D社は中堅のソフトウェアベンダであり、ソフトウェア開発業務の一部を、協力会社に委託している。D社では、社内で管理システムを使用して、見積り、発注及び検収を行っている。現在、協力会社への業務委託で直面している問題を解決するために、管理システムを拡充し、協力会社と情報を共有するために双方で利用する業務委託管理システム(以下、新システムという)を構築することにした。
〔現在の業務委託管理に関する業務の概要〕
D社では、業務委託に関する社内規程に基づき、まず、継続的に取引可能と判断した協力会社(以下、委託先という)と基本契約を締結する。次に、業務委託を行う個別案件ごとに個別契約を締結する。個別契約は、D社が注文書を発行し、委託先から注文請書を受領することによって成立することが、基本契約書に記載されている。
また、個別案件ごとに、案件に責任をもつ部署の部長(以下、管理責任者という)と、案件の委託に責任をもつ社員(以下、委託責任者という)が定められる。
D社では、業務委託管理に関する業務を次のように実施している。
(1) 見積依頼:委託責任者は、案件番号、案件名、委託期間、委託内容、納品物、納品場所、納期、発注部署、委託責任者名及び管理責任者名を管理システムに登録し、見積依頼書を出力して委託先に提示する。委託先は、見積依頼書の内容を確認し、見積書を作成して提出する。
(2) 見積受領:委託責任者は、委託先から受領した見積書の内容を確認し、見積内容及び確認結果を管理システムに登録する。見積内容を承認しない場合は差し戻し、再度見積書の提出を求める。見積書を差し戻した場合でも見積内容及び確認結果の履歴は残す。
なお、見積依頼及び見積受領の過程で、案件が中止になることもある。
(3) 注文:委託責任者は、見積内容を承認すると、見積書に基づいて注文書を作成する。注文書には、見積依頼書及び見積書に記載された内容に、委託金額、検収予定日及び支払予定日が追記され、この内容は管理システムに登録される。その後、管理責任者が、見積り及び注文の内容を審査し、承認又は否認を行う。否認した場合は、委託責任者に見積内容を再度確認させる。承認した場合は、注文書を発行し、委託先に注文する。委託先は注文書の内容を確認し、注文請書を発行して開発に着手する。委託責任者は、注文請書を受け取ると、委託先が開発に着手したとして、納品を待つ。
(4) 納品受領:委託先は、開発作業が完了すると納品する。委託責任者は、納品物を受領し、確認を行う。注文書に記載された納品物と一致していれば、承認して納品年月日を管理システムに登録し、一致していなければ差し戻す。納品物を差し戻した場合でも納品の履歴は残す。納品物の内容、品質などの確認は、次工程の検査以降で行う。
なお、D社では個別契約は納期ごとに締結し、納期が異なる場合は別の個別契約を締結する。
(5) 検査、検収、請求及び支払についての記述は省略する。
(6) 各書類には、作成者が日付を記入し、署名する。承認が必要な書類には、承認者も日付を記入し、署名する。
〔新システムの業務要件〕
D社では、業務委託管理に関する業務を改善するために、情報システム部のE課長に、現在の業務の課題を整理した上で、新システムの業務要件をまとめるように指示した。
そこで、E課長は関係部署にヒアリングを行い、その結果を基に、新システムで新たに実現すべき業務要件を次のようにまとめた。
(1) 委託先とは郵送で書類をやり取りしており、最速でも1日掛かる。そのため、書類の再提出などがあると、案件の開始が遅れることがあるので、書類のやり取りに掛かる時間を短縮する。
(2) 見積書から注文書への転記作業、注文書から注文請書への転記作業でミスが発生しているので、転記作業を削減する。
(3) 案件の開始から完了までの経緯について追跡調査を行いたい場合、全ての書類の日付及び署名を確認しなければならないので、新システムで追跡できるようにする。
(4) 新システムでは委託先と情報を共有することになるが、社内の手続の状況は委託先に開示されないようにする。
E課長は、これらの業務要件を満たすよう、新システムの設計に着手した。
〔新システムの設計〕
E課長は、新システムを、D社と委託先とをネットワークで接続したオンラインシステムとし、委託先に表示するトップ画面(以下、委託先トップ画面という)を最初に設計した。設計した委託先トップ画面のイメージを、図1に示す。
委託先トップ画面には、委託先が遅滞なく手続を進められるように、次の一覧を表示する領域を設けた。
(1) 通知案件一覧:ある案件に対して、D社が処理を完了したことによって委託先が対応すべき作業が発生した場合、そのことを委託先に知らせるために、委託先に電子メール(以下、メールという)を送信し、当該案件を通知案件一覧に表示する。例えば、D社が見積依頼入力を完了すると、委託先にメールを送信し、同時に通知案件一覧の欄に当該案件を表示する。
(2) 未済案件一覧:委託先が作業を行うべき状態になっている案件で、通知案件一覧に表示されていない案件を、未済案件一覧に表示する。
新システムでは、案件の開始から完了までの作業の進捗状況をステータスで管理し、案件ごとにD社と委託先にそれぞれステータスを設ける(以下、それぞれをD社ステータス、委託先ステータスという)。それぞれの作業の進捗状況は別々に管理され、委託先トップ画面に表示するステータスは、委託先ステータスである。
D社ステータス及び委託先ステータスの遷移とそれぞれの遷移の契機となるイベントを、状態の遷移として図2に、新システムの主要ファイルの主な属性を表1に示す。ここで、図2では案件中止、納品差戻し及び検査以降の遷移は省略している。
また、図中の状態番号は、D社ステータスと委託先ステータスの組合せによる一意の状態に対して、1から昇順に付与した番号である。