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システムアーキテクト試験 2023年 午後1 問01
システム再構築における移行計画に関する次の記述を読んで、設問に答えよ。
A社は、医療用品の製造及び販売を行うメーカーである。A社とその関連会社の3社(以下、Aグループという)は、基幹システムとしてX社のERPパッケージ製品(以下、ERPという)と、情報系システムとしてERPのオプション製品である分析ツールを使用している。
しかし、現在使用しているERPと分析ツールのサポート期限が2年後に迫っているので、これらをバージョンアップし、新しいシステムとして再構築するための移行計画を立案することになった。A社情報システム部のB課長がプロジェクトチームのリーダーに任命された。
〔現行のシステムと業務の概要〕
Aグループは現行の基幹システム(以下、現行基幹システムという)として、ERPのうち財務会計、管理会計、販売管理、生産管理、購買管理の五つのサブシステムを利用している。現行基幹システムは各社で独立した構成となっており、ERPに対する定義やマスターデータを独自に設定している。また、各社の業務に応じて個別に開発されたアドオンプログラム(以下、アドオンという)が存在している。
現行の情報系システム(以下、現行情報系システムという)では、前月や前年度といった過去の売上や製造原価などの経営状況を翌月以降に必要に応じて分析するための帳票を、各社の要望に応じて個別に定義している。新たな切り口によるデータの集計が必要な帳票を定義する場合は、あらかじめ、基となるデータを現行基幹システムから抽出し、必要な集計を行ったデータを現行情報系システム内に保存している。
運用スケジュールは、8時から24時までがオンライン運用時間、それ以外はアドオンとして開発された夜間バッチ処理やシステムメンテナンスの時間となっている。毎月上旬の数日間に分割して実行される夜間バッチ処理では、実績データに対する各種の締め処理が行われる。
Aグループが得意先からの受注や出荷を行う営業日は、年末年始を除き平日と土曜日である。受注にはEDIを用いる。受注データ中の納品日には受注日の翌営業日から7日先までの営業日を設定可能であり、受注日の翌営業日が設定されることが多い。
〔物流システムの概要〕
Aグループは各社共通の物流システムを使用している。現行基幹システムでオンライン運用時間内に受信した受注データを基に、夜間に出荷指示データ送信処理が出荷指示データを作成し、物流システムに送信する。
Aグループは出荷当日に得意先に納品可能な体制を整備しており、物流システムは出荷指示データに基づき、受注データで指定された納品日に得意先への出荷を行う。
〔情報システム担当役員から提示された再構築と移行に関する指示〕
A社の情報システム担当役員から再構築と移行に関して次の指示があった。
・ERPと分析ツールのサポート期限までの期間が短いので、新しい基幹システム(以下、新基幹システムという)と新しい情報系システム(以下、新情報系システムという)の構築では、業務プロセスの見直しは行わない。
・ERPと分析ツールのバージョンアップを作業の中心とし、重要な経営方針である、業務の効率化と高付加価値型業務へのシフトに直接関連する改善案件の実施だけをプロジェクトの対象とする。
・過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにする。
・移行作業によるシステムの停止に伴う、受注や出荷などの業務への影響は最低限に抑える。特に受注や出荷において、得意先からの受注データが移行期間中に滞留して出荷が遅れることは避ける。
〔情報システム部長から提示された再構築と移行に関する方針〕
A社の情報システム部長からは再構築と移行に関する次の方針が提示された。
・マスターデータの勘定科目コードや各種のコードが、A社と関連会社との間で統一されていない。新しいシステムとして再構築する時に関連会社のコードをA社のコードに統一し、4社を一斉に移行する。コードの統一が必要な理由は、予算管理や連結決算の際に、関連会社の経理担当者が表計算ソフトでA社のコードに合わせた集計を別々に実施しており、各社から、これらに必要な経理担当者の事務処理の負担が大きいとの意見が以前から寄せられているからである。
・業務への影響が少ないいずれかの土日を移行期間とし、新基幹システムの本稼働日を月曜日とする移行計画としたい。この場合、移行期間中の土曜日の受注を停止するために、本稼働日の月曜日に品物を受け取りたい得意先に対して、①移行期間前の適切なタイミングに協力を依頼する。
・各社の既存のアドオンは、新基幹システムでも継続利用する。
・現行情報系システムの帳票の定義は、新情報系システムでも継続利用する。
・現行基幹システムの実績データは前月分と当月分だけ更新できる。このことを利用して移行作業によるシステムの停止期間を短縮したい。
・移行期間前後のマスターデータの登録や情報系システムの使用に対する運用制限が必要な場合は、各社に協力を仰ぐ。
〔X社から提供されたERPと分析ツールのバージョンアップに関する情報〕
X社からは、バージョンアップに関する次の情報提供を受けた。
・新基幹システムを新規に構築する場合は、サーバに新バージョンのERPをインストールした上で、各種の定義の設定やアドオン追加などによる構築を行う。
・現行基幹システムを基にして新基幹システムを構築する場合は、サーバに新バージョンのERPをインストールした上で、ERP移行ツールを用いてERPの標準機能と各種の定義を新基幹システムに移行する。
・ERPの現行バージョンと新バージョンとではデータ構造が異なる。そのため、現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更した上でデータを移行する必要がある。データ移行の要件に基づき、ERP移行ツールを使用したデータ移行とするか、個別のデータ移行プログラムを使用したデータ移行とするかを選択する必要がある。ERP移行ツールを使用する場合、データ構造の変更はERP移行ツールの中で行われるが、コード変換のようにデータの値を加工することはできない。
なお、現行基幹システムでコード変換などのデータの値の加工を行ってからERP移行ツールを使用する方法は、作業手順が複雑になるので推奨していない。
・既存のアドオンは、X社が提供する手順書を用いて移行する。
・現行基幹システムを停止した後に新基幹システムに移行するデータ量が多ければ多いほど、システムの停止期間が長くなる。
・分析ツールは、新バージョンを導入しても既存の帳票の定義がそのまま使用できる。X社から提示されたERPの新バージョンへの移行パターンを表1に示す

〔立案した移行計画〕 B課長は、再構築と移行に関する指示と方針に合致する移行パターンを検討した。その過程で、パターン1は再構築と移行に関する指示と方針に合致しないと判断した。 また、パターン2はデータ移行時に制約事項があり、再構築後も現在発生している業務上の問題を解決できないことから、再構築と移行に関する指示と方針に合致しないと判断し、パターン3を選択した。 新情報系システムへのデータ移行においては、②A社のデータは現行情報系システムから新情報系システムにそのまま移行するが、関連会社のデータは、新基幹システムに移行したデータに基づいて集計を行ったデータを新情報系システムに登録することにした。 これらを踏まえ、B課長は再構築と移行に関する指示と方針に基づいた移行計画を立案した。立案した移行計画の概要を表2に示す。

設問1
〔情報システム部長から提示された再構築と移行に関する方針]について、本文中の下線①で,得意先に依頼すべき内容を30字以内で答えよ。
模範解答
金曜日までに、月曜日が納品日の品物を発注すること
解説
1. 模範解答の核心となるキーワードや論点の整理
- 移行期間中の受注停止の対応
- 得意先への協力依頼の内容
- 納品日が月曜日となる品物の受注時期
- 「移行期間前の適切なタイミング」という表現
- 目的は土曜日の受注停止により出荷遅延の防止
2. なぜその解答になるのか(問題文の引用を用いた論理的説明)
問題文の「〔情報システム部長から提示された再構築と移行に関する方針〕」の記述に以下があります。
・業務への影響が少ないいずれかの土日を移行期間とし、新基幹システムの本稼働日を月曜日とする移行計画としたい。この場合、移行期間中の土曜日の受注を停止するために、本稼働日の月曜日に品物を受け取りたい得意先に対して、①移行期間前の適切なタイミングに協力を依頼する。
この記述からわかることは、
- 移行期間に土曜日の受注を停止する必要がある。
- そのため、土曜日の受注停止で影響を受ける得意先に対して、移行期間前(つまり土曜日の受注停止前)に「協力を依頼する」ことが必要である。
- 協力内容としては、移行翌日(月曜日)が納品日となる品物について、土曜日の受注停止に伴い、受注を停止する土曜日の前(つまり金曜日まで)に発注してほしい、という内容と考えられる(納品遅延防止のため)。
つまり、得意先には「土曜日の休止を避けるため、月曜日納品の品物の発注を(移行期間前の)金曜日までに済ませてほしい」と依頼することが合理的です。
この点を端的にまとめたのが模範解答です。
金曜日までに、月曜日が納品日の品物を発注すること
これにより、移行期間中の受注停止による出荷遅延が防止できます。
3. 受験者が誤りやすいポイントやひっかけの選択肢
-
「土曜日に受注を停止する」という重要な部分を見落とす → 「受注を停止」とは明確に書かれているため、それを無視した「土曜日も通常どおり注文できる」などの解答は誤りです。
-
発注時期を「月曜日」や「移行期間中」などに誤解する → 移行期間中はシステムが停止し受注できないので、その前にあらかじめ発注を終える必要がある。
-
「得意先に何を協力してもらうか」が不明確になる → 単に「協力してください」では不十分、具体的に「発注の時期修正」を依頼することが重要です。
-
文面の「適切なタイミング」を誤って「移行期間中」や「本稼働日以降」と理解する → 適切なタイミングは「移行期間前」であることに注意。
4. 試験対策として覚えておくべきポイントや知識
-
移行作業でシステム停止がある場合は「業務停止期間の影響を最小化するための得意先や関係者への協力依頼」が重要。
-
移行期間中の受注停止など業務制限は必ず明示されていることが多いため、その制限に合わせた具体的な対応策を考える。
-
受注停止により営業日に納品の遅れが生じるリスクがあるので、そのリスク回避のため「受注可能な直前営業日にまとめて注文してもらう」ことが常套策。
-
問題文中の「移行期間」「本稼働日」「運用スケジュール」など関連語句を正確に理解し、時間軸に沿った整理が重要。
-
携わるシステムや業務の背景(今回の場合は土曜日営業で受注・出荷している)も必ずチェックし、その業務形態を念頭に対応策を考えること。
まとめ
以上を理解し、問題文の指示や方針を正確に読み取る力を養うことが合格への近道です。
設問2
〔X社から提供されたERPと分析ツールのバージョンアップに関する情報〕について、表1中のaに入れる適切な字句を35字以内で答えよ。
模範解答
a: 現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更
解説
模範解答の核心キーワードと論点整理
- 核心キーワード
「現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更」 - 論点
- ERPのバージョンアップに伴うデータ構造の違いにより、データ移行時に単なるコピーではなく、データ構造の変換(変更)が必要であること。
- ERP移行ツールでは、このデータ構造の変更を自動的に行うが、コード変換などのデータ値の加工はツール内で対応できないこと。
- したがって、データ移行の一環として「データ構造の変更」が不可欠な作業となっている点。
解答の理由と問題文の引用による論理的説明
問題文の〔X社から提供されたERPと分析ツールのバージョンアップに関する情報〕にて、以下の記述が重要です。
「ERPの現行バージョンと新バージョンとではデータ構造が異なる。そのため、現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更した上でデータを移行する必要がある。」
この文は、データ移行時には現行のデータの構造そのままで、新バージョンに書き込むことはできず、「データ構造の変更」が必要不可欠であることを示しています。この変更により、新しいシステムが要求する形式にデータを適合させる必要があります。
さらに、
「ERP移行ツールを使用する場合、データ構造の変更はERP移行ツールの中で行われるが、コード変換のようにデータの値を加工することはできない。」
とあり、データ構造の変換はツール内で自動的に行われる事例であること、逆にコード変換などの値の加工は別途対応が必要であることを示しています。
したがって、移行プログラムにおける(ア)の処理では、
ここに入る適切な字句は「現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更」となるわけです。
受験者が誤りやすいポイント・ひっかけの理由
-
「コード変換」や「値の加工」と混同しやすい
問題文中にコード変換はERP移行ツールでは行えないため、別途個別のプログラムで対応すると明示されています。コード変換はデータの「値」の変更であり、今回の(a)に当てはまるのは「データ構造」の変換であるため混同しないよう注意が必要です。 -
単に「データ移行」だけでは不十分
「データ移行」や「データコピー」など簡単な字句で誤答しやすいです。しかし、ここで問われているのは現状のデータ形態から新形態への「構造の変更」を行う工程であることを理解しましょう。 -
「新規構築」との混同
パターン1の「新規構築」は業務定義やアドオンを新規対応する方式ですが、ここではデータ構造の変換に焦点を当てているため、混同しないようにしましょう。
試験対策のためのポイント・知識のまとめ
- ERP等パッケージ製品のバージョンアップ移行では、現行バージョンと新バージョンで「データ構造が異なる」ケースが多く、「データ構造の変換(変更)」は必須になる。
- ERP移行ツールはデータ構造の変更は自動対応するが、値の加工(例:コード変換)はできない。値の加工が必要な場合は個別プログラムで対応する。
- 「データ構造の変更」と「コード変換(値の加工)」は明確に区別すること。
- 移行パターンの選択は、指示や方針に合わせてそれぞれの特徴や制約を理解した上で判断する。
- 移行作業はシステム停止期間をできるだけ短くする工夫が重要で、時期や施策計画も問題文で確認することが大切。
以上を踏まえ、この問題の正しい答えは
現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更
となります。
設問3(1):〔立案した移行計画〕について答えよ。
パターン2を選択した場合に再構築後も解決できない業務上の問題とは何か。25字以内で答えよ。
模範解答
経理担当者の事務処理の負担が大きいこと
解説
模範解答の核心キーワード・論点整理
- キーワード:経理担当者の事務処理の負担
- 論点:関連会社間でマスターデータ(勘定科目コードや各種コード)が統一されていないことによる、経理担当者の集計作業の煩雑さが解消されないこと
解答の理由と論理的説明
問題文の【情報システム部長から提示された再構築と移行に関する方針】には、以下の記述があります。
・マスターデータの勘定科目コードや各種のコードが、A社と関連会社との間で統一されていない。新しいシステムとして再構築する時に関連会社のコードをA社のコードに統一し、4社を一斉に移行する。コードの統一が必要な理由は、予算管理や連結決算の際に、関連会社の経理担当者が表計算ソフトでA社のコードに合わせた集計を別々に実施しており、各社から、これらに必要な経理担当者の事務処理の負担が大きいとの意見が以前から寄せられているからである。
ここで明確に経理担当者の「事務処理の負担が大きい」ことが問題になっています。その負担はコードの不統一による手作業の多さに起因しています。
一方、X社から提供されたERPの新バージョンへの移行パターンの説明においてパターン2(ERP移行ツールを使用したデータ移行)は、以下のように記載されています。
ERP移行ツールを使用する場合、データ構造の変更はERP移行ツールの中で行われるが、コード変換のようにデータの値を加工することはできない。
つまり、パターン2ではコードの統一(すなわちコード変換によるマスターデータの値の加工)ができません。結果として、関連会社のコードは変更されないまま新システムに移行されます。
したがって、
- コードの不統一状態が継続される
- 関連会社の経理担当者の事務処理負担は改善されない
という業務上の問題が再構築後も解決できません。
これが「パターン2を選択した場合に再構築後も解決できない業務上の問題」の理由です。
受験者が誤りやすいポイント・ひっかけの理由
- 「業務プロセスの見直しを行わない」指示に注目しすぎると、「他の業務効率改善の点」を選んでしまう可能性があります。指示では業務の効率化を一部実施するとありますが、「パターン2はコード変換できず問題解決にならない」という指摘は明示的です。
- 「データ構造の変更は移行ツールでできる」とあるため、「移行ツールならすべての変換が可能」と誤解しやすい点。
- 「コードの変換はデータの値の加工」として区別されていることに気づかない人も多いため、「コード統一ぐらいはできる」と混同しがち。
試験対策として覚えておくべきポイント
以上の点を踏まえ、「パターン2を選択した場合の業務問題は『経理担当者の事務処理の負担が大きいこと』」が妥当な解答となります。
設問3(2):〔立案した移行計画〕について答えよ。
本文中の下線②において、関連会社のデータ移行に当たりA社のデータと同じ移行方法を採らず,新基幹システムに移行したデータに基づいて集計を行ったデータを新情報系システムに登録することにした理由を35字以内で答えよ。
模範解答
関連会社の新基幹システムのデータはコード変換が行われるから
解説
模範解答の核心キーワードと論点整理
- コード変換
- 関連会社のデータ
- 移行方法の違い
- 新基幹システムに移行したデータに基づく集計
解答の理由と論理的説明
本文中の下線②の内容は以下のとおりです。
②A社のデータは現行情報系システムから新情報系システムにそのまま移行するが、関連会社のデータは、新基幹システムに移行したデータに基づいて集計を行ったデータを新情報系システムに登録することにした。
これは、「関連会社」と「A社」で異なる移行方法を取っていることを意味しています。その理由は本文の情報システム部長の方針に含まれています。
関連会社のコードの違いと統一
本文の【情報システム部長から提示された再構築と移行に関する方針】 より、
・マスターデータの勘定科目コードや各種のコードが、A社と関連会社との間で統一されていない。新しいシステムとして再構築するときに、関連会社のコードをA社のコードに統一し、4社を一斉に移行する。
・コードの統一が必要な理由は、連結決算の際に経理担当の負担が大きいから。
そして【X社から提供されたERPと分析ツールのバージョンアップに関する情報】の中で、
・ERP移行ツールを使用する場合、コード変換のようなデータ値の加工はできない。
・コード変換を行う場合は、パターン3の個別のデータ移行プログラムを使い、コード変換表に基づいてテーブル全体に対してコードを変換する必要がある。
これらを踏まえると、
- A社のデータはコードの統一が不要なので、現行情報系システムから新情報系システムへ直接移行可能。
- 一方、関連会社はコードをA社のコードに統一しなければならないため、事前にコード変換を実施して新基幹システムのデータ構造に合わせた形で新情報系システムに移行すべきである。
そのため、
関連会社のデータは、新基幹システムに移行してコード変換や構造変更を行った後のデータに基づいて集計・登録する方法を採った。
受験者が誤りやすいポイント
-
「単純に現行情報系システムから移行すれば良い」という考え
コード統一の必要性を見落とすと、関連会社のデータ移行方法を誤ります。単純なデータコピーではなく、コード変換処理が必要です。 -
ERP移行ツールで直接コード変換できると誤解すること
ERP移行ツールはデータ構造変更はできてもコード変換などの値の加工はできません。コード変換が必要な場合は個別の移行プログラムを使います。 -
「なぜA社は現状のまま移行できるか」の把握不足
A社は既に基準となるコード体系であるため、直接移行が可能と理解することが重要です。
試験対策として覚えておくべきポイント
これらを踏まえ、下線②の移行方法の違いは「コード変換が関連会社のデータには必要であるため、直接移行での対応ができない」という点が本質です。合格には、移行時のデータ形式や業務要件におけるコード統一の意義とERP移行ツールの制約を正しく理解することが重要です。
設問3(3):〔立案した移行計画〕について答えよ。
表2中の下線③は、再構築と移行に関するどのような指示又は方針に基づいた施策か。35字以内で答えよ。
模範解答
過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにすること
解説
模範解答の核心となるキーワードや論点
- 「過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにすること」
- バージョンアップ後の「分析ツール」の活用
- 遂行すべき「移行計画」の目的の一つ
- 「過去データの移行」についての方針
なぜその解答になるのか
問題文の指示には以下の記述があります。
・情報システム担当役員から提示された再構築と移行に関する指示
・過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにする。
この指示は、新情報系システムの構築に際して、単に現状の分析環境を移行するだけでなく、より柔軟かつ多様な視点での経営分析が可能になることを求めています。
一方、立案した移行計画の表2の「基本施策」に、
とあるように、全ての過去データを移行することで、これまでの経営データの履歴が新しいシステムでも利用可能となります。
これにより、「過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにする」という指示を達成できるわけです。単に一部のデータだけを移行してしまうと、過去分析の柔軟性が損なわれてしまうため、全ての過去データを移行対象に含めることが必要です。
受験者が誤りやすいポイント
-
単に「サポート期限が近いからバージョンアップする」ことを基に考えてしまう
→ 問題文では「過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにする」という重要な指示があります。これを見落とすと、単なる「保守切れ対策」に終始してしまいます。 -
「コード統一」や「業務影響の最小化」など、他の方針と混同してしまう
→ これらは移行計画の他の施策に関する重要事項ですが、③の「全ての過去データ移行」は特に分析のためのデータ整備を指すものです。 -
「全ての過去データを移行する」の目的を「システムの履歴保存」や「データの一元管理」と誤解する
→ 目的は「経営分析の多角化」です。結果的に履歴が保存されるのは手段の一つです。
試験対策として覚えておくべきポイントや知識
-
「情報システムの再構築においては、単にシステムのバージョンアップだけでなく、経営分析などの付加価値向上も意識される」ことがある。
-
「過去データの移行範囲は、経営上の要件に照らし合わせて決定される」ことが多い。特に分析系システムでは過去データの網羅的な移行が重要。
-
移行計画における指示と方針が問題文に明示されている場合、その紐づけを正しく理解・整理することが合格のポイント。
-
「コード統一」や「業務影響抑制」などの移行の工夫は重要だが、それぞれの施策が何を目的としているかを整理しておくこと。
以上から、模範解答「過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにすること」は、問題文に明示された指示を反映し、「③全ての過去データ移行」という施策がそれを実現するための施策であることがわかります。
設問3(4):〔立案した移行計画〕について答えよ。
表2中の下線④で示す実績データの範囲を10字以内で答えよ。また、その範囲の実績データを事前移行期間に移行できる理由を25字以内で答えよ。ここで、移行するデータ量については問題がないことを確認できているものとする。
模範解答
範囲:前々月以前
理由:前々月以前の実績データは更新されないから
解説
模範解答の核心キーワード・論点の整理
- 「前々月以前」という期間区分がキー。
- 実績データの更新可能期間が問題の根幹。
- 2段階移行(事前移行+停止後移行)で停止期間短縮を図る点。
なぜこの解答になるのか(問題文の引用と論理的説明)
問題文中に次の記述があります。
「現行基幹システムの実績データは前月分と当月分だけ更新できる。このことを利用して移行作業によるシステムの停止期間を短縮したい。」
これを受けて、移行計画の「データ移行手順」には、
「(ア)事前移行期間にマスターデータとある範囲の実績データを移行する。」
という策が立てられており、その「ある範囲」の想定が、
「前々月以前」
であると考えられます。
論理の流れは以下のとおりです:
- 現行基幹システムの実績データは、直近の前月・当月分のみ更新される。
- 前々月以前のデータは更新されることがないため、確定的で変更の可能性がない。
- そのため、前々月以前のデータを事前移行期間(システム停止前)に移行してしまっても、後でデータが変わるリスクがない。
- これにより、システム停止期間中の移行対象データ量を減らし、システム停止時間を短縮できる。
以上により、
- 範囲は「前々月以前」
- 理由は「前々月以前の実績データは更新されないから」
となります。
受験者が誤りやすいポイント・ひっかけ
-
「前月分」や「当月分」を含めて事前に移行できると思い込むこと→ 問題文に「前月分と当月分だけ更新できる」と明示されているため、これらのデータは最終的に確定前に再度更新される可能性があり、事前に移行できない。
-
移行対象データの全期間を一括移行と誤解すること→ 「事前移行期間」と「現行停止後の移行」に分けて行うので、全期間一括ではない。
-
「前々月以前=過去全てのデータ」=「すべて事前移行」の思い込み→ 過去データには「前々月以前のすべて」と「それ以前に特別に変更される可能性があるデータ」が混在しないわけではないかと考えがち。→ しかし問題文では「前月分と当月分だけ更新可能」と明言されているので、「前々月以前」は安全。
試験対策として覚えておくべきポイント
- ERPシステムの移行では、「稼働停止期間を短縮するために、変更されない確定データは事前に先行移行する」という方法がよく用いられる。
- 「更新可能な期間(例:前月と当月)」と「更新不可の確定期間(例:前々月以前)」の区別が肝心。
- データ移行のスケジュール設計では、業務運用に支障が出ないよう更新される可能性があるデータは停止期間に移行する必要があることを理解しておく。
- 問題文に書いてある「更新可能期間」や「運用制限期間」の記述は必ず精読し、そこから移行可能なデータ範囲を選定する。
まとめ
- 現行基幹システムでは実績データの更新可能期間が限定されている点を押さえる。
- 移行作業は停止期間の短縮を目的として2段階で実施し、更新されない確定データを先行移行する。
- 問題文の数値的・期間的条件を正しく読み取り、移行範囲を決定することが重要。
これらのポイントをしっかり理解することで、類似の移行計画を問う問題にも対応できるようになります。