C社は、三つの事業所をもつ中堅のソフトウェア開発企業である。C社では固定資産管理システムの改善を行うことになった。
〔現行システムの概要〕
C社の現在の固定資産管理システム(以下、現行システムという)の概要は、次のとおりである。
(1)管理対象は、C社が所有するすべての固定資産で、固定資産テーブルで管理している。リース資産や顧客からの預り資産は管理していない。資産は、購入時に一意の資産番号が付与され、固定資産テーブルに登録される。個々の資産には、それぞれ管理責任をもつ部署(以下、管理部署という)及び管理担当者が定められている。
(2)年1回、登録されている資産について、現物を固定資産テーブルの内容と照合する処理(以下、現物照合という)を実施する。現物照合の対象となる機器には、資産番号、資産名、取得日及びバーコード化した資産番号が印刷されたシール(以下、資産シールという)を貼り付けて管理している。対象機器で、シールが貼られていない機器は存在しない。
(3)PCの本体とモニタのように物理的に複数に分かれた資産を購入したり、複数台を一括で購入したりする場合、固定資産テーブルには1件分として登録してあり、資産シールは同一のものを複数枚作成している。
(4)資産には、サーバなど場所を固定して設置してある機器(以下、固定機器という)と、ノートPCなど持ち運び可能な機器(以下、携帯機器という)がある。固定機器について、同一資産番号をもつ資産の設置場所は同一の場所である。
(5)固定資産テーブルには、管理担当者名、設置場所名などの属性があり、これらに変更が生じた場合には、固定資産テーブル変更画面から変更を行っている。現行システムの固定資産テーブルの主な属性を表1に示す。
なお、携帯機器の設置場所名には空白がセットされている。
〔現物照合業務の概要〕
C社は現在、現物照合業務を次のとおり実施している。
(1)それぞれの部署では、自部署が管理している資産を固定資産テーブルから抽出し、設置場所名、管理担当者名、資産番号で昇順に並んだ固定資産一覧表を印刷する。
(2)印刷された固定資産一覧表を基に現物照合を行い、固定資産一覧表に記載されている資産があったら、ハンディスキャナでバーコードをスキャンする。
(3)スキャンによって作成された現物照合レコードを当日中に管理サーバにアップロードし、固定資産テーブルに現物照合完了区分と現物照合実施日を書き込む。
(4)同一の資産シールが複数枚ある場合は、スキャンがシール枚数分の回数行われたときに照合されたものとしている。
(5)遠隔地に設置してあり、バーコードをスキャンできない場合は、管理担当者が電話などで当該資産が存在していることを確認し、照合担当者に報告することで照合されたものとし、固定資産テーブル変更画面から現物照合情報を更新する。
(6)照合ができなかった資産は、管理部署の部長が除却稟議を起案し、社内決裁後に除却処理を行う。除却処理後、固定資産テーブルから削除される。
〔現物照合業務の問題点〕
現在の現物照合業務は、次のような問題点を抱えている。
(1)固定資産一覧表に記載されているが、現物が見つからずに除却される資産がある。一方で、資産シールが貼ってあるのに固定資産テーブルに存在しない機器が発見されることがある。
(2)固定機器の設置場所を移動するとき、設置場所名の変更漏れが発生している。
(3)同一の資産シールを複数枚発行している資産について、照合されたことになっているのに実物の数が合わないと内部監査で指摘されることがある。
(4)遠隔地の資産を回収したとき、照合されていたはずの資産が見つからないことがある。
〔現物照合業務の改善〕
C社では、これらの問題点を解決するために、業務の改善を行うことにした。情報システム部のD課長は、次の改善案を提示した。
(1)管理対象にリース資産及び顧客からの預り資産も追加する。
(2)物理的に複数に分かれた資産は、それぞれに枝番を付与して内訳を管理する。バーコードにも資産番号と枝番の両方を含める。
(3)携帯機器の現物照合は、現行と同様、固定資産一覧表を基に照合を行って、バーコードをスキャンする。固定機器の現物照合は、一覧表を使用せずに、設置してある場所単位に、そこに設置してあるすべての機器のバーコードを順次スキャンする。
(4)固定機器の設置場所を移動する際に、これをシステムに登録する機能(以下、移動管理機能という)を追加する。このために、各設置場所には一意な場所コードを付与し、場所コードをバーコード化したカードを設置する。
(5)すべての問題点をシステムの機能追加で対応することはせず、一部の問題点については、業務の運用方法の変更で解決を図る。上記の改善案に基づいて設計した新システムのE-R図を図に示す。
新システムでは、枝番を付与した内訳を管理するために新たに内訳テーブルを作成する。同一資産番号で管理されている内訳の数を資産テーブルの内訳数で管理する。同一資産番号で内訳が1個の資産の場合、内訳テーブルには枝番が“1”のレコードが1件だけ作成される。
また、現物照合テーブル及び移動テーブルの主キーにも枝番を追加する。内訳テーブルで管理されている枝番単位に現物照合が行われると現物照合レコードが生成され、それに基づいて、内訳テーブル及び資産テーブルの属性が更新され、資産テーブルの照合内訳数と内訳数が一致したときに、当該資産番号の資産の照合が完了する。現物照合レコードは、管理サーバに累積して保存する。
なお、毎年、現物照合を実施する前に、資産テーブルの照合内訳数には“0”を、最新現物照合実施日及び内訳テーブルの現物照合実施日には初期値をセットする。
〔新システムの移動管理機能〕
新システムでは、固定機器の設置場所変更の情報を確実に取り込むために、搬出及び搬入の際に、それぞれすべての機器のバーコードをスキャンしてシステムに取り込むことにした。その際の処理内容を表2に示す。
移動レコードは管理サーバにアップロードされ、このレコードを使って内訳テーブルの更新を行う。また、移動レコードは管理サーバに累積して保存する。移動レコードによる内訳テーブルの更新処理手順を表3に示す。