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システムアーキテクト試験 2017年 午後1 問03
ソフトウェアパッケージ導入に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ
K市は、寒冷地に所在する中核市である。K市の職員課では、市役所に勤務する約2、000人の職員の給与、福利厚生、人事管理、健康管理などに関する業務を15人の職員で対応している。職員課では、人事給与などに関する新たな業務システム(以下、新システムという)を構築することにした。
〔新システム構築の背景〕
職員課では、内部事務の情報化が始まった当時に、給与計算システムをメインフレーム上で構築し、その後、分散型システムへのダウンサイジング、制度改正などに伴う度重なるシステム改修を経て現在に至っている。また、給与計算システムとは別に、採用から退職に至るまでの人事管理全般を担う人事システム、休暇申請などの申請届出と勤怠管理を担う庶務事務システムを、構築、運用している。
これらの現行の業務システムは、ソフトウェアパッケージを利用せずK市専用の情報システムとして開発した。近年はシステム維持費用の削減が課題となっており、現状について外部評価を行った。外部評価の主な指摘事項は次のとおりである。
(1)サーバの使用率が終日低く、ハードウェア借料及び保守費用を削減する余地がある。サーバの使用率が低い理由は次のとおりである。
・給与計算システム及び人事システムは、主に職員課の職員しか利用しない。
・庶務事務システムは、最もアクセスが集中する時間帯が、前勤務日に時間外勤務などを行った職員が実績を申請する8時45分から12時であり、利用する時間帯が比較的分散している。
(2)制度改正によるシステム改修が毎年発生しており、他の中核市と比較してシステム改修費用が多く掛かっている。K市の現行の複数の業務システムと同等の機能を提供している人事給与業務専用のソフトウェアパッケージ(以下、人事給与バッケージという)を導入して標準機能を基に運用している他市では、システム改修を行わずに、製品バージョンアップなどの人事給与パッケージの標準保守の中で、全国の地方自治体に共通する制度改正に対応している。
これらの指摘事項を踏まえて、K市では、現行の複数の業務システムを、人事給与パッケージを利用して再構築することにした。
〔現行業務の概要〕
職員課では、地方公務員法、K市の条例、規則などに基づき、例給与の計算・支給事務、採用事務、退職事務、人事異動事務などの幅広い人事給与関連業務を行っている。現行の業務システムを利用した毎日の勤怠管理と、職員課が毎月実施している
主要事務の一つである例月給与の計算・支給事務の主な流れを表1に示す。

〔フィット&ギャップ分析の実施〕 K市では、新システムの構築に際して入札を行い、その結果、構築事業者としてL社と契約することになった。L社は、多くの地方自治体で導入実績がある自社製品の 人事給与パッケージ(以下、L社パッケージという)を利用し、新システムを構築することを提案していた。 職員課及びL社は、設計・開発に着手する前に、K市の現行業務に対するL社パッケージの適合性を評価するために、フィット&ギャップ分析を実施した。職員課は、分析に当たって、人事給与パッケージ導入の背景、目的を踏まえて、カスタマイズを極力行わず、標準機能に合わせて現行業務を見直す前提で検討することにした。 L社パッケージの標準機能のうち、勤怠管理に係る機能の一部を表2に、例月給与の計算・支給事務に係る機能の一部を表3に示す。 なお、標準機能は、利用の有無をパラメタで簡易に設定することができる。


〔勤怠管理に係る標準機能の利用検討〕 より正確で客観的な出退勤時刻を記録することと、①表1において毎月発生している、ある作業の負担を軽減するために、職員課ではL社パッケージの標準機能として提供される打刻機能の利用を検討した。その結果、一部の部署では庶務担当者以外の職員にPCが貸与されていないことと、予想される同時アクセス数が現行の業務システムと比較して多くなり、ハードウェア借料及び保守費用の削減が難しくなることが分かったので、新システムでは利用しないことに決めた。代わりに、現在職員証として利用している非接触ICカードを利用し、新たにICカード読取機能付のタイムレコーダを導入して、月に1回手動で出勤時刻データを新システムに取り込むことにした。
〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討)
L社パッケージと現行の例月給与の計算・支給事務とのフィット&ギャップ分析を行った結果、一部の部署を除き電子給与支給明細書の交付を導入する方針とし、表3に示す標準機能については、全て利用することにした。また、標準機能の詳細を確認した結果、標準機能をそのまま利用した際に影響が大きい現行業務とのギャップの一っとして、寒冷地手当に関する機能が挙がった。現在の寒冷地手当支給に関する規則の主な内容は次のとおりである。
・寒冷地手当の支給対象期間(以下、支給対象期間という)の初日時点において、K市を含む寒冷地手当支給対象地域(以下、支給対象地域という)に在勤する職員に対して寒冷地手当を支給する。東京事務所などの支給対象地域以外の勤務地に勤務する職員に対しては支給しない。
・寒冷地手当は、職員が世帯主であるか否か、扶養親族があるか否かといった世帯の区分に応じた額を、支給対象期間の初月の例月給与に加えて一括して支給する。
・支給対象期間中に、世帯の区分の変更、支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合には、月割りで手当額を計算して、不足額を追加で支給(以下、追給という)又は支給済額を例月給与から控除(以下、返納という)する。なお、手当額は各月の1日時点の情報を基準に算出し、月途中の変更、異動などは考慮しない。
一方で、L社パッケージにおける寒冷地手当に関する標準機能の主な内容は次のとおりである。
・職員ごとに寒冷地手当の支給対象職員か否かを設定できる。
・支給対象期間をパラメタで設定できる。設定は月単位であり、日単位での設定には対応していない。
・支給対象地域区分及び世帯の区分に応じた手当額を、パラメタで設定できる。
・支給対象職員に対して支給対象期間の例月給与に含めて毎月支給する。日割りでの支給額の計算はできず、追給及び返納にも対応していない。現行業務とL社パッケージの標準機能とのギャップを踏まえて、K市では新システムの稼働までに、寒冷地手当支給に関する規則の内容の一部を変更することにした。これによって、②ある状況が発生した場合のための機能について、追加開発が不要になると判断した。
設問1(1):〔現行業務の概要】及び【フィット&ギャップ分析の実施〕について、(1),(2)に答えよ。
職員課が、フィット&ギャップ分析に当たって、カスタマイズを極力行わないことにした理由は何か。人事給与パッケージを利用することにした背景を踏まえて40字以内で逃べよ。
模範解答
制度改正に対して人事給与パッケージの標準保守で対応できるようにしたいから
解説
1. 模範解答の核心キーワード・論点整理
- 「カスタマイズを極力行わない」理由は
- 「制度改正に対して」
- 「人事給与パッケージの標準保守で対応できる」こと
この3点が解答の中心です。
2. 解答の論理的な説明
問題文からの引用を元に説明します。
【背景】
職員課は現状のシステムに対し、
・「制度改正によるシステム改修が毎年発生」している
・「他の中核市と比較してシステム改修費用が多い」
・「人事給与パッケージを導入して標準機能で運用している他市では、製品バージョンアップで対応している」
・「制度改正によるシステム改修が毎年発生」している
・「他の中核市と比較してシステム改修費用が多い」
・「人事給与パッケージを導入して標準機能で運用している他市では、製品バージョンアップで対応している」
という現状認識を持っています。
【目的】
新システム構築にあたり、
カスタマイズを極力行わず、標準機能に合わせて現行業務を見直す前提で検討することにした。
この記述は、改修費用を抑え、パッケージ標準機能を活用する方針を示しています。
【論理整合】
- 「制度改正による改修が多く掛かっている」ことから、独自開発システムの維持費を削減したい
- 「パッケージの標準保守の中で対応可能」な仕組みが望ましい
- そのため、カスタマイズを避けて標準機能に業務を合わせ、「制度改正に対応しやすい体制」を作る
という流れで解答に至ります。
3. 受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ解説
4. 試験対策ポイント・覚えておくべき知識
-
パッケージ導入のメリットは「標準保守による制度改正対応が可能」なことが重要
→ 独自カスタマイズが多いと、バージョンアップ時にコストと手間がかかるため、極力控える。 -
フィット&ギャップ分析時の「カスタマイズ抑制」はパッケージ保守の効率化を目的とすることを理解する
-
業務の見直し(パッケージへの適合)はカスタマイズを避けるための必須条件
-
制度や条例変更への対応は、パッケージの持つ標準機能と保守体制に依存する
以上を踏まえると、本問題の設問に対しては、
「制度改正に対して人事給与パッケージの標準保守で対応できるようにしたいから」
が最も的確な回答となります。
設問1(2):〔現行業務の概要】及び【フィット&ギャップ分析の実施〕について、(1),(2)に答えよ。
表1中の職員課が実施している作業の中で、新システムの導入後は新システムの機能で代替できるようになる作業を、表1中の項番を用いて全て答えよ。
模範解答
7,11
解説
1. 模範解答の核心となるキーワードや論点整理
- 新システム(L社パッケージ)導入によって「代替可能な作業」
- 現行の職員課作業の中で、新システム機能により自動化や省力化される作業
- 「表1」の作業内容で手動作業や単純なデータ連携を含む項番に注目
- 特に「勤怠実績データのファイル出力および登録」、「給与支給明細書の印刷・配布」の手作業
2. なぜ模範解答「7,11」になるのか
表1の該当項番
新システムの標準機能に対応する内容
-
項番7(勤怠データの連携)
【問題文】の「表3」中のL社パッケージの標準機能「勤怠実績の自動連携」では、「締め処理された勤怠実績データを給与計算用に自動連携する機能。」
とあり、現行のようなファイルを介した手動登録は不要となる。
つまり、項番7は新システムの機能で代替でき、業務負担が軽減される。 -
項番11(給与支給明細書の印刷・配送)
L社パッケージの「給与支給明細書の印刷」機能があり、これにより、「部署ごとに庶務担当者、所属長などの権限を有する利用者が、所属する職員の給与支給明細書を印刷する機能。」
となっている。
印刷と仕分けを含め、給与担当者の手作業の多くがパッケージ機能により代替可能となる。
3. 受験者が誤りやすいポイントやひっかけ選択肢
-
項番8(控除データの手動登録)
控除データの電子媒体受領は現行では手動で入力しているが、L社パッケージの「法定外控除の管理、取込み」の標準機能により、自動での取込みが可能。項番8が該当しそうと誤解しやすいが、設問は「職員課が実施している作業のうち、新システムで代替できる作業」であるため、項番8は「新システムの導入により作業負担が軽減」と判断できるが、「代替できる」=「現場がしなくてよくなる(自動化)」とは限らない場合もあるため注意。 -
項番12(給与支給明細書の配布)
電子部署配布が導入されるが、「配布」は各課の庶務担当者が実施し新システムの機能外なので、代替とはならない。 -
打刻機能の利用断念に関する記述があるため、出退勤時刻の入力関連の手作業(項番1〜6)が全て自動化されるわけではないことにも注意。
4. 試験対策として覚えておくべきポイントや知識
-
ソフトウェアパッケージ導入時の代替範囲を見極める
パッケージの「標準機能」の具体的な業務内容と、現行の作業手順・担当者の作業内容を比較して、どの作業が完全に自動化・省力化されるかを判断する能力が重要。 -
フィット&ギャップ分析の理解
導入に際し、標準機能で賄える作業(フィット)と、カスタマイズや現行業務の見直しが必要な部分(ギャップ)を正確に区別すること。 -
手動ファイル連携と自動連携の違い
「ファイルを出力し、別システムへ手動で取り込む」作業は手作業。パッケージでの「自動連携」機能があればこの作業は不要になる。 -
給与支給明細書の印刷・配布作業の扱い
印刷は新システムで代替可能だが、配布は人手が必要であり代替とはならないことを理解する。 -
システム導入の際の利用制約(例:打刻機能非採用)にも注意
何でも自動化できるわけではなく、現場の運用状況に応じて機能導入の有無が決定されることがある。
以上のポイントを押さえ、問題文の業務フローとパッケージ機能をしっかり対応付けて考えることが、午後問題攻略の鍵となります。
設問2(1):(勤怠管理に係る標準機能の利用検討〕について、(1),(2)に答えよ。
本文中の下線①で負担を軽減できると想定した作業内容を35字以内で述べよ。
模範解答
前月の出勤簿の記録を庶務事務システムに入力,確定する作業
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点
- **「負担を軽減できる作業」**とは、本文中の下線①部分に関係する作業。
- 該当箇所は「前月の出勤簿の記録を庶務事務システムに入力・確定する作業」。
- 関連する表は【表1】の項番5で記述されている毎月実施される作業。
- 該当作業は「各課の庶務担当者が...入 力・確定」し、「勤怠実績の締め処理」が行われるところ。
なぜその解答になるのか【問題文の引用を含む論理的説明】
問題文の下線①での説明部分では、以下のように書かれています。
「より正確で客観的な出退勤時刻を記録することと、①表1において毎月発生している、ある作業の負担を軽減するために、打刻機能の利用を検討した。」
ここで「毎月発生しているある作業の負担」とは、以下の【表1】の項番5の作業内容に該当します。
ここでポイントになるのは、
- 負担が「毎月の勤怠データ入力・確定作業」にあること。
- 打刻機能を利用すると、出退勤時刻の記録が自動化されて、この入力作業が軽減される想定であること。
したがって、負担軽減が見込まれる「作業内容」は、「前月の出勤簿の記録を庶務事務システムに入力・確定する作業」となるのが妥当です。
受験者が誤りやすいポイントやひっかけの選択肢
-
「毎日発生する作業」と誤認すること
例えば、毎日の「出退勤時刻の記録」や「時間外勤務の申請」なども勤怠管理に関わるが、ここで注目すべきは「毎月」「負担の大きい作業」であること。 -
「出退勤打刻や記録自体」ではないこと
問題文で示された打刻機能の導入は「打刻」自体の作業を効率化するものですが、下線①は「打刻導入によって軽減できる負担」であり、入力・確定作業を指しています。 -
「入力」や「確認」など複数の作業の区別
「入力・確定」の作業が対象で、「給与計算」や「承認」などは含まれないため注意。
試験対策として覚えておくべきポイントや知識
-
勤怠管理システムの業務フローを正確に理解することが重要
どの段階でどんな作業が発生し、どこが自動化・効率化の対象となるかを把握する。 -
フィット&ギャップ分析における「カスタマイズを極力抑え標準機能に合わせる」方針の意味
標準機能にできる限り内部業務を合わせるため、現状の業務プロセスのどの部分が標準機能で代替できるかを検討し、負担軽減が期待できる部分を特定する。 -
表や業務フローの読解力を鍛えること
設問は本文のどの部分を指しているかを正確に判断し、必要な情報を表等から抽出する力を身につける。 -
キーワード:「庶務担当者の作業」「毎月の勤怠データ入力」「勤怠実績の締め処理」
これらの言葉が出てきたら、業務負担が大きい作業の候補と認識する。
以上のポイントを踏まえ、設問①では【前月の出勤簿の記録を庶務事務システムに入力・確定する作業】として回答することが正当であることが理解できます。
設問2(2):(勤怠管理に係る標準機能の利用検討〕について、(1),(2)に答えよ。
打刻機能を利用することによって、予想される同時アクセス数が現行の業務システムと比較して多くなる理由を25字以内で述べよ。
模範解答
毎朝の出勤時間帯にアクセスが集中するから
解説
模範解答の核心キーワード・論点整理
- 「毎朝の出勤時間帯にアクセスが集中する」
- 打刻機能利用によるアクセスの集中
- 現行業務との同時アクセス数の比較
- 出退勤のタイミングが特定時間帯に偏ること
なぜこの解答になるのか(問題文引用を交えた説明)
問題文の「〔勤怠管理に係る標準機能の利用検討〕」の記述に、
一部の部署では庶務担当者以外の職員にPCが貸与されていないことと、予想される同時アクセス数が現行の業務システムと比較して多くなり、ハードウェア借料及び保守費用の削減が難しくなることが分かったので、新システムでは利用しないことに決めた。
とあります。
この「予想される同時アクセス数が多くなる」という原因は、打刻機能の特性にあります。打刻機能は、
ポータル画面上で“出勤”ボタン又は“退勤”ボタンを押すと、ボタンを押した時刻を出退勤時刻として記録し、出勤簿に自動反映する。
ので、多くの職員が出勤時刻の直前や直後の短時間に集中してボタンを押すことになります。表1の現行業務でも、
ほとんどの職員は8時30分から8時45分の間に出勤し、出勤時刻を紙の出勤簿に記録する。
とあり、特定の時間帯に出勤が集中していることがわかります。
つまり、多数の職員が同時に打刻操作を行うため、
- 「毎朝の出勤時間帯にアクセスが集中する」
ことになり、結果として同時アクセス数は現行業務より増大すると予測されます。
受験者が誤りやすいポイントやひっかけ選択肢
-
「PCが貸与されていない」ことが原因と考える誤り
PC貸与の有無は理由の一つですが、アクセス数が多くなる理由ではありません。アクセス数の多さは利用者数のアクセス集中に起因します。 -
「打刻をやめてタイムレコーダで対応する理由」について混同する誤り
タイムレコーダーの導入はアクセス集中を避けるための対策であり、アクセス集中の原因は打刻機能の特性にあることを混同しないよう注意。 -
アクセス「量」と「集中」の違いを混同する誤り
単にアクセス数が多いのではなく、特定の短時間帯に集中することが問題です。分散してアクセスされれば負荷は下がります。
試験対策として覚えておくべきポイント
- 「打刻機能」は職員がほぼ同時に操作しやすいため、短時間にアクセスが集中するという特性がある。
- 業務システムの同時アクセス数は、利用者数だけでなく、操作が集中する時間帯にも大きく影響される。
- アクセス集中のリスクを抑えるためには、利用環境(PC貸与の有無、タイムレコーダーの活用等)やシステム設計を検討する必要がある。
- 問題文の現行業務や標準機能の利用検討部分を読み取り、アクセス負荷や運用の実態を理解する力を養う。
以上の解説を踏まえ、設問の回答としては「毎朝の出勤時間帯にアクセスが集中するから」が適切となります。
設問3(1):〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕について、(1)~(3)に答えよ。
表3の電子給与支給明細書の交付機能を利用することにした一方で、給与支給明細書の印刷機能も利用することにした理由を40字以内で述べよ
模範解答
PC が貸与されていない職員に給与支給明細書を印刷して配布するから
解説
模範解答のキーワード・論点整理
- PCが貸与されていない職員
- 給与支給明細書を印刷して配布する
- 電子給与支給明細書と印刷機能の併用
この問題の核心は、「電子給与支給明細書の交付機能を利用しつつも、なぜ印刷機能も利用するのか?」という点にあります。解答のキーワードは「PCが貸与されていない職員に対応するため」です。
なぜその解答になるのか:論理的な説明
【問題文からの引用】
「一部の部署では庶務担当者以外の職員にPCが貸与されていないことと、...」
「電子給与支給明細書の交付を導入する方針とし、...」
「給与支給明細書の印刷」も利用することにした。
この記述から、新システムでは電子給与支給明細書を導入することが決まっているが、全職員がPCを使って電子明細書を閲覧できるわけではないことが分かります。特にPCが貸与されていない職員や、PC操作に慣れていない職員も一定数存在するため、電子交付だけでは不十分です。
そこで、PCを持たない職員にも給与明細を確実に伝達するために、紙の給与支給明細書を印刷して配布する機能も利用することになりました。これにより、全職員が漏れなく給与明細を受け取れるように配慮された運用となります。
受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ
-
「印刷機能は不要」と考える誤り
電子交付の導入により、全ての給与明細は電子化できると誤解しやすいですが、PC未保有の職員に配慮が必要という部分を見落とすと間違えます。 -
「他の理由で印刷機能を使う」と考える誤り
問題文には「利用者の操作性」や「管理者の利便性」など他の理由は記載されておらず、印刷機能利用の根拠は「PC未貸与の職員」が理由であることに注意しましょう。 -
「金融機関への提出などの事務的理由」と混同する誤り
給与支給明細の印刷は本人への交付であり、口座振込データの提出などの他の帳票やファイル作成と混同しないことが重要です。
試験対策として覚えておくべきポイント
- ソフトウェアパッケージ導入時は、標準機能を利用しながら現場の実態(端末利用環境など)を考慮する必要がある。
- 電子文書交付と紙交付(印刷)は並存することが多い理由は「端末所有状況」や「操作環境の差異」による。
- システムの利用環境(PC有無、ネットワーク環境など)を問題文から見抜き、運用面を意識して解答を考えること。
- 電子給与明細やペーパーレス化は「全員が電子閲覧可能であること」が前提条件である点を理解しておく。
まとめ
このように、問題文の環境情報を正確に読み取り、「なぜ電子交付と印刷が共存するのか」を理解することで、本問の正答に結びつきます。
設問3(2):〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕について、(1)~(3)に答えよ。
寒冷地手当支給に関する規則の内容の見直しについて、どのような内容に変更するのかを20字以内で述べよ。
模範解答
一括支給を毎月支給に変更する。
解説
1. 模範解答の核心となるキーワードや論点の整理
- キーワード:「一括支給」→「毎月支給」への変更
- 論点:
- 現行規則では「寒冷地手当を支給対象期間の初月の例月給与に一括支給」している。
- 新システムのソフトウェアパッケージ標準機能では「毎月支給が前提」であり、一括支給や日割り計算、追給・返納に対応できない。
- 追加開発を避けるために、規則をパッケージの標準機能に適合させる必要がある。
2. なぜその解答になるのか(問題文の記述を引用しての論理的説明)
現行の寒冷地手当支給規則の主な内容の一部を抜粋します。
- 寒冷地手当は、職員が世帯主であるか否か、扶養親族があるか否かといった世帯の区分に応じた額を、支給対象期間の初月の例月給与に加えて一括して支給する。
- 支給対象期間中に世帯の区分の変更、支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合は、月割りで手当額を計算して、追給または返納を行う。
一方、L社パッケージの標準機能は以下の制約があります。
- 支給対象期間を月単位にしか設定できず、日単位での管理はできない。
- 支給対象職員には、対象期間の例月給与に含めて毎月支給する設計であり、
- 日割り支給、追給、返納には対応していない。
このギャップのため、規則を「一括支給から毎月支給」に変更することで、追給や返納といった複雑な計算処理や特別処理のためのシステム追加開発が不要になります。
その結果、
既存の規則の「支給対象期間の初月にまとめて支払う」→「支給対象期間中は毎月支給」へ変更し、
L社パッケージの標準機能で対応可能な形態に業務手順を合わせる。
ゆえに模範解答は「一括支給を毎月支給に変更する」となります。
3. 受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ選択肢の解説
-
日割り計算対応の誤解
- 現行規則は月割り(日割り)計算をしているが、パッケージの標準機能は日割りに対応していない点に注意。
- 「日割りをやめる」「追給・返納をやめる」だけではなく、「一括支給をやめる」という視点も必要。
-
追加開発が不要になる理由の見落とし
- 「追給・返納の処理が必要なくなる」という文脈から、これらを含む一括支給方式自体を廃止し、毎月安定的に支給する方法にしなければならないことを見逃しやすい。
-
ICカードや勤怠管理の話と混同しないこと
- 勤怠管理の改良(打刻機能の利用中止等)とは別に、寒冷地手当については支給形態の見直しが必要な点を混同しないように。
4. 試験対策として覚えておくべきポイントや知識
以上が、模範解答「一括支給を毎月支給に変更する」に関する丁寧で納得できる解説です。
設問3(3):〔例月給与の計算・支給事務に係る標準機能の利用検討〕について、(1)~(3)に答えよ。
本文中の下線②は、どのような状況が発生した場合か。40字以内で述べよ。また、寒冷地手当支給に関する規則の内容を見直すことによって、どのような機能の追加開発が不要になるか。15字以内で述べよ
模範解答
状況:支給対象期間中に,世帯の区分の変更,支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合
機能:追給及び返納の機能
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点の整理
解説:なぜその解答になるのか
1. 状況の特定(下線②)
問題文の寒冷地手当支給規則の説明で、
・支給対象期間中に,世帯の区分の変更,支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合には、月割りで手当額を計算して、不足額を追加で支給(追給)又は支給済額を例月給与から控除(返納)する。
と明記されています。
一方、L社パッケージの標準機能の説明では、
・日割りでの支給額の計算はできず、追給及び返納にも対応していない。
とあります。
したがって、「支給対象期間中に…世帯の区分の変更、支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合」が、本文中の下線②の状況と一致します。
2. 追加開発不要となる機能
K市では、
新システムの稼働までに、寒冷地手当支給に関する規則の内容の一部を変更し、追給及び返納に対応する必要がないようにした。
具体的には、「追給及び返納」という機能を追加開発しなくて済むように規則を見直したのです。
誤りやすいポイント・注意点
-
「日割り計算」や「月割り計算」との混同
-
規則の中で日単位の計算は行わず、月単位で1日付の状態を基準として算出するとしているが、これを日割り計算と勘違いしやすい。
-
L社パッケージは日割りに対応しないが、規則で日割り計算を行わないため問題にならない。
-
-
「打刻機能の利用しない理由」と混同しないこと
- 問題の下線①は「打刻機能を使わない理由」であるが、今回の②は異動や世帯区分変更に関わる規則変更の話なので混同しない。
-
「追給及び返納の機能」以外に注目しないこと
- 追給と返納以外の給与計算関連機能は基本的に標準機能で対応可能であり、それらも追加開発不要と判断されている。
試験対策として覚えておくべきポイント・知識
-
フィット&ギャップ分析の目的は「業務の規則や運用をパッケージ標準機能に合わせて見直す」ことが多いことを理解する。
-
パッケージ導入時にギャップとなる業務要件は、業務ルールの変更で対応できる場合、開発工数削減のために見直すことが多いこと。
-
「追給」や「返納」は給与関連システムでよくある例外処理の代表例。パッケージによっては非対応のため規則見直しの対象になりやすい。
-
規則や制度変更に伴うシステム改修は多くの管理系システムで課題となるため、パッケージの標準保守で対応可能な機能への合わせ込みが重要。
-
問題文の状況説明で「支給対象期間中に世帯区分の変更や異動があった場合」が懸念されていることを見落とさないことが解答のポイント。
以上のように、下線②の状況は「支給対象期間中に世帯の区分の変更,支給対象地域をまたぐ異動などが生じた場合」であり、それに対応する「追給及び返納の機能」がパッケージにないため、システム導入前に規則の内容を見直すことでその機能の追加開発が不要となったということです。