システムアーキテクト試験 2021年 午後101


企業及び利用者に関する情報の管理運用の見直しに関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。

 A研究所は、地域の中小企業などの産業支援を目的にする、地方公共団体が設立した試験研究機関である。   〔A研究所の事業概要〕  A研究所は、産業支援事業の一環として、特別な試験機器、設備などが必要になる試験について、企業から委託を受けてA研究所が試験を行う依頼試験事業(以下、依頼試験という)を行っている。それとは別に、試験機器、設備などを時間単位で貸し出し、企業自らが試験を行う機器・設備利用事業(以下、機器・設備利用という)を行っている。A研究所は、これら二つの事業を主要な産業支援事業(以下、主要事業という)にしており、その他に技術相談、技術セミナーの開催、独自の研究などを行っている。  主要事業は、A研究所が所在する地域の中小企業の利用が中心であるが、その他の地域の企業、大企業、法人登記していない個人事業者などによる利用も可能である。主要事業は有料で提供しており、利用料金には、一般料金と、中小企業及び個人事業者向けの優遇料金がある。一般料金と優遇料金のどちらを適用するかについては、株式会社社団法人などの法人種別、業種、資本金及び従業員数でA研究所が判断している。過去の料金体系では、A研究所を所管する地方公共団体の区域内に本店、支店などの事業所が所在する場合、料金を安くする制度があったが、別の助成制度の提供に伴い、現在は廃止されている。   〔現行業務の概要〕   現在の主要事業の基本的な業務の流れは、次のとおりである。
 (1) 問合せ、相談   A研究所が提供する事業全般に関する問合せ、試験内容などに関する相談などを受け付ける。A研究所では、総合窓口を用意しており、初めてA研究所を利用する場合などは、まず総合窓口の職員が概要を確認し、適切な専門部署につないでいる。問合せ、相談内容は、主要事業を管理する情報システム(以下、事業管理システムという)に登録している。  (2) 企業情報及び事業所情報の登録(新規利用の企業などの場合)   利用者がA研究所を初めて利用する場合、総合窓口で名刺を提示してもらい、事業管理システムの企業マスタに利用者が所属する企業が既に登録されているかどうかを企業の商号又は名称(以下、企業名という)などで検索し、確認する。未登録の企業だった場合は、利用者に企業登録用紙への記入を依頼し、企業名、所在地、法人種別、業種、資本金、従業員数などの情報(以下、企業情報という)を確認の上、企業マスタに登録する。利用者が所属企業の資本金、従業員数などが分からない場合、総合窓口の職員が代わりに公表情報を調べて登録するケースがある。   企業情報を新規に登録すると、事業管理システムで企業を一意に識別する企業コードが付与される。また、企業情報が登録済でも、利用者が所属する事業所が未登録の場合は、同じ企業コードで枝番だけを変更し、事業所名、所在地、代表電話番号などの情報(以下、事業所情報という)を入力して企業マスタに登録する。その際、企業名などの既に企業マスタに登録済の属性情報は入力不要にしている。個人事業者の場合も、企業情報として登録し、法人種別には“個人”を設定する。   なお、企業情報を新規に登録する際に、入力された内容を基に、適用料金区分として、中小企業及び個人事業者向けの料金を適用する“優遇”か、それ以外の般”かを、事業管理システムが自動判断して登録する。  (3) 利用者情報の登録及び利用者カードの発行(新規利用者の場合)   企業マスタに事業所情報が登録済で、利用者がA研究所を初めて利用する場合は、利用者に利用者登録用紙の記入を依頼し、名刺及び本人確認できる身分証を提示してもらい、総合窓口の職員が利用者の氏名、連絡先などの情報(以下、利用者情報という)を、登録済の事業所情報に関連づけて利用者マスタに登録する。その事業管理システムで利用者を一意に識別する利用者コードが付与される。   利用者情報の登録が完了すると、主要事業の受付時などに使用するバーコード付きのプラスチックの利用者カードを発行する。大企業などでは様々な部署がA研究所を利用するケースがあり、誰が利用したのかを識別して管理したいことから、企業単位ではなく、利用者個人ごとに利用者カードを発行している。そのため、同じ企業に所属する者であっても、他の利用者の利用者カードを借りて利用することは禁止している。一方で、利用者カードが本人のものであるかどうかを、受付時に厳密には確認していない。  (4) 試験内容などの決定   専門部署の職員は、利用者からより詳しい内容を聞き取り、試験内容などの詳細を決定する。専門部署での受付時に利用者カードを提示してもらい、決定した試験内容などを事業管理システムに登録する。   なお、利用者カードの持参を忘れた場合は、総合窓口に案内し、名刺及び本人確認できる身分証を提示してもらい、利用者カードを再発行している。再発行すると、古い利用者カードを無効にし、使用できないようにする。  (5) 見積書及び申込書の作成   省略。  (6) 申込手続   省略。  (7) 試験実施   省略。  (8) 報告書の納品(依頼試験の場合)   依頼試験の場合、依頼内容に応じた試験結果を報告書にまとめ、利用者に対して納品する。報告書の宛名は企業名にしている。納品は、来所してもらい手渡しするか、報告書を郵送で提出する。郵送の場合の送付先は、利用者が所属する事業所の所在地にしている。  
〔現行の事業管理システムにおける企業及び利用者に関する情報の管理運用〕  現行の事業管理システムでは、企業及び利用者に関する情報をマスタで管理している。現行の事業管理システムで使用している主なマスタを表1に示す。企業情報を利用者に確認したり、職員が公表情報を調べたりする作業負荷を軽減するため、企業マスタで管理する属性の一部は、信用調査会社から年に1回、企業データベース(以下、企業DBという)を購入し、登録している。購入したデータは、A研究所を過去に利用したことがない企業も含めて企業マスタに登録更新している。ただし、費用面の都合から、購入する企業DBは、A研究所が所在する区域内に本店が所在する企業だけとしており、本店以外の事業所情報及び個人事業者の情報は購入していない。
システムアーキテクト試験(令和2年 午後I 問1 表1)
〔企業及び利用者に関する情報の管理運用に対する改善要望〕  現行の企業及び利用者に関する情報の管理運用に対して、利用者及びA研究所職員から次に示す改善要望が挙がっている。
 (1)利用者からの改善要望   ・A研究所を頻繁に利用しないので、利用者カードを忘れてくることが多い。その都度、利用者カードの再発行が必要になり、手続が面倒である。  (2)総合窓口の職員からの改善要望   ・A研究所が所在する区域外に本店がある企業など、企業DBに含まれない企業の利用が多く、企業情報の登録作業が負荷になっている。   ・現在、事業所単位で企業マスタに登録しているので、本店の情報は登録されているが、支店などの事業所情報を新規に登録しなければならないケースが多い。事業所別で情報を管理しているのは、過去の料金体系時の経緯であり、現在の料金体系では企業マスタとして事業所別の情報を管理する必要性がない。    ・利用者カードの発行、再発行に手数料を取っていないので、利用者カードの媒体や発行手続に係る費用が負担になっている。プラスチックの利用者カードは順次廃止し、電子化したいが、電子化後も利用者カードの発行の考え方、使用ルールは現在の運用を踏襲したい。  (3)専門部署の職員からの改善要望   ・企業名が変更になったり、屋号などの正式な企業名ではない情報で登録されていたりすることから、同一企業であるにもかかわらず別企業として企業マスタに登録されているデータが散見され、検索、集計などの際に問題がある。  
〔企業に関する情報の管理運用の見直し〕  現行の事業管理システムの老朽化に伴い、マスタで管理する情報の変更を含めて事業管理システムを刷新することにした。刷新に当たっては、前述の改善要望を踏まえて、企業に関する情報の管理運用を次のとおり見直すことにした。  ・国税庁法人番号公表サイトで提供されている企業名、本店又は主たる事務所の所在地、及び法人に一つ指定される法人番号から構成される基本3情報(以下、法人情報という)の提供サービスを利用し、全国の法人情報の全件データ及び日次で取得した法人情報の差分データを用いて、企業マスタに登録・更新する。   なお、提供される法人情報は、法人登記し、法人番号が指定された法人全てが対象である。また、法人番号が指定されない個人事業者などは対象外である。法人情報以外の電話番号、代表者氏名、支店の情報などは提供されない。  ・企業マスタは法人情報の利用に伴い、事業所単位ではなく企業単位で情報を管理することにし、登録済の企業情報は、システム刷新時にできる限り法人情報に名寄せする。一方で、事業所情報は、利用者マスタで管理する。  ・上記によって、企業情報の登録作業はある程度軽減され、誤った企業名での登録や重複登録は減る見込みである。また、①特定の属性情報を利用するに当たり、企業情報を確認したり、調べたりする作業負荷が増えないよう、企業DBを引き続き購入する。  ・②企業に関する情報が企業マスタに登録されていないケースを想定して、企業情報の新規登録機能は引き続き残すことにする。  
〔利用者に関する情報の管理運用の見直し〕  企業に関する情報の管理運用の見直しと同時に、利用者に関する情報の管理運用も次のとおり見直すことにした。  ・総合窓口における利用者情報の新規登録手続を簡便化するため、利用者がA研究所のホームページからオンラインで利用者情報を事前登録できる機能を提供する。その際、法人に所属する利用者の場合は、企業情報の入力をできる限り簡略化し、かつ所属企業との関連づけができるよう、(a)の入力を求める。  ・オンラインでの登録の場合、なりすましによる不正登録を防止するため、仮登録の状態にする。利用者は、依頼試験又は機器・設備利用の際には一度は来所が必要になるので、初回の来所時に身元を確認してから本登録にする。  ・プラスチックの利用者カードを廃止して、利用者コードから生成するQRコードを利用した利用者カードに変更し、スマートフォンなどでいつでも表示可能にする。本登録の際に、利用者の電子メールアドレスに利用者マスタの情報から生成したURLを送付し、そのURLにアクセスするとQRコードが表示される。このとき③電子化前の利用者カードの使用ルールを踏襲し、URLにアクセスする都度、利用者の電子メールアドレス又は携帯電話のショートメッセージサービスにワンタイムのPINを送付し、PINを入力しないとQRコードが表示できない仕組みにする。

設問1

〔現行業務の概要〕について、利用者カードに印字されているバーコードに必ず含まれる情報を表中の属性名を用いて答えよ。また,その属性をバーコードに含めている利用者カードに対する業務の管理運用上の理由を35字以内で述べよ。
模範解答
情報:利用者カード番号 理由:再発行の際,古い利用者カードを使用できないようにしたいから
解説

模範解答の核心となるキーワードや論点整理

項目内容
情報利用者カード番号
理由利用者カードの再発行時に古いカードを無効化するため
  • バーコードに必ず含む情報は「利用者カード番号」である。
  • 利用者カード番号をキーにカードの状態(有効/無効)を管理し、不正利用防止と管理運用の効率化を図る。

なぜその解答になるのか(問題文の引用を交えた論理説明)

問題文の「〔現行業務の概要〕 (3) 利用者情報の登録及び利用者カードの発行」及び「(4) 試験内容などの決定」より、以下の記述が重要です。
「利用者カードマスタ」には、「利用者カード番号」がキーとして管理されている。
「利用者カードの発行、再発行に際し、再発行すると古い利用者カードを無効にし、使用できないようにする。」
また、
「専門部署の職員は受付時に利用者カードを提出してもらい、決定した試験内容などを事業管理システムに登録する。」
これらから、
  • 利用者カード番号はバーコードに内包され、カードの識別子として機能することが読み取れます。
  • この番号により、カードの有効・無効状態をチェックし、古いカードの利用防止を実現しています。
  • 「再発行の際に古いカードを使用できないようにする」が管理運用上の主な目的です。
したがって、バーコードに含まれるべき情報は「利用者カード番号」であり、その理由は「再発行時に古いカードを無効にし、本人以外のカード使用を防ぐため」になります。

受験者が誤りやすいポイントと注意点

  1. 「利用者コード」や「利用者氏名」ではない理由
    利用者を一意に識別するための番号は複数あるが「利用者コード」ではなく「利用者カードに固有の番号」である「利用者カード番号」をバーコードに使う。
    「利用者コード」と異なり、「利用者カード番号」はカードごとに異なり、再発行時に古いカードの無効化が可能。
  2. 複数ユーザーの共用を禁止しているが、受付での本人確認が厳密ではない点
    バーコードの役割は識別子の提供であり、本人確認はカード提示の運用ルールとして別途位置づけられている。
  3. 「氏名」や「連絡先」などの個人情報はバーコードに含めない
    個人情報をバーコードに含めることはプライバシーの観点で避けられ、管理運用上は識別番号のみで管理する。

試験対策として覚えておくべきポイントや知識

  • 利用者カード管理では「カード番号」をキーに状態(有効・無効)管理を行うことが通例であること。
  • バーコードには「利用者カード番号」が含まれ、これによりシステム連携が容易になる。
  • 再発行が必要な理由(カードの紛失・忘れ物対策)や、古いカード無効化の運用は必ずセットで覚える。
  • 個人や企業識別に用いるキーは複数存在するが、カード認証には「カード番号」を使うことが多い。
  • 個人情報や機密情報はバーコードなどの物理媒体に直接含めず、システムの内部データベースで管理。

まとめ

項目内容
バーコード情報利用者カード番号
理由カードの再発行時に古いカードを無効にし、不正利用防止と管理運用効率化のため
本問題を通じて、【利用者カード管理における識別番号の役割】と【再発行時の古カード無効化の意義】を理解することが重要です。試験では理由を簡潔明瞭にまとめる力も問われるため、日頃から論理的説明の練習をしましょう。

設問2(1)〔企業に関する情報の管理運用の見直し〕について,(1)~(3)に答えよ。

企業マスタは事業所単位ではなく企業単位で情報を管理することにした一方で,利用者マスタ上で事業所情報を引き続き管理することにしたのは,主要事業の業務の流れ上どのような用途で利用することを想定したからか。20字以内で述べよ。
模範解答
報告書の送付先として利用すること
解説

模範解答の核心となるキーワードや論点整理

  • 企業マスタは企業単位で管理
  • 利用者マスタで事業所情報を引き続き管理
  • 報告書の送付先として事業所所在地を利用
  • 業務の流れ上、試験結果の報告書郵送時の送付先(事業所住所)が重要
  • 企業単位での情報管理だと、報告書の正しい届先指定が困難なため

なぜその解答になるのか(問題文の記述を引用しながら説明)

問題文の「(8)報告書の納品(依頼試験の場合)」に次の記述があります。
「報告書の宛名は企業名にしている。納品は、来所してもらい手渡しするか、報告書を郵送で提出する。郵送の場合の送付先は、利用者が所属する事業所の所在地にしている。」
つまり、依頼試験の結果報告書は郵送される際に「利用者が所属する事業所単位の住所」へ送られます。この送付先の情報は業務運営上必須です。
一方で、企業マスタは「法人番号などの全国的な法人情報に基づき企業単位でのみ管理し、事業所単位の管理はやめる」とされています。
よって、
  • 企業単位の管理では所在地は本店または主たる事務所のみが登録される
  • 報告書送付先として必要な「利用者の所属する事業所単位の所在地情報」は、企業マスタでは管理できない
そのため、事業所情報は利用者マスタで引き続き管理し、報告書送付先として活用する業務要件を満たすことになります。

受験者が誤りやすいポイントやひっかけの選択肢

  • 「企業マスタで事業所情報を管理しない理由は、料金体系に関係するから」と誤解しがち
    → 現問題文では料金は法人単位で判断し、事業所単位の料金差別は不要となったが、直接の理由は報告書送付先管理のために事業所情報の管理が利用者マスタに残されている。
  • 「利用者カードや身分証確認のため」など、他の管理用途で事業所情報を利用していると誤解すること
    → 問題文では利用者カード発行などには所属企業の確認はするが、事業所情報管理の理由として明示されていない。
  • 「オンライン登録時の手続き簡略化」などの利用者情報管理上の理由と混同しやすい
    → これは利用者情報の管理見直しの説明であり、企業マスタの事業所情報管理との関連性はない。

試験対策として覚えておくべきポイントや知識

  • 企業情報は法人番号などの基本情報による企業単位管理が主流になっている
    企業名や所在地は全国共通の公的データを活用し、重複登録や誤登録防止に役立てる。
  • 業務運用上、事業所単位の情報管理が必要な場合は別マスタ(例:利用者マスタ)で管理することがある
    特に「報告書送付の郵送先」や「連絡先」として適切な事業所住所は現場の重要要件。
  • 法人情報は法人番号指定のある法人のみ対象で、個人事業主などは引き続き手動登録や補足管理が必要
  • 問題文における情報の管理見直しは、業務の現実に即したシステム設計と情報の正確性工数軽減の両立がポイント

まとめ

ポイント内容
事業管理システムの企業マスタ管理法人単位で全国の法人情報(法人番号等)で一元管理
事業所情報の管理場所利用者マスタで管理し、事業所ごとの所在地を登録
業務上の重要用途報告書郵送の送付先住所(利用者所属の事業所所在地)として利用
重要な業務流れの確認箇所「(8)報告書の納品」郵送先は利用者事業所所在地

以上より、

企業マスタを企業単位管理にし、利用者マスタで事業所情報を引き続き管理する理由は、「報告書の送付先として利用すること」である。

設問2(2)〔企業に関する情報の管理運用の見直し〕について,(1)~(3)に答えよ。

法人情報を利用することにしたが、本文中の下線①のように,作業負荷が増えないよう,企業DBを引き続き購入することにした理由を,表1中の属性名を用いて35字以内で述べよ。
模範解答
適用料金区分を判断するための情報は,法人情報には含まれないから
解説

1. 模範解答の核心キーワードと論点整理

  • 適用料金区分
  • 法人情報には含まれていない
  • 作業負荷増加防止のため企業DBを引き続き購入
「適用料金区分」という属性情報が法人情報にはないため、引き続き企業DBから購入して登録する必要がある、この点が論点です。

2. 解答に至る論理的説明

本文中の企業マスタの属性(表1)には「適用料金区分」という項目があり、これは「一般料金」か「優遇料金」かを判断するための重要な属性です。
マスタ名主な属性(下線は主キー)
企業マスタ企業コード、企業コード枝番、本支店区分、業種、法人種別、企業名(漢字)、企業名(カナ)、代表者氏名、資本金、従業員数、 適用料金区分、事業所名、郵便番号、所在地、代表電話番号
(注)特に「資本金」や「従業員数」は優遇料金を適用する中小企業の判定に利用されます。
一方、新システムで採用する「法人情報」には、
「企業名,本店又は主たる事務所の所在地,法人番号」の基本3情報のみ提供
法人番号が指定されない個人事業者は対象外
電話番号、代表者氏名、支店の情報は提供されない
という制約があるため、「適用料金区分」判定に必要な資本金や従業員数の情報が含まれていないのです。
したがって、
  • 法人情報だけで適用料金区分を判定できない
  • 料金判定に必要な「資本金」や「従業員数」などの情報は法人情報に含まれない
  • これらの情報は現状、信用調査会社の企業DBから得られている
  • 料金判定の正確性を担保しつつ、作業負荷の増加を防ぐためにも企業DBを継続して利用する必要がある
という理由から、下線①部分「作業負荷が増えないように企業DBを引き続き購入する」という判断となります。

3. 受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ解説

  • 「法人情報には電話番号や代表者名もない」ことに注意
    電話番号や代表者名などがないことは事実ですが、これは料金適用の判断には直接関係しません。料金判定は「資本金」や「従業員数」などで判断しているため、これらの情報が法人情報に含まれないことがポイントです。
  • 「事業所別の情報は事業所情報マスタで管理する」ため、事業所毎の料金判定ではない
    事業所情報を企業マスタに登録しないことで業務負荷を減らす狙いはあるものの、料金判定を企業単位で行うため法人情報の不足項目をカバーする必要があります。
  • 「法人情報に含まれる企業名や所在地だけでは料金区分の判定はできない」点を見落とす
    この点を見落とし、「法人情報があれば十分に料金判定できる」と誤解しやすいです。

4. 試験対策のポイントまとめ

  • 企業情報管理システムで「適用料金区分」は重要な属性であり、「資本金」「従業員数」「法人種別」などから自動判定していることを理解する。
  • 「法人情報」として提供される内容は限られており、法人番号、企業名、本店所在地のみで、料金判定に必要な属性は含まれないことを覚える。
  • 既存の信用調査会社の企業DBは料金判定に必要な追加情報を取得できるため、新システムでも併用し情報の補完を行う必要がある。
  • マスタ設計の観点では、「企業情報は企業単位で管理」「事業所情報は利用者マスタで管理」となり、情報の分割管理に注意する。
  • 作業負荷軽減とデータ精度向上のバランスを意識した改善であることを押さえる。

この理解を踏まえ、情報処理技術者試験の「午後1」問題では、業務要件と情報システムの設計・運用改善の関連を正確に把握する力が問われます。今回のように「どの属性情報があるか」「それが何のためか」を整理して解答すると正解率が高まります。

設問2(3)〔企業に関する情報の管理運用の見直し〕について,(1)~(3)に答えよ。

本文中の下線②のケースとして二つのケースが考えられる。一つは,法人登記した直後で法人情報がまだ提供されていない企業が利用するケースである。もう一つのケースを15字以内で述べよ。
模範解答
個人事業者が利用するケース
解説

模範解答の核心となるキーワードや論点

  • 「法人登記した直後で法人情報がまだ提供されていない企業」が一つのケース
  • もう一つのケースは「個人事業者が利用するケース」
  • 法人番号が付与される法人と、付与されない個人事業者の違い
  • 企業マスタへの登録対象とデータ取得元の違い

解答の論理的説明

問題文の下線②は以下の部分です。
②企業に関する情報が企業マスタに登録されていないケースを想定して,企業情報の新規登録機能は引き続き残すことにする。
ここで「企業に関する情報が企業マスタに登録されていないケース」として、模範解答は「個人事業者が利用するケース」としています。
これは本文中に次の根拠があります。
・法人情報は...法人に一つ指定される法人番号から構成され、法人番号が指定された法人全てが対象である。また, 法人番号が指定されない個人事業者などは対象外である。
また、現行の運用としても、
・個人事業者の場合も,企業情報として登録し,法人種別には“個人”を設定する。
つまり、
  • 法人登記され法人番号がある企業の場合は、国税庁法人番号公表サイトのデータ(法人情報)で全国の企業情報がほぼ網羅され、登録・更新される。
  • 法人番号が付与されない個人事業者(法人登記していない)は、データ提供元に情報がないため、企業マスタに登録されていない可能性が高い。
  • そのため、個人事業者は企業情報を新たに手作業で登録する必要がある=新規登録機能を残す必要がある。
このことから、法人番号の付与されない「個人事業者」が「企業マスタに登録されていないケース」の代表例であると結論付けられます。

受験者が誤りやすいポイント・ひっかけの選択肢

  1. 「法人登記した直後の企業」と誤解しないこと
    問題文冒頭にこのケースもあると明示しているため、他のケースを答える必要があります。
    「まだ法人情報が提供されていない法人」もあるが、解答ではこれとは別のケースを問われています。
  2. 「法人」と「個人事業者」の区別
    法人番号がつく法人は法人情報が入手可能なため登録済になることが多い。
    個人事業者は法人番号が付かず、法人情報にも含まれないため登録されていない可能性がある。これを理解しないと間違えます。
  3. 「支店情報」や「事業所単位の情報」も対象外だと思い込まないこと
    支店など事業所情報は法人番号情報とは別管理ですが、法人情報の対象は法人である点に注意。

試験対策として覚えておくべきポイント

  • 国税庁法人番号公表サイトの法人情報は、法人登記された企業(法人番号付与企業)を対象としていること。
    個人事業者は対象外なので、これらは別途手作業で登録する必要がある。
  • 企業情報管理において「法人番号がついているか否か」が重要な区分となる。
    法人番号がある企業は基本的に法人情報DBで網羅可能だが、ない企業は手作業登録となる。
  • 制度変更やマスタ設計の背景にある「データ入手先と範囲の違い」を理解することが問題のポイント。

参考:本文中の関連部分の再掲

内容の要点引用文(抜粋)
法人情報データの範囲「法人番号が指定された法人全てが対象である。また,法人番号が指定されない個人事業者などは対象外である。」
企業マスタの企業登録の実務「個人事業者の場合も,企業情報として登録し,法人種別には“個人”を設定する。」
改善要望のひとつ「法人登記した直後で法人情報がまだ提供されていない企業」「個人事業者が利用するケース」が新規登録が必要なケースと明示

以上より、「企業に関する情報が企業マスタに登録されていないケース」のうち、「法人登記した直後の法人以外」のケースとして適切な解答は「個人事業者が利用するケース」となります。

設問3(1)〔利用者に関する情報の管理運用の見直し〕について,(1)~(3)に答えよ。

システム刷新後の利用者マスタで新たに必要になる情報が二つある。一つは,これまで企業マスタで管理していた事業所情報である。もう一つの情報を25字以内で述べよ。
模範解答
利用者が,仮登録か本登録かを識別する情報
解説

1. 模範解答の核心となるキーワードや論点の整理

  • 課題: システム刷新に伴い「利用者マスタ」に新たに必要な情報が二つある
    • ① 事業所情報(従来は企業マスタで管理)
    • ② 利用者の「仮登録か本登録か」の識別情報
  • 理由: 利用者がオンラインで事前登録し、初回来所時に本人確認を行い本登録へと切り替える運用になるため
  • 模範解答: 「利用者が,仮登録か本登録かを識別する情報」

2. なぜその解答になるのか(問題文からの引用と論理的説明)

問題文の「利用者に関する情報の管理運用の見直し」部分から重要な点を引用します。
・総合窓口における利用者情報の新規登録手続を簡便化するため、利用者がA研究所のホームページからオンラインで利用者情報を事前登録できる機能を提供する。その際、法人に所属する利用者の場合は、企業情報の入力をできる限り簡略化し、かつ所属企業との関連づけができるよう、(a)の入力を求める。
・オンラインでの登録の場合、なりすましによる不正登録を防止するため、仮登録の状態にする。利用者は、依頼試験又は機器・設備利用の際には一度は来所が必要になるので、初回の来所時に身元を確認してから本登録にする。
これらの記述により以下のことがわかります。
  • 利用者の「オンライン仮登録」と「初回来所による本人確認後の本登録」という2段階の登録プロセスが導入される。
  • この2段階を区別するために、利用者マスタで、利用者が「仮登録」か「本登録」かの状態を識別できる情報が必要になる。
  • 従来の紙媒体の利用者カード発行とは異なり、この識別情報はシステム上で利用者の登録状態を管理し、権限付与や利用者管理の根幹となるため、必須である。

3. 受験者が誤りやすいポイントやひっかけの選択肢への注意

  • 「事業所情報」以外の情報を答える問題であることに注意
    問題文で二つ必要とされている情報の一つは「事業所情報」と明言されています。受験者は二つ目の情報として何を答えるかが問われているため、「事業所情報」以外の要素に的を絞る必要があります。
  • 「利用者コード」や「利用者カード番号」など既存の識別子と混同しないこと
    既に「利用者コード」は存在しますが、今回必要なのは「利用者が仮登録か本登録かを識別するための状態情報」です。単なるIDではなく、登録状態を示す属性である点が重要です。
  • 「本人確認情報の有無」や「ワンタイムPIN」などのセキュリティ関連情報ではないことに注意
    これらは本人確認やログイン時のセキュリティに関する情報であり、利用者登録状態の管理とは別の概念です。
  • 利用者の「個人情報」や「連絡先」などは従来から管理されているため解答には該当しない
    新たに必要と問われている情報は、運用変更に伴い新規に導入される情報であるため、既存管理情報は対象外です。

4. 試験対策として覚えておくべきポイントや知識

ポイント内容
登録状態の管理が重要システムで仮登録・本登録等の状態を区別し管理できることが安全運用の基本
二段階登録プロセスの理解オンライン仮登録+来所本人確認による本登録の流れと必要な情報の把握
マスタ設計に注意企業情報、事業所情報、利用者情報等を適切なマスタで管理し、変更点を正確に区別する必要がある
制度変更に伴う情報追加に敏感になる例えば「利用者の登録状態」等の業務プロセス上の状態情報は、システム刷新時のよくある追加情報
模範解答は短く明確に問題の要件(25字以内)に沿って簡潔に答える訓練をする

以上より、本問題の解答は「利用者が,仮登録か本登録かを識別する情報」となる理由と選択肢の検討ポイントを明確に理解できるでしょう。

設問3(2)〔利用者に関する情報の管理運用の見直し〕について,(1)~(3)に答えよ。

オンラインでの利用者情報の登録について,(a)に入れる字句を答えよ。
模範解答
a:法人番号
解説

解説:小問「オンラインでの利用者情報の登録について、(a)に入れる字句」


1. 模範解答の核心キーワードや論点の整理

  • 法人番号
  • 企業情報の簡略化と関連づけ
  • 法人情報の活用
  • オンライン登録の利便性向上

2. なぜ「法人番号」が解答になるのか【問題文の引用・論理的説明】

【問題文】の「利用者に関する情報の管理運用の見直し」部分に、次の記述があります。
・総合窓口における利用者情報の新規登録手続を簡便化するため、利用者がA研究所のホームページからオンラインで利用者情報を事前登録できる機能を提供する。その際、法人に所属する利用者の場合は,企業情報の入力をできる限り簡略化し,かつ所属企業との関連づけができるよう、(a)の入力を求める。
この「(a)」に入る語句は、次の「企業に関する情報の管理運用の見直し」で説明される法人情報の一つであり、
・国税庁法人番号公表サイトで提供されている企業名、本店又は主たる事務所の所在地、及び法人に一つ指定される法人番号から構成される基本3情報(以下、法人情報という)の提供サービスを利用し、全国の法人情報の全件データ及び日次で取得した法人情報の差分データを用いて、企業マスタに登録・更新する。
上記の法人情報の中でも、企業と利用者をシステム上で一意に結びつけるために不可欠かつ最も有効な識別子が「法人番号」です。
法人番号は、法人登記された企業ごとに一意に割り当てられる番号のため、これを利用して所属企業の情報をシステム内で特定(名寄せ)することが可能となります。
そのため、オンライン登録時に利用者から「法人番号」の入力を求めることで、
  • 企業情報の二重登録を防止し
  • 入力の手間を軽減し(企業名や所在地の詳細入力を省略)
  • 正確に所属企業との関連づけができる
からです。

3. 受験者が誤りやすいポイントやひっかけ選択肢の理由

  • 「法人種別」「企業コード」などの選択肢
    • 法人種別は区分の一つだが、法人を一意に特定する識別子としては不適。
    • 企業コードは問題文のシステム内の独自コードであり、企業コードをオンライン登録の段階で利用者が知っているとは限らない。
  • 「企業名」
    • 企業名は同姓同名や表記揺れが発生しやすく、オンライン入力に誤りが出る恐れが高い。
    • 問題文にも法人番号による名寄せが必要なことが記載されているため、企業名だけでは不十分。
  • 「資本金」「従業員数」などの属性
    • これらは企業の属性情報に過ぎず、識別子として機能しにくい。

4. 試験対策として覚えておくべきポイント・知識

ポイント内容
法人番号の意義全国統一の法人識別番号。法人登記された企業には必須で割り当てられる。
法人情報の活用法人番号・企業名・所在地などの基礎情報を用いて企業の名寄せ・一意管理を実現。
オンライン登録時の工夫利用者負担の軽減と入力ミス防止のため、企業を特定できる唯一の識別子=法人番号を求める。
企業コードとの違い企業コードはシステム内管理用コードであり、利用者には馴染みが無い。
企業名の問題点表記揺れや変更が多いため、一意識別には不適。

まとめ

今回の問題で「(a)」に入る字句が「法人番号」である理由は、
法令に基づき全国すべての法人に一意に付与される番号であり、オンライン利用者登録時に入力してもらうことで、企業情報の入力を大幅に簡略化し、かつ利用者所属企業との正確な関連づけを可能にするからです。
法人番号という用語・意味は、情報処理技術者試験で、システム設計や業務要件でのマスタ管理で非常に重要となるキーワードであるため必ず押さえておきましょう。

設問3(3)〔利用者に関する情報の管理運用の見直し〕について,(1)~(3)に答えよ。

本文中の下線③の使用ルールとは何か。30字以内で述べよ。
模範解答
他の利用者の利用者カードを借りて利用することの禁止
解説

解説の核心キーワード・論点整理

  • 利用者カードの利用ルール
  • 他人の利用者カードの貸借禁止
  • 利用者個人ごとの管理
  • QRコード化での本人認証強化
  • 不正利用防止策

なぜその解答になるのか

問題文中の下線③の箇所に関連する内容をよく読み取ると、以下の記述があります。
「プラスチックの利用者カードは順次廃止し、電子化したいが、電子化後も利用者カードの発行の考え方、使用ルールは現在の運用を踏襲したい。」
その「現在の運用」を探すと、前述に
「大企業などでは様々な部署がA研究所を利用するケースがあり、誰が利用したのかを識別して管理したいことから、企業単位ではなく、利用者個人ごとに利用者カードを発行している。そのため、同じ企業に所属する者であっても、他の利用者の利用者カードを借りて利用することは禁止している。
と明確に「他の利用者の利用者カードを借りて利用することの禁止」が記載されています。
この部分こそが、下線③が指す「使用ルール」の核心です。今回の電子化では、QRコードにマルチファクター認証(メールやSMSでのワンタイムPIN入力)を追加することで、不正なカード共有を防止し、現状の禁止ルールを継承しつつよりセキュアに運用する点がポイントです。

受験者が誤りやすいポイントと注意点

1. 「本人確認の厳密な受付時確認」は現在行われていない

問題文に
「利用者カードが本人のものであるかどうかを、受付時に厳密には確認していない。」
とあり、受付時に本人確認を厳密にしていない現状との対比で、電子化後にPIN認証を導入し、不正利用防止を強化する点を押さえること。

2. 「利用者カードの無償再発行の負担軽減」など運用負担面の改善とは異なる

「使用ルール」が指すのは不正利用禁止のルールであって、単なる発行手数料の導入やカード媒体の変更とは区別すること。

3. 企業単位での管理ではなく、個人単位でのカード発行の意味合い

同企業でも利用者個人に固有のカードを発行する運用は、不正貸与禁止を実現するために重要なポイントです。

試験対策として覚えておくべきポイント

ポイント番号覚えておくべき知識・留意点
1利用者カードは利用者個人単位で発行し、他人のカード貸与は禁止
2電子的な認証手段(QRコード+ワンタイムPINなど)で本人確認を補強
3利用者カードの運用ルールは、電子化後も基本的な禁止事項を踏襲する
4システム刷新では、単に媒体を変えるだけでなく、運用ルールの継続性も確認する
5問題文で指す「使用ルール」とは、カード貸与禁止などの利用規則を指すことが多い

まとめ

本問題における「利用者カードの使用ルール」とは、現行の「他の利用者の利用者カードを借りて利用することの禁止」ルールを指します。このルールはA研究所における利用者識別と不正利用防止の根幹であり、カード媒体がプラスチックからQRコードへ変わっても踏襲されます。理解のポイントは、個人単位でカードを管理し不正な貸与を防ぐこと、そのための認証強化措置が電子化後に加えられることです。

この構造理解ができれば、同様のICカード・電子認証に関する問題も確実に正答できます。
← 前の問題へ次の問題へ →

©︎2025 情報処理技術者試験対策アプリ