システムアーキテクト試験 2013年 午後102


銀行のATM(現金自動預払機)サービスに関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ

 E銀行は、このたび、国内普通預金口座を対象にした海外ATMサービスを実施することにした。   〔海外ATMサービスの概要〕  (1)海外ATMサービスを利用できる時間は、24時間365日である。  (2)海外で共通にATMサービスを提供する国際ネットワーク(以下、海外共通ネットワークという)を使用することによって、世界各国にある海外共通ネットワーク加盟店のATMを利用できる。  (3)海外ATMで利用できる取引は、現金の出金だけである。現地通貨で払い出し、即時に円に換算して、円貨で口座から引き落とす。   〔E銀行の勘定系システム及び海外ATMサービスのシステム概要〕  (1)E銀行の勘定系システム(以下、E銀行システムという)は、システムメンテナンス時間を除いて常時稼働している。システムメンテナンス時間は、毎週日曜日の23:00から翌月曜日の6:00までである。なお、曜日・時間はすべて日本を基準に示す。  (2)国内ATMでは、現金の入出金、振込及びカード暗証番号変更サービスが利用できる。国内ATMは、毎週日曜日の21:00から翌月曜日の7:00まで停止している。  (3)口座の開設、及び顧客名、顧客住所、顧客電話番号などの顧客属性の変更は、平日の8:00から21:00まで支店窓口で受け付けている。  (4)国内ATMからの出金については、次の条件をすべて満たしたときに実行している。海外ATM利用時の出金についても、同様の処理を行う。   ①ATMから送信された出金取引の情報と口座元帳データベース(以下、E銀行元帳という)の店番号、口座番号及びカード暗証番号が一致すること   ②カードの盗難又は紛失の設定(以下、事故カードの設定という)がないこと   ③出金額が支払可能残高の範囲内であること  (5)海外ATMサービスを利用するには、事前に支店窓口又はWebでの申込みが必要である。申込みの受付は、平日の8:00から21:00までとする。  (6)海外ATMサービスでは、リアルタイムで海外ATMからの出金取引を可能にする。ただし、日曜日の21:00から翌月曜日の7:00までについては、業務提携会社D社に海外ATMサービスの業務代行を委託する。D社は、既に海外でのATMサービスの業務代行を24時間365日実施するシステム(以下、D社システムという)を稼働させている。  (7)D社で代行処理する出金取引の場合も(4)と同じチェックを行う。  (8)D社で代行処理した出金取引については、代行処理時間終了後に、E銀行システム宛てに送信し、E銀行元帳に反映する。この元帳反映時には、E銀行で(4)のチェックを再度行う。  (9)キャッシュカードを保有している全口座(約500万口座)のうち、3年間で約5%の25万口座が海外ATMサービスの対象になると予測している。また、海外ATMの1日の出金取引件数は約2,400件、全時間帯でほぼ同様な取引件数になると予測している。   〔ATMヘルプデスクの業務〕  (1)E銀行では、国内ATMサービス稼働時間帯は、ヘルプデスクで、顧客の入出金状況の照会対応、事故カードの設定など各種届出の受付・設定を実施している。事故カードの設定の受付時は、店番号・口座番号、顧客名、顧客住所及び顧客電話番号を確認した上で、設定処理を行っている。  (2)代行処理時間帯については、ヘルプデスクの業務もD社に委託する。委託内容は、海外ATMサービスを申し込んだ顧客だけについて、D社のヘルプデスクで出金状況の照会及び事故カードの設定を行うこととし、事故カードの設定の受付時は、E銀行と同じ確認をした上で、設定処理を行う。   〔海外ATM利用時の処理概要〕  海外ATM利用時のデータの流れを図1に、曜日・時間帯ごとの処理概要を図2に示す。海外ATMの利用時は、海外共通ネットワーク及びD社システムを経由して、E銀行元帳を更新する。時間帯によって、D社システムで代行処理を行い、D社の代行口座元帳データベース(以下、D社元帳という)を更新する。
システムアーキテクト試験(平成25年度 午後I 問2 図1)
システムアーキテクト試験(平成25年度 午後I 問2 図2)
 代行処理した取引の件数が増加した場合、図2の処理3の開始時刻の見直しを行う。見直しを行わない場合、E銀行元帳に不整合が生じる可能性がある。
〔D社元帳の更新処理の概要〕  D社で代行処理を行うために、海外ATMサービス対象口座(以下、対象口座という)について、E銀行元帳の情報を基に、D社元帳の更新を行う。  E銀行からD社への送信データ及びD社元帳の属性を表1に、D社元帳の更新処理の概要を表2に示す。
システムアーキテクト試験(平成25年度 午後I 問2 表1)
システムアーキテクト試験(平成25年度 午後I 問2 表2)
 D社元帳は、次の2種類のタイミングで更新を行うことにし、D社帳の整合性を確保する対応をD社で実施する。  (1)E銀行がバッチ処理で送信したデータについては、全データ受信後にD社元帳を更新する。全データ受の終了予想時刻は2:00、D社元帳の更新処理性能は3,000件/分である。  (2)E銀行がリアルタイムで送したデータについては、受信後、即時にD社帳を更新する。   〔商品企画部からの追加要望〕  商品企画部からの追加要望とその対応を表3に示す。
システムアーキテクト試験(平成25年度 午後I 問2 表3)

設問1(1)〔海外ATM利用時の処理概要〕について、(1),(2)に答えよ

図2中の処理3の開始時刻を見直す必要があるのは、日の代行取引件数が何件を超える場合か。その件数を答えよ。
模範解答
1800
解説

1. 模範解答の核心となるキーワードや論点の整理

  • 処理3の開始時刻の見直し:処理3は「月曜日6:30〜7:00」に行われ、D社代行した取引のE銀行元帳への反映処理などを行う。
  • 代行処理取引件数の上限:D社元帳の更新処理性能が「3,000件/分」であること。
  • 代行処理時間終了後の取引反映:D社からE銀行への送信時間は「1件/秒」で、7:00までに送信完了可能。
  • 処理3の時間帯(30分)に反映可能な最大件数の計算
  • 【問題文】から、「代行処理した取引の件数が増加した場合、図2の処理3の開始時刻の見直しを行う」とあり、不整合回避に関連。

2. なぜ「1,800件」が正解になるのか(論理的な説明)

【ポイントの引用と説明】

  • D社元帳の更新処理性能:3,000件/分
    → これはバッチでE銀行から送信されるデータをD社元帳に反映する処理速度です。ただし、この性能は「土曜0:00~2:00や日曜0:00~2:00の送信バッチ」に関わるものであり、処理3の内容と直接の計算ではありません。
  • 処理3の内容(図2の説明)
    処理3では「代行処理として成立した出金取引及び事故カードの設定」を取引発生順にE銀行システム宛にトランザクション送信し、E銀行元帳を更新します。
    ここで重要なのは、「D社からの送信時間は1件/秒で、7:00までに処理3を完了可能」であること。
  • 処理3の時間帯
    処理3の開始時刻は「月曜日6:30から7:00までの30分間」です。30分 = 1800秒。
  • 送信速度と可能件数の計算
    1件/秒 × 1800秒 = 1800件
    つまり、処理3の30分間で反映できる最大取引件数は1,800件。
  • 問題文の記述の意味
    「代行処理した取引の件数が増加した場合、処理3の開始時刻の見直しを行わない場合は不整合が発生する」とあります。
    処理3で扱う代行取引数が1,800件を超えると、30分で全件を反映できず、元帳整合性が保てなくなるため、開始時刻を早めたり処理時間を伸ばす必要があります。

3. 受験者が誤りやすいポイントやひっかけ

誤りやすいポイント理由と対策
「D社元帳更新処理性能3,000件/分」と「処理3の送信速度1件/秒」を混同する「3,000件/分」はD社元帳更新のバッチ処理の性能であって、処理3でE銀行元帳へ送信する速度ではない。
問題文の処理3は1件/秒で送信に限定されるため、ここに着目。
30分間の秒数を間違える(例えば、60分や15分とする)処理3の時間帯は「6:30~7:00」と30分間であるため、1800秒であることを正確に把握すること。
代行取引件数は「1日に約2,400件」と問題文にあるが、これは全時間帯平均である24時間均等割り除しても1時間あたり約100件で、処理3の時間内に処理可能な件数は1,800件となり、余裕があることを理解する。
D社元帳のバッチ送信時間帯がいつか(0:00~2:00)を処理3と混同するバッチ送信は「土曜・日曜0:00~2:00」に行われ、処理3(6:30~7:00)は別途並行して行う。問題文の時間帯区分を混同しない。

4. 試験対策として覚えておくべきポイント・知識

  • 時間帯ごとの処理分離と性能制限
    銀行の勘定系や代行処理では処理時間帯を区分し、それぞれに処理性能制限が存在することを理解する。
  • 取引件数と処理速度から利用可能な処理量を算出する力
    取引件数制限やシステム性能(件数/秒や件数/分)を基に最大処理可能件数を計算できるスキルは重要。
  • リアルタイム処理とバッチ処理の違いを正確に把握する
    代行システムによるバッチ処理と、リアルタイムの即時更新の違いを区別し、処理時間帯を正しく認識すること。
  • 代行処理から本体(E銀行システム)への反映処理の仕組み
    代行した取引は最終的に本体システムに反映されるため、反映可能な時間帯・速度に制約があること。
  • 追加要望による仕様変更の影響分析
    ノウハウ問題として、仕様変更が処理速度・タイミングに与える影響にも注意が必要。

まとめ表:処理関連時間・性能のポイント

項目内容
処理3の時間帯月曜日 6:30 ~ 7:00(30分間)
1件あたりの送信速度1件/秒
処理3で処理可能な最大件数1件/秒 × 1800秒 = 1,800件
D社元帳更新処理性能3,000件/分(バッチ処理速度)

以上を踏まえ、問題の答えは 1,800件 であることが説明できます。

設問1(2)〔海外ATM利用時の処理概要〕について、(1),(2)に答えよ

図2中の処理3の開始時刻の見直しを行わない場合、E銀行元帳に不整合が生じる可能性がある。。その理由を35字以内で述べよ。
模範解答
代行処理した取引と国内 ATM取引の順序が逆転する可能性があるから
解説

1. 模範解答の核心キーワードと論点整理

  • 「代行処理した取引と国内ATM取引の順序が逆転する可能性」
  • 処理3の開始時刻の見直しが行われない場合に起きる
  • E銀行元帳の整合性保持が損なわれるリスク

2. なぜこの解答になるのか(論理的説明)

問題文の中で、以下の記述が重要です。
  • 代行処理時間帯(日曜日21:00~月曜日7:00)は、D社システムが海外ATM取引を一時的に処理し、その取引をE銀行元帳に反映するのは「代行処理時間終了後の処理3の時間帯(月曜6:30~7:00)」で行うこと。
    「代行処理として成立した出金取引及び事故カードの設定を、取引発生順にE銀行システム宛てにトランザクションとして送信し、E銀行元帳を更新する」(図2 処理3の説明)
  • この反映処理は1件/秒のペースで行われるため、代行処理されていた多くの取引を順次E銀行元帳に反映するのに時間を要します。
  • 代行処理の反映が終了した口座や代行処理のなかった口座については、リアルタイム取引が開始されることになっています。
    「代行処理した取引の反映完了した口座に対して、6:30以降に海外ATMから発生した取引をリアルタイムでE銀行システム宛てに送信し、E銀行元帳を更新する」
  • もし処理3の開始時刻が早まりすぎて、リアルタイム取引が代行処理の反映より先にE銀行元帳に入ってしまうと、元帳の取引記録において「代行処理で行われた取引よりも後に発生した取引」が、先に記録されてしまい、時系列順が逆転してしまいます。
  • また、代行処理時間外(処理1)に発生する国内ATMや海外のリアルタイム取引も同様の順序整合性を保つ必要があります。
以上より、処理3の開始時刻を適切に設定しないと、「代行処理した取引」と「国内ATM(リアルタイム)取引」の処理順序が逆転して、E銀行元帳に不整合(時系列の矛盾)が生じるのです。

3. 受験者が誤りやすいポイント・ひっかけの選択肢について

  • 「代行処理とリアルタイム処理の違い」を意識しない
    取引は常にリアルタイムで処理されるイメージが強いため、代行処理があることやその処理とE銀行元帳への反映が別のタイミングである点を見落としやすいです。
  • 「処理3の役割」を理解しない
    処理3は単なる起動時間ではなく、代行処理のトランザクションを正しい順番でE銀行元帳に反映し、整合性を保つ重要な処理です。これを知らないと、開始時刻変更の意味が理解できません。
  • 不整合の意味を抽象的にとらえる
    「不整合」が取引件数の増加による機械的負荷と勘違いしがちですが、実際は「取引の記録順が逆になる」という論理的な問題です。

4. 試験対策として押さえておくべきポイント

ポイント内容
代行処理とリアルタイム処理の時間的関係代行処理期間中に処理した取引は、代行処理終了後に順番通り元帳へ反映するため順序管理が重要
処理3の意義と詳細代行処理取引の反映とリアルタイム取引の切り替えを担い、元帳の時系列順序の不整合を防ぐ処理である
時間帯による処理分割の理解処理1(リアルタイム)、処理2(代行処理)、処理3(整合性確保補完処理)の時間ごとの役割分担を正確に把握
不整合が生じる具体的事象とは?取引記録の時系列が前後逆転し、残高管理や不正検知に支障が出るなど銀行業務に重大な影響が及ぶ

この問題は、システムの処理タイミングとデータの反映タイミングのズレが、実際の口座情報や取引記録の整合性にどう影響するかを理解することが重要です。
情報処理技術者試験の午後問題では、こういったリアル業務とシステム処理の連携、整合性についての深い理解を求められます。しっかり押さえておきましょう。

設問2(1)【D社帳の更新処理の概要〕について、(1),(2)に答えよ。

リアルタイムでの送信時に送信を省略した属性は何か。三つを全て答えよ。また、省略しても問題がないと判断した理由を述べよ。
模範解答
属性:顧客名,顧客住所,顧客電話番号 理由:  ・三つの属性は,日曜日には更新されないから  ・三つの属性の変更は,平日だけ可能だから
解説

模範解答の核心となるキーワードや論点整理

  • 省略された属性:顧客名、顧客住所、顧客電話番号
  • 省略理由
    • これらの属性は日曜日には変更されない
    • 顧客属性の変更受付は平日の8:00~21:00のみであるため
  • 関連箇所:リアルタイム通信時の属性省略の判断基準

解答に至る論理的説明

問題文の「〔海外ATMサービスのシステム概要〕」と「〔D社元帳の更新処理の概要〕」に以下の記述があります。
  • 顧客属性は平日の営業時間内にしか変更できない
    〔E銀行システム〕(3)「口座の開設、及び顧客名、顧客住所、顧客電話番号などの顧客属性の変更は、平日の8:00から21:00まで支店窓口で受け付けている。」
  • リアルタイムでの送信時に電文長制約があり、一部属性を省略することを許容している
    〔D社元帳の更新処理の概要〕(日曜日の0:00〜21:00)「リアルタイムでの送信時には、電文長に制約があるので、表1の送信データの属性のうち、送信を省略しても問題がないと判断した三つの属性を省略する。」
このことから、リアルタイム送信が行われる時間帯(日曜日0:00~21:00含む)は、顧客属性の変更受付時間外であり、顧客名、住所、電話番号の変更が発生しないため、これらの属性は最新データをリアルタイム送信に含めなくても支障がないと判断されます。

誤りやすいポイント・ひっかけについて

  • 「カード暗証番号」や「事故カードの設定情報」も省略できそうに見えるが、省略しない点
    → これらは出金取引の認証やカード事故対応に直結するため、必ず最新の情報を送信する必要がある。
  • 「支払可能残高」も省略不可
    → 取引の可否判断に直接必要な情報なので、省略すると誤出金のリスクがある。
  • 平日の属性変更受付時間の認識不足
    → 顧客名・住所・電話の変更は支店窓口の営業時間に制限があり、休日・夜間は原則できないことを把握していないと間違う。
  • リアルタイム送信が日曜日も含まれている点の見落とし
    → 日曜日の顧客属性変更がないことと関連づけて理解することが重要。

試験対策のポイントまとめ

ポイント詳細説明
顧客属性変更の受付時間平日8:00〜21:00のみ。休日・深夜は変更不可を覚える。
送信データの属性と役割取引に必要な「暗証番号」や「事故カード設定」は省略不可。
顧客情報は変更がない時間帯は省略可能。
リアルタイム送信のタイミングとデータ制約電文長の制約により、一部属性の省略がある。何を省略してよいかは変更可能性を元に判断。
時間帯による処理モードの切り替え理解平日・休日、夜間の処理区分を把握し、それに伴う属性管理の考え方を押さえる。

この問題では、システム運用のリアルタイム性とデータ管理の整合性を問うとともに、属性変更のタイミングとデータ送信の最適化の知識がカギとなります。
属性の省略可否を判断する際には「属性の変更が発生しうる時間帯かどうか」という視点を持つことが重要です。

設問2(2)【D社帳の更新処理の概要〕について、(1),(2)に答えよ。

D社元帳の整合性を確保する対応をD社で実施する必要がある。どのような対応が必要か。40字以内で述べよ。
模範解答
リアルタイムで更新した口座は,バッチ処理で受信したデータで更新しない。
解説

1. 模範解答の核心となるキーワードや論点

  • 「リアルタイムで更新した口座は、バッチ処理で受信したデータで更新しない」
  • 口座元帳の整合性確保
  • データ更新の二重・競合を防止するための排他管理
  • 「バッチ処理」と「リアルタイム処理」のデータ反映の衝突回避

2. 解答の論理的説明

問題文には、海外ATM取引におけるD社元帳への更新は、次の2種類の方法で行うと明記されています。
時間帯更新方法
バッチ処理時間帯(土曜0:00〜2:00、日曜0:00〜2:00)バッチ処理でまとめてE銀行元帳から対象口座データを送信し、D社元帳を更新
リアルタイム処理時間帯(日曜0:00〜21:00のそれ以外の時間)取引発生時に即時D社元帳を更新
この2つの処理は、同じ口座に対して異なるタイミングで別々の更新要求を出す可能性があります。特に、バッチ処理が過去の状態(抽出日時の時点で完了している取引まで)を基に更新するのに対し、リアルタイム処理は最新の情報を逐次反映しています。
もしリアルタイム処理で既に更新済みの口座に対して、バッチ処理でも同じ口座を後から更新すると、下記の問題が発生します。
  • バッチ処理の更新データがリアルタイム更新より古い状態のため、データの逆戻りや情報の上書きが起こり、整合性が崩れる。
  • これによりD社元帳とE銀行元帳間で食い違いが生じる可能性が高まる。
これを防ぐため、D社側では「リアルタイムで更新した口座をバッチ処理による更新対象から除外する」対応が必要です。つまり、バッチ処理で送ったデータはリアルタイム更新がなかった口座だけに限定してD社元帳を更新し、重複・競合を避けます。

この対応により、以下が保障されます。
  • D社元帳の状態は常に最新で一貫したものとなる。
  • 古く重複したバッチ処理データが、最新のリアルタイム更新を上書きしない。
  • 取引の信頼性と障害発生時の復旧が確実になる。

3. 受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ

  • 「二重更新を許しても問題ない」誤解
    データの更新が重複すると古い情報に上書きされるため整合性が崩れるが、これを見落としがちです。
  • リアルタイム・バッチ処理の違いを理解していない
    どちらも更新するが役割とタイミングが異なるため、処理範囲の分離が必要なことを認識してください。
  • D社側での整合性対応はE銀行側だけが対応すべきと誤解すること
    D社元帳を管理するD社自体が、どのデータを更新するかを正しく制御する必要があります。

4. 試験対策として覚えておくべきポイント

  • 複数のシステム間(今回の場合はE銀行システムとD社システム)でリアルタイム処理とバッチ処理が混在するときは、データの整合性確保が最重要
  • *「リアルタイム処理が優先され、バッチ処理は重複更新を避ける」*という設計ルールはよく出題される典型パターン。
  • 代行システム(ここではD社システム)が複数の更新経路を持つ場合の排他制御や更新対象の限定の必要性を理解すること。
  • 出題文中の「抽出日時」や「更新性能(件/分)」などの条件は、整合性管理を考察する際の重要ヒントとなるため、見落としなく読むこと。
  • 時間帯によって処理が切り替わる場合の処理の重複・食い違い回避措置の設計・運用は情報処理技術者試験で頻繁に問われる。

以上の内容は午後Ⅰ試験の設問で、システム間連携におけるデータ一貫性確保の要点を問われる非常に重要なテーマです。自信を持って解答できるように、問題文を丹念に読み全体の処理フローと役割を把握しましょう。

設問3(1)〔商品企画部からの追加要望〕について、(1),(2)に答えよ。

表3中の要望1の対応によって、E銀行元帳の更新に影響が出る口座はどのような口座か。35字以内で述べよ。また,影響を回避するために行ったチェック方法の変更内容を25字以内で述べよ。
模範解答
口座:代行処理時間中に出金,事故カードの設定の順で取引をした口座 変更内容:事故カードの設定の有無をチェックしない。
解説

模範解答の核心キーワード・論点整理

項目内容
影響が出る口座「代行処理時間中に出金取引と事故カードの設定を行った順序の口座」
変更したチェック内容「事故カードの設定の有無をチェックしない」

解答がそのようになる理由の論理的説明

1. 影響が出る口座の特定理由

商品企画部の追加要望1では、
「事故カードの設定については、代行処理時間終了後、即時にE銀行元帳へ反映してほしい。」
とあります。
これに対し、対応内容では、
  • 代行処理した取引は取引発生順に送信していた仕様を見直し、
  • 事故カードの設定を出金取引よりも「先に送信する」ように変更しています。
つまり、代行処理時間中に、ある口座で「出金取引」が先に処理され、その後に「事故カードの設定」が行われる場合、送信と元帳更新の順序を「事故カードの設定が先」になるように変えています。この差異により、
  • 代行処理時間中に「出金取引が先、事故カード設定が後」の順で実行された口座の元帳更新の順序と実際の取引発生順がズレるため、
  • この口座ではE銀行元帳更新に影響(不整合など)が出る可能性がある
ことが導かれます。

2. 影響回避のためのチェック方法の変更

このような順序変更による影響を防ぐために、
「代行処理した出金取引をE銀行元帳に反映する際のチェック方法を変更し、事故カードの設定の有無をチェックしない」
としています。
もともと、出金取引実行時には、
(4)①ATMから送信された出金取引の情報と口座元帳データベースの店番号、口座番号及びカード暗証番号が一致すること
(4)②事故カードの設定がないこと
(4)③出金額が支払可能残高の範囲内であること
をチェックしていました(問題文4番)。
しかし、事故カード設定が先に元帳に登録されていない場合でも出金取引を拒否しないように、出金取引反映時の「事故カード設定の有無のチェック」を省略しています。これにより不整合が解消されます。

受験者が誤りやすいポイント・注意点

  • 取引順序の理解不足
    代行処理時間中の取引は「出金」と「事故カード設定」の順序がもともと取引発生順だったが、対応後は「事故カード設定が先に元帳へ反映」するため、実際の処理順とズレること。
  • チェック方法変更の意図の誤認
    事故カード設定の有無をチェックしない理由は、不整合回避のためであり、セキュリティが甘くなるわけではない。出金取引は最終的に元帳反映時に別途チェックされるため安心。
  • 発生する影響範囲の限定
    影響が出るのは「代行処理時間中に両方の取引を行った口座のみ」であり、これ以外の口座は影響を受けない点の理解。

試験対策ポイント・覚えておくべき知識

  • 海外ATMの代行処理時間帯の特殊性を理解する
    代行処理時間(日曜日21:00〜月曜7:00)はD社システムが取引を代行し、E銀行元帳は後日まとめて更新される。
  • 取引の反映順序と元帳整合性の確保
    代行処理で送信される取引の順序が元帳の更新に影響を与える可能性があるため、順序の変更が必要な場合がある。
  • 取引チェックの段階の違いを把握する
    リアルタイム処理時・代行処理後の元帳反映時に複数回チェックが行われるが、一部チェックをスキップして不整合を防ぐ工夫もある。
  • 業務委託によるシステムの複雑性
    別会社D社が代行処理を行うため、システム間の整合性維持やタイミング調整が重要である。

これらを押さえておくと、問題文の長い説明の中から要点を抽出しやすくなり、正確で論理的な解答が可能になります。

設問3(2)〔商品企画部からの追加要望〕について、(1),(2)に答えよ。

表3中の要望2については、初の仕様のままとした。全口座を海外ATMサービス付与の対象とした場合、どのような問題が発生するか。D社元帳の更新処理の観点から40字以内で述べよ。
模範解答
D社元帳の更新処理時間が大幅に増加し,1日では更新できなくなる。
解説

模範解答の核心キーワード・論点整理

  • D社元帳の更新処理時間の増加
  • 対象口座数の増加による処理負荷の爆発的増大
  • 1日での更新完了が不可能となる制約
これらが「D社元帳の更新処理の観点から」40字以内で述べるべきポイントです。

解答の根拠・論理的説明

問題文の「商品企画部からの追加要望」要望2には以下が述べられています。
項番追加要望内容対応内容
要望2キャッシュカードを保有している全口座を対象にする処理時間に大幅な設計の見直しが必要であることが分かったため、初期仕様のままとした。
これに関連して、対象口座数と更新処理の関係については以下の記述が重要です。
  • 現状の対象口座は約5%の25万口座(全500万口座のうち)に限定している。
  • D社元帳の更新処理性能は「3,000件/分」
  • 「土曜日0:00〜2:00」、「日曜日0:00〜2:00」にバッチ処理で対象口座を抽出し、送信・更新している。
  • 送信データには1日のうちに完了した取引までの情報をセットする。
全口座が対象になると約500万口座となります。これに対し、更新処理性能は3,000件/分であり、単純計算すると:
500万口座 ÷ 3,000 件/分 = 1667 分 ≈ 27.78 時間
すなわち、1日のうちに処理が終わらず、翌日に処理が持ち越される、すなわち「1日では更新できなくなる」状態になります。これにより、データの同期や整合性維持が困難となり、システム全体の信頼性・安定性に重大な影響を与えます。

受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ

  • 「処理能力が不足する」とだけ述べる表現との混同
     単に「処理能力が足りない」ではなく「D社元帳の更新処理時間が大幅に増加し、1日での更新が不可能に」なる点が重要。
  • 「リアルタイム処理」か「バッチ処理」かの混同
     更新処理時間の問題はバッチ処理時間帯(深夜の2時間)に関わるため、リアルタイム処理の頻度とは直接の因果関係が薄い。
  • 「顧客利便性が向上する」だけを強調し、処理負荷の問題を見落とすこと
     本問題はシステム処理負荷に焦点があり、業務面の利便性だけで判断しないこと。

試験対策としてのポイント・重要知識

  • 処理性能の限界とシステム設計の最適化
     大規模データのバッチ処理時間やリアルタイム処理性能は必ず計算で検証し、無理なら設計変更が必要。
  • システム処理範囲拡大時の影響予測能力
     部分対象から全体対象への拡大が性能に与える影響を数値で理解できることが評価される。
  • 処理切替時間帯(バッチ処理時間帯など)や更新処理方法の理解
     処理時間帯による処理方式やデータ同期方法を正確に把握しておくこと。
  • 設計変更時の影響範囲を述べる問題が多い
     設問1~3ともシステム改修や運用変更に伴う影響を問われるため、論点整理が必要。

まとめ

主な論点内容例
対象口座数約25万口座 → 全口座 約500万口座に増加
処理性能3,000件/分
バッチ処理時間2時間(120分)間の処理が可能
処理時間計算500万 ÷ 3,000 ≈ 1,667分(約28時間)
結果処理時間が大幅増加、1日では処理完了しない
以上により、全口座対象化はシステム更新処理に致命的な遅延を招くため、現行仕様のままとする判断が妥当であることが理解できます。
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