認担当者が直接安否確認を行う。
  • 対象人数の縮小:確認作業を効率化するため、確認不要な者(地震の影響がないと判断できる者)を除外する。
  • 提供すべき情報:国内にいないことが確実な社員の情報、具体的には「海外出張者の居場所」が重要。

なぜこの解答になるのか(問題文の引用を交えて説明)

問題文の以下の記述が核心です。
(8)安否情報が一定時間以内に確認できない社員のうち、地震区域にいないことが明らかな社員については、一旦、安否確認作業の対象外とする。
地震区域にいる可能性がある社員については、確認担当者が様々な手段で安否の確認を行う。この作業を個別確認という。
個別確認は短時間で行うことが望まれるので、対象となる人数はできるだけ少なくなるようにする。
一旦安否確認の対象外とした、地震区域にいないことが明らかな社員については、個別確認終了後に別途安否確認を行う。
この文章から、地震による影響を受ける可能性がない社員(つまり、地震が発生した地域にいないことがはっきりしている社員)は即座の個別確認の対象から外し、確認の手間を削減したい意図が読み取れます。
さらに、現状調査部分には、
A社グループの海外出張の実態を調査したところ、約100人が海外出張をしていることが分かった。海外出張者については、危機管理の観点から、誰がどの都市に出張しているかの情報を、総務部が正確に把握している。
とあり、海外出張者は通常、国内の地震の影響を受けないため、彼らを「地震区域にいないことが明かな社員」として扱えます。
したがって、個別確認の対象人数を少なくするためには、「海外出張者の一覧」を確認担当者に提供し、彼らを個別確認の対象から除外することが合理的であると判断できるのです。

受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ

  • 単に「居場所情報」「現在地」だけでは不十分
    「本人の現在地」情報は安否登録時に扱われますが、個別確認の段階で運用側が把握・利用できる事前の情報として、確実なものは海外出張者の一覧です。
    現地情報が不確実な場合や揺れた地域から離れた国内出張などは判別しにくいため、すぐに対象外とできません。
  • 国内出張者と海外出張者の区別をする必要がある
    問題文で「海外出張者の正確な把握」が強調されており、国内出張者の情報は不確定の可能性が高い。よって、海外出張者のみを対象外とできます。
  • 「海外出張者の一覧」以外の情報(家族の安否情報など)は不適切
    家族の安否は本人の状況把握には役立ちますが、個別確認の対象人数集約という観点では外部要因のため役に立ちません。

試験対策として覚えておくべきポイント・知識

  1. 個別確認とは何か
    個別確認は安否確認後、回答がない場合に担当者が電話等で直接安否を確認する作業であり、対象人数削減が効率化の鍵です。
  2. 地震区域の特定と事前情報の重要性
    地震の影響範囲や社員の所在地域を正確に把握することが、迅速かつ効率的な対応を実現します。
  3. 海外出張者管理の意義
    災害時に影響を受けない社員を除外するため、誰が海外にいるか正確に管理することは重要なリスク管理策です。
  4. 「要件」と「現状調査」から導く解決策
    問題文の要件定義・現状調査の情報をもとに、運用面やシステム対応策を具体的に考える力が必要です。

以上のポイントを理解すれば、「海外出張者の一覧」を提供することが、個別確認の対象者を絞る合理的かつ効果的な方法であると納得できるでしょう。
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