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システムアーキテクト試験 2019年 午後1 問01
サービスデザイン思考による開発アプローチに関する次の記述を読んで、設問1~4に答えよ。
総合家電メーカのR社は、“健康”をテーマとした製品として、体組成計、活動量計、ランニングウォッチなどの健康機器を製造、販売している。
〔新製品に係る取組〕
R社は、人々が重視する価値が“モノ”から“コド”へとシフトしている近年の状況を踏まえて、自社の製品を通じた人々の生活のディジタル化の取組を推進しており、スマートフォン用のアプリケーションソフトウェア(以下、スマホアプリという)を開発している。スマホアプリの利用者は、体組成計で測定した体重、体脂肪率、筋肉量などのデータをスマートフォンに転送して、測定結果の履歴を閲覧することができしる。スマホアプリは、体組成計の購入者のうち、個人情報、趣味・嗜好、健康に関するアンケートに回答した者に対して、無料で提供している。
R社は、体組成計の新製品を半年後に発売することを決定した。併せて、現在提供しているスマホアプリを刷新して、日々の健康に関わる活動データ(以下、健康活動ログという)を登録できる新たなスマホアプリ(以下、健康管理アプリという)にすることにした。健康活動ログには、体組成計から取得するデータに加えて、活動量計で計測する歩数、脈拍、睡眠時間などの活動量、食事内容、運動記録などが含まれる。
また、健康管理アプリは、これまでの個人に限定した利用に加えて、利用者同士のコミュニティ活動にも利用できる方針にした。具体的には、健康管理アプリの利用者が記録した健康活動ログをインターネット上のコミュニティ(以下、オンラインコミュニティという)で共有し、お互いの記録にコメントを付けたり、オンラインコミュニティ内で順位を競い合ったり、専門家が有料で指導したりといった、多様な方法でコミュニティ活動ができることを目指すことにした。
R社は、健康管理アプリとオンラインコミュニティを融合したサービス(以下、新サービスという)を活用してビジネスを拡大するために、自社でオンラインコミュニティを運営し、次に示す関連部署で新サービスの開発、運営を行うことにした。
(1)健康増進事業部
従来から行っていた体組成計、活動量計を含む健康機器の商品企画、開発に加えて、新たにオンラインコミュニティを企画、運営し、利用者が継続的にコミュニティ活動を行うことを支援する。
(2)ディジタル戦略部
R社が提供するスマホアプリ、Webサイトなどの開発を行い、その一環として健康管理アプリ及びオンラインコミュニティサイトの開発、サービス開始後の追加開発などを行う。
(3)営業推進部
従来から行っていた健康機器の販売促進に加えて、新たにオンラインコミュニティを利用し、R社の商品、有料サービスなどの販売促進活動を行う。
(4)マーケティング部
従来から行っていた健康機器の購入者情報、アンケート情報、市場調査結果などの管理、分析に加えて、新たにオンラインコミュニティで得られる新サービスの利用者情報、健康活動ログなどのうち、利用許諾を得たデータを分析し、マーケティング施策を検討する。
R社は、健康増進事業部とディジタル戦略部から担当者を集めたプロジェクトチーム(以下、PTという)を立ち上げ、新サービスの企画、開発を行うことにした。
〔新サービスの開発方針〕
現在提供しているスマホアプリは、利用者のスマートフォン内でデータを管理、閲覧するだけのものであったので、体組成計との無線通の方式、機能の実用性など、提供する“モノ”としての品質を重視した開発を行っていた。一方で、新サービスの開発では、従来のスマホアプリの機能の提供にとどまらず、利用者の体験価値に着目し、新サービスを通じて利用者の健康意識を高め、生活習慣の改善などの健康づくりにつながることを重視することにした。また、新サービスとして提供する機能を一度に全て開発するのではなく、実際の利用者からのフィードバック内容を分析し、改善と軌道修正を繰り返すことで、段階的に新サービスの機能を拡充させ、利用者が継続的にコミュニティ活動を行えることを目指すことにした。
これらの方針に基づき、利用者の視点を中心にサービス及び業務を設計する“サービスデザイン思考”のアプローチによる開発を行うことにした。
〔新サービスを利用するペルソナの作成〕
新サービスは、R社の従来の商品企画、開発とは異なるので、新サービスで提供する機能は、ふだんから健康機器の開発などに関わっている提供者側の視点だけでなく、想定される利用者の人物像を念頭において、利用者側の視点から具体的に考え出す必要があった。
そこでPTは、まず、想定される基本機能を列挙した。さらに、PT内だけでは想定できない利用者の潜在的ニーズを抽出するために、R社の体組成計の主な購入者層である“健康意識の高い20代女性”と、体組成計の購入者数に占める割合は低いものの新たなターゲット層としたい”健康に問題意識を持つ40代男性”を、仮想的な利用者であるペルソナとして分析することにした。
ペルソナは、実際に体組成計を購入、利用している代表的な人物像に近づけるために、PTのメンバの想像だけで作成するのではなく、(a)に協力を依頼し、より具体的な人物像を設定した。新サービスを利用するペルソナを表1に示す。

〔カスタマジャーニマップの作成〕 ①PTのメンバに加えて、社内のペルソナに近い人物を集めて議論し、それぞれのペルソナがどのように体組成計及び新サービスを利用し、その際、どのような思考・感情を持つかなどを時系列で整理したカスタマジャーニマップを作成した。カスタマジャーニマップで挙がった主な内容を表2に示す。

〔新たな機能の抽出〕 PTでは、当初想定していた新サービスの基本機能に加えて、カスタマジャーニマップによる分析結果を基に、機能を新たに抽出した。新たに抽出した機能を表3に示す。また、健康増進事業部と営業推進部からの提案で、ある狙いから健康ポイントに関する機能を提供することにした。健康ポイントは、オンラインコミュニティの利用頻度、目標の達成、順位などに応じて付与する。また、獲得したポイントは、R社の商品、オンラインコミュニティ上の有料サービスなどの購入時に使えることにした。

〔新サービスの機能のリリース方針〕 新製品の体組成計の発売日に合わせて短期間で新サービスをリリースする必要があるので、PTは、開発機能に優先順位を設定し、初期リリースの機能を絞り込むことにした。 まず、利用者情報及び健康活動ログの管理、情報セキュリティ対策、プライバシー管理など、新サービスを提供する上での必須機能を初期リリースの対象とした。一方で、一定量のデータの蓄積と有効性検証を行わないと誤った情報の提供をしかねない機能については、初期リリースの対象外とした。 その他の機能については、機能が新サービスの開発方針である(c)に寄与するかどうかの観点で分析し、優先順位を設定し、優先順位の高い順に、開発量が開発期間及び予算内に収まる機能を初期リリースの対象とした。 その上で、短期間で開発可能で、変更がしやすいシステム構造を採用することにした。
設問1
〔新サービスを利用するペルソナの作成〕について、代表的な人物像に近いペルソナにするために協力を依頼した部署はどこか。本文中の(a)に入れる部署名を答えよ。また、その部署に協力を依頼した理由を35字以内で述べよ。
模範解答
a:マーケティング部
理由:体組成計の購入者情報及びアンケート情報を管理しているから
解説
1. 模範解答の核心となるキーワードや論点
2. なぜその解答になるのか
問題文中には、ペルソナ作成にあたり、「PTのメンバの想像だけではなく、(a)に協力を依頼」し「より具体的な人物像を設定した」と記載されています。
ペルソナを作成するには、想定する利用者の実態に即したデータが不可欠です。ここで、そのデータとは「体組成計の主な購入者層に関する情報」や「アンケート結果」など、実際の利用者の属性や行動に関する情報です。
これらの情報を管理・分析している部署が記述されています。
(問題文より抜粋)
「マーケティング部は、体組成計の購入者情報、アンケート情報、市場調査結果などの管理、分析を行う。」
よって、利用者の実態に合ったペルソナを作成するため、「マーケティング部」に協力を依頼するのが最も合理的と判断できます。
3. 受験者が誤りやすいポイントやひっかけの選択肢
-
健康増進事業部やディジタル戦略部と混同しやすい
これらの部署は商品の企画・開発、アプリ開発やオンラインコミュニティ運営を担当しているため、試験文をざっと読むと「利用者の視点からのペルソナ作成なのだからここかも?」と考えやすいです。しかしこれらの部署は主に「提供者の業務・技術面」担当であって、利用者データの管理・分析はマーケティング部の役割であることに注意が必要です。 -
営業推進部の誤選択
営業推進部は販売促進活動が主な業務であり、購入者情報の管理はマーケティング部のほうが担当です。 -
「想像だけで作成しない」という点に注意
想像だけで作成しないために「データや情報を持つ部署に協力依頼をしている」という作業の意味を理解しましょう。
4. 試験対策として覚えておくべきポイント
-
部署の役割と担当範囲を正確に把握する
マーケティング部は「利用者情報、アンケート、調査の管理・分析」を専門的に担当する部署です。ペルソナ作成など利用者の実態に基づく分析は基本的にマーケティング部が担うと理解してください。 -
サービスデザイン思考におけるペルソナ作成の目的
利用者の潜在ニーズを具体的に把握するため、実データに基づく協力を得る必要があることを理解しましょう。 -
“提供者側視点”と“利用者側視点”の区別
提供者側(商品企画、開発、営業など)と利用者側(マーケティング部が扱う利用者情報)の役割を混同しないよう注意
以上より、この問題は部署の役割把握と利用者データの管理者選定を問う典型的な問題であるため、部署別の職掌を正しく覚えておくことが合格の鍵となります。
設問2
〔カスタマジャーニマップの作成〕について、本文中の下線①のような議論を行った狙いを40字以内で述べよ。
模範解答
利用者側の視点から新サービスで必要とされる具体的な機能を考え出すため
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点
- 利用者側の視点
- 新サービスで必要とされる機能の具体化
- ペルソナに近い人物も交えた議論
- 利用者の思考・感情などの理解
- カスタマジャーニマップを活用
解答の根拠と論理的説明
問題文の下線①の箇所には、
「PTのメンバに加えて、社内のペルソナに近い人物を集めて議論し、それぞれのペルソナがどのように~利用し、その際、どのような思考・感情を持つかなどを時系列で整理したカスタマジャーニマップを作成した。」
と記されています。
ここで重要なのは「ペルソナに近い人物を交えて議論すること」と「思考・感情を含めて利用状況を時系列で可視化すること」です。単なる提供側の想像だけでなく、実際の利用者に近い視点で具体的に利用体験を理解する狙いが示されています。
また、
「新サービスで提供する機能は、ふだんから健康機器の開発などに関わっている提供者側の視点だけでなく、想定される利用者の人物像を念頭において、利用者側の視点から具体的に考え出す必要があった。」
(〔新たな機能の抽出〕前半)
という記述があり、このことからも利用者視点での具体的なニーズ抽出・機能考案のための議論であることがわかります。
さらに、表2のカスタマジャーニマップの内容には、利用者の思考や感情の詳細が挙げられており、利用者の体験価値を向上するための機能検討に活かす目的も明確です。
これらのことから、下線①の議論の狙いは「利用者側の視点から新サービスで必要とされる具体的な機能を考え出すため」となります。
受験者が誤りやすいポイントと注意点
-
「提供者側の視点」に偏る認識
提供者側の技術面や既存の機能を想定するだけで、利用者の実際の使い勝手や潜在的ニーズを把握できません。利用者視点を無視すると、顧客満足度の低下や機能のミスマッチを招きます。 -
「カスタマジャーニーマップ」自体の目的の誤解
カスタマジャーニーマップは単に顧客の行動を時系列で示すだけではなく、顧客の思考や感情も含めて可視化し、サービス設計の基礎とするツールです。これを理解せず、「単なる時系列の整理」と捉えると狙いがずれます。 -
参加者の範囲への注目不足
「PTのメンバに加えて、社内のペルソナに近い人物を集めて議論」という部分を軽視し、議論が内部だけで完結していると誤解すると、機能抽出の根拠として不十分になります。
試験対策として覚えておくべきポイント
- サービスデザイン思考の開発では、利用者の体験価値に注目し、利用者視点を重視することが基本である。
- ペルソナやカスタマジャーニーマップは、利用者の潜在ニーズや感情、行動を具体的に理解してサービス改善に活用する重要な手法である。
- 議論には提供者だけでなく、利用者に近い者(ペルソナに近い人物)を交えることで、より実践的な意見が得られる。
- カスタマジャーニーマップは単なる時系列整理ではなく、利用者の感情の起伏も含めてサービス設計に活かすものである。
以上を踏まえ、解答では「利用者側の視点から新サービスで必要とされる具体的な機能を考え出すため」という表現が最も適切です。
設問3(1):〔新たな機能の抽出〕について、(1)~(3)に答えよ。
健康増進事業部と営業推進部が提案した健康ポイントに関する機能には、それぞれ狙いがある。一つは、営業推進部の狙いとして、ポイントを利用してR社の商品,有料サービスなどを多くの利用者に使ってもらうことである。もう一つの健康増進事業部の狙いを30字以内で述べよ。
模範解答
利用者に継続的にコミュニティ活動を行ってもらうこと
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点
- 健康増進事業部の狙い:利用者に継続的にコミュニティ活動を行ってもらうこと
- コミュニティ活動の継続促進が新サービス成功の鍵
- 「健康ポイント」というインセンティブを通して継続利用を促す意図
なぜその解答になるのか(論理的説明)
問題文の「〔新たな機能の抽出〕」の記述で、健康増進事業部と営業推進部からの提案として「健康ポイント」に関する機能を提供することが示されています。
特に、健康増進事業部は従来の製品企画・開発に加え、新サービスで「利用者が継続的にコミュニティ活動を行うことを支援する」という役割を担っていることがポイントです。
「(1)健康増進事業部
新たにオンラインコミュニティを企画、運営し、利用者が継続的にコミュニティ活動を行うことを支援する。」
また、健康ポイントはオンラインコミュニティの利用頻度や目標達成、順位に応じて付与されるため、利用者の継続的な参加を促すインセンティブとして機能することが意図されています。
これに対し、営業推進部は「R社の商品、有料サービスなどの販売促進活動」を狙いとしており、異なる目的が双方にあることも明確です。
受験者が誤りやすいポイントやひっかけ
-
ポイントの使途の違いに注意
「健康ポイント」の目的を混同しやすい。営業推進部の狙いは商品や有料サービスの販売促進であるため、「販売促進」や「購買促進」という解答は健康増進事業部の狙いとは異なる。 -
単なる健康ポイントの付与では不十分
「ポイント付与」そのものを狙いとする回答は本質を捉えていない。重要なのは「利用者の継続的コミュニティ活動」という行動変容を促すこと。 -
コミュニティの活動=単なる利用ではない点
継続的「コミュニティ活動」とは、単なるログインや閲覧ではなく、「活動の継続的参加」を指すことに注意。
試験対策として覚えておくべきポイントや知識
サービスデザイン思考では、利用者がサービスを継続利用し続けることが重要な成功指標であるため、「継続的なコミュニティ活動の促進」が健康増進事業部の狙いである点を押さえましょう。
以上の理解をもとに、健康増進事業部の狙いは「利用者に継続的にコミュニティ活動を行ってもらうこと」と整理できます。
設問3(2):〔新たな機能の抽出〕について、(1)~(3)に答えよ。
表3中のA-4の機能について、計算根拠のデータになる、(b)に入れる字句を答えよ
模範解答
b:活動量
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点
- キーワード:「活動量」
- 論点:
- 基礎代謝量に加えて消費カロリを推計するために使うデータ
- A-4機能の概要:「基礎代謝量及び当日の (b) から計算した消費カロリの推計と,体重の増減目標を踏まえた摂取カロリ目安の通知機能」
- 消費カロリ推計に必要な「当日の身体活動量」を示す言葉が(b)に該当する
なぜ「活動量」が正解になるのか
【問題文】の表3内「A-4」機能概要にある、「基礎代謝量及び当日の (b) から計算した消費カロリの推計」を分解して考えます。
- 「基礎代謝量」は、安静時に消費するエネルギー量のことで、ここではA-3の機能で「年齢、身長、体組成計の計測データから基礎代謝量を自動計算」されている。
- 消費カロリの推計には、この基礎代謝量だけでなく、身体活動によって消費したエネルギーを合算する必要がある。
- そのため、「当日の (b)」とは、身体が行った運動や活動の量を示すデータであり、これが「活動量」に相当する。
【問題文】の「新製品に係る取組」では、健康活動ログに「活動量計で計測する歩数、脈拍、睡眠時間などの活動量」が含まれていることも明記されています。これは身体活動を数値化したデータとして、消費カロリ推計の根拠となる重要な情報です。
したがって、(b)に入る言葉は「活動量」が最も適切です。
受験者が誤りやすいポイントとひっかけ
- 「消費カロリの推計」にあたり、(b)に入る言葉として「体重」や「筋肉量」などの体組成のデータを選ぶ誤りが考えられますが、体組成は基礎代謝量の計算に用いられるものであって、日々の消費エネルギー変動分にはなりません。
- 「健康診断結果」や「食事内容」などは重要な健康情報ですが、消費エネルギーの計算根拠としては直接使いません。
- 似た功能の中で「基礎代謝量の計算」と「消費カロリの推計」を区別できないと誤選択しやすいので注意が必要です。
試験対策として覚えておくべきポイント
- 基礎代謝量とは、何もしていなくても生命維持のために消費するエネルギー量であり、体の基本情報(年齢、身長、筋肉量など)から計算する。
- 消費カロリの推計は、「基礎代謝量 + 活動量による消費エネルギー」で算出される。
- 「活動量」とは、歩数や脈拍、運動量など身体の動きを表すデータ。
- サービスデザイン思考や健康管理アプリなどの文脈では、「基礎代謝量」と「活動量」はエネルギー消費計算の2大要素であることを理解すること。
- 表3の機能一覧を把握しておくと設問の理解が容易になる。
以上の点を踏まえ、今回の設問における(b)は「活動量」であると結論づけられます。
設問3(3):〔新たな機能の抽出〕について、(1)~(3)に答えよ。
表3中のB-6の機能を新たに抽出した理由を、30字以内で述べよ。
模範解答
利用者によっては,一部のデータは共有したくないから
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点
- キーワード:
- 「利用者によっては一部のデータは共有したくない」
- 「データの任意選択」
- 論点:
- 利用者のプライバシーや情報共有に関する配慮の必要性。
- 健康データ全てを強制的に共有させないための機能追加。
解答の論理的説明
表2のカスタマジャーニマップにおいて、オンラインコミュニティでの「思考・感情」の欄には、ペルソナAから次のような具体的な意見が挙げられています。
「ランニングの記録は共有したいが、体重など一部のデータは共有したくない(A)」
これに対応し、機能表(表3)のオンラインコミュニティの機能B-6に
「健康管理アプリからオンラインコミュニティにアップロードするデータを任意に選択できる機能」
が追加されています。
このことから、利用者のプライバシーや利用者ごとのニーズを尊重するために、データの全共有ではなく選択共有を可能にする機能を新たに抽出したことが明らかです。
したがって、新たに機能B-6を抽出した理由は、「利用者によっては、一部のデータは共有したくない」という利用者のプライバシー保護や利用者満足度向上に対応したものであると理解できます。
受験者が誤りやすいポイントやひっかけの選択肢
- 全データ共有を前提に考える点
「健康活動ログは共有するのだから、全てを強制共有すれば良い」と考えてしまう誤り。実際は利用者の中には共有したくない個別情報もあり、それを尊重することが必要です。 - 技術的機能やAI分析など別の機能と混同する点
「AI画像認識技術のような機能」「ポイント付与機能」などの特徴を理由に挙げてしまう点。機能B-6はあくまで「データの任意選択共有」に限定され、その狙いはプライバシー保護にあります。
試験対策として覚えておくべきポイント
以上の点を踏まえると、B-6機能を新たに抽出した理由は「利用者ごとに共有したいデータが異なるため、データの任意選択共有機能が必要になった」という利用者視点の配慮であることを理解してください。
設問4(1):〔新サービスの機能のリリース方針〕について、(1)~(3)に答えよ。
一定量のデータの蓄積と有効性検証を行わないと誤った情報の提供をしかねない機能として初期リリースの対象外とした機能はどれか。表3中の機能IDを用いて答えよ。
模範解答
B-4
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点
- 一定量のデータの蓄積と有効性検証が必要な機能
- 誤った情報の提供を防ぐため、初期リリース対象外とした機能
- 表3に示された機能一覧の中から該当する機能IDを選定
- 「膨大な健康活動ログをAI分析技術で解析し、無料の生活習慣改善助言を行う機能」(機能ID:B-4)
なぜ「B-4」が解答になるのか
問題文の開発方針の記述によると、
「一定量のデータの蓄積と有効性検証を行わないと誤った情報の提供をしかねない機能については、初期リリースの対象外とした。」
新サービスで提供される機能一覧(表3)を見ると、機能の内容は以下のように分類されています。
この「B-4」の機能は、健康活動ログという膨大で多様なデータをAIで分析し、生活習慣改善の助言を自動で行う機能です。AI解析の精度を担保するためには、多数のデータを集積し、その結果を検証しながら調整する必要があります。誤った助言を行うリスクがあるため、初期リリースではリスク回避の観点から除外しました。
一方で、他の機能は以下の観点で初期リリースの対象と判断された可能性が高いです。
- 既存の実績ある技術を利用する機能(例:A-2の他社製AI画像認識技術の活用)
- データの連携や単純計算に基づく機能(例:A-1、A-3、A-6)
- 利用者管理やポイント管理など、システム基盤に関連した機能(例:B-1、B-3)
以上より、「AI分析による生活習慣改善助言といった高度な推論を伴う機能(B-4)」は、十分なデータ蓄積と検証がなければ精度・妥当性の保証が難しいため、初期リリースの対象外にしたという理解になります。
受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ選択肢の解説
-
A-2「AI画像認識技術を利用した食事品目の自動認識」
- これもAIを使った機能ですが、問題文に「実績のある他社製の技術を活用する」とあるため、既に一定の信頼性が確立されている技術と判断でき、初期リリースの対象として問題ない。
-
B-5「専門家による有料の生活習慣改善指導サービス」
- 専門家が直接サービスを提供するものであり、AI助言のような自動解析に伴う誤情報のリスクは低い。
-
B-6「アップロードデータの任意選択機能」
- ユーザのプライバシー制御に関するもので、AI解析と比較して高度な検証は不要。
このため、AI解析の精度に依存するB-4に比べて、他のAI関連や複雑なロジックを伴わない機能は初期リリース対象となる可能性が高いです。この点を誤解し、「AI」というキーワードだけでA-2を選択しないよう注意してください。
試験対策として覚えておくべきポイント
- サービスデザイン思考や敏捷な開発では、段階的リリースとユーザフィードバックの反映が重要。
- AI解析や機械学習を使った機能は、十分なデータ蓄積と結果の検証を経て初期リリースに組み込むのが一般的。
- 機能の優先順位付けは、リスク管理(誤動作回避)、技術成熟度、開発コスト、ユーザ価値の観点から行う。
- 他社製の実績ある技術を利用する場合は、初期リリースに含めやすい。
- 新サービス開発時の用語(ペルソナ、カスタマジャーニーマップ)やその役割も押さえること。
以上を踏まえ、「B-4」が問題文の条件に合致して初期リリースの対象外であることを納得して覚えましょう。
設問4(2):〔新サービスの機能のリリース方針〕について、(1)~(3)に答えよ。
優先順位の設定の観点として、本文中の(c)に入れる観点を15字以内で答えよ。
模範解答
c:利用者の健康づくり
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点の整理
- キーワード:利用者の健康づくり
- 論点:新サービス開発における機能の優先順位設定の観点
- 背景:「利用者の体験価値に着目し、新サービスを通じて利用者の健康意識を高め、生活習慣の改善などの健康づくりにつながることを重視する」という開発方針
なぜその解答になるのか(問題文の記述を引用しながら)
本文の「〔新サービスの開発方針〕」に、以下の記述があります。
「新サービスの開発では、従来のスマホアプリの機能の提供にとどまらず、利用者の体験価値に着目し、新サービスを通じて利用者の健康意識を高め、生活習慣の改善などの健康づくりにつながることを重視することにした。」
この文から、新サービス開発の最重要視点は「利用者の健康づくり」であることがわかります。
続いて、初期リリースの対象の絞り込みに関して記述された部分では、
一定量のデータの蓄積と有効性検証を行わないと誤った情報の提供をしかねない機能は初期リリースの対象外とし、その他の機能については、機能が新サービスの開発方針である**(c)に寄与するかどうかの観点で分析**し、優先順位を設定した。
ここでの(c)は、新サービスの開発方針の「利用者の健康づくり」に当てはまります。
つまり、機能の優先順位は「利用者の健康づくりにどの程度寄与するか」という視点で判断されているため、(c)の解答は「利用者の健康づくり」となるのです。
受験者が誤りやすいポイントやひっかけの選択肢
-
技術面や提供側の視点と混同する
例:通信方式の実用性やシステムの開発効率など、一見重要に思える技術的な観点を優先基準と間違いやすい。
しかし、本文中で「利用者の体験価値に着目」「利用者の健康づくり」を重視していることが強調されているため、技術的な観点は優先順位設定の基準ではありません。 -
商品販促や売上目標と混同する
例:営業推進部の活動やマーケティング部の分析結果としての売上拡大に関する観点
しかし、これらは新サービスの開発方針ではなく、サービス運営や販売促進の側面であり、優先順位の設定の観点とは異なります。 -
サービス提供側の都合である「短期間でのリリース」や「変更のしやすさ」
これも開発計画上の制約ではあれど、優先順位の根幹となる観点ではなく、あくまでも開発を進める上の方策にすぎません。
試験対策として覚えておくべきポイント
以上の点を踏まえれば、サービス開発問題においては「利用者の健康づくり」など、目的・価値提供の観点が問われると理解しやすくなります。
設問4(3):〔新サービスの機能のリリース方針〕について、(1)~(3)に答えよ。
3)短期間で開発可能で、変更がしやすいシステム構造を採用することにした、新サービスの開発方針上の理由は何か。30字以内で述べよ。
模範解答
段階的に新サービスの機能を拡充させることにしたから
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点
- 段階的に機能を拡充させる開発方針
- 短期間でのリリースの必要性
- 変更がしやすいシステム構造の採用
- フィードバックを基にした改善と軌道修正
これらが焦点となり、模範解答は「段階的に新サービスの機能を拡充させることにしたから」となっています。
なぜこの解答になるのか(問題文の引用を含む説明)
問題文には、R社の新サービス開発における重要な方針として以下の記述があります。
「新サービスとして提供する機能を一度に全て開発するのではなく、実際の利用者からのフィードバック内容を分析し、改善と軌道修正を繰り返すことで、段階的に新サービスの機能を拡充させ、利用者が継続的にコミュニティ活動を行えることを目指すことにした。」
また、リリース方針の部分では、
「短期間で新サービスをリリースする必要があるので、…開発量が開発期間及び予算内に収まる機能を初期リリースの対象とした。その上で、短期間で開発可能で、変更がしやすいシステム構造を採用することにした。」
つまり、R社は利用者の声を反映しながら機能を段階的に追加していくため、柔軟に改修や拡張が行える構造が必要となります。短期間での初期リリースと継続的な改善を両立させるため、変更に強い設計が不可欠なのです。
受験者が誤りやすいポイントと注意点
-
「短期間で開発可能」だけを挙げてしまう誤り
短期間での開発は重要ですが、問題文が問う理由は「変更がしやすい構造」という点も含まれています。単に開発期間短縮だけでは不十分です。 -
「品質向上のため」などの別理由を挙げる誤り
問題文の背景には品質重視の従来アプローチがある一方で、新サービスは「利用者の体験価値に着目した改善重視」なので、品質向上は段階的リリースの副次効果であり、主因ではありません。 -
**「利用者の要望を満たすため」**という回答も部分的に近いですが、より具体的に「段階的な機能拡充」という方針を示せるかが大切です。
試験対策として覚えておくべきポイント
-
サービスデザイン思考・アジャイル開発の特徴を理解すること
利用者のフィードバックを反映しながら段階的に進める開発が求められる場合、短期間で開発しやすく変更に強い設計を選択する必要があります。 -
問題文の開発方針やリリース方針を正確に把握すること
「段階的に機能を拡充」「改善と軌道修正を繰り返す」というキーワードは重要ワードです。 -
「システム構造」や「変更がしやすい」という言葉の意味合いを正しく理解する
変更に強いシステムとは、柔軟性が高く、拡張・修正が容易である設計やアーキテクチャを指します。 -
40字以内や30字以内での簡潔な表現力の訓練をする
情報処理技術者試験・午後Ⅰ問題では、短い字数制限で本質を問われることが多いので、端的に伝える練習をしましょう。
以上の理解を深めることで、本問の解答と理由に納得しやすくなり、同種の問題にも対応できるようになります。