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システムアーキテクト試験 2023年 午後101


システム再構築における移行計画に関する次の記述を読んで、設問に答えよ。

 A社は、医療用品の製造及び販売を行うメーカーである。A社とその関連会社の3社(以下、Aグループという)は、基幹システムとしてX社のERPパッケージ製品(以下、ERPという)と、情報系システムとしてERPのオプション製品である分析ツールを使用している。  しかし、現在使用しているERPと分析ツールのサポート期限が2年後に迫っているので、これらをバージョンアップし、新しいシステムとして再構築するための移行計画を立案することになった。A社情報システム部のB課長がプロジェクトチームのリーダーに任命された。
 
〔現行のシステムと業務の概要〕  Aグループは現行の基幹システム(以下、現行基幹システムという)として、ERPのうち財務会計、管理会計、販売管理、生産管理、購買管理の五つのサブシステムを利用している。現行基幹システムは各社で独立した構成となっており、ERPに対する定義やマスターデータを独自に設定している。また、各社の業務に応じて個別に開発されたアドオンプログラム(以下、アドオンという)が存在している。 現行の情報系システム(以下、現行情報系システムという)では、前月や前年度といった過去の売上や製造原価などの経営状況を翌月以降に必要に応じて分析するための帳票を、各社の要望に応じて個別に定義している。新たな切り口によるデータの集計が必要な帳票を定義する場合は、あらかじめ、基となるデータを現行基幹システムから抽出し、必要な集計を行ったデータを現行情報系システム内に保存している。 運用スケジュールは、8時から24時までがオンライン運用時間、それ以外はアドオンとして開発された夜間バッチ処理やシステムメンテナンスの時間となっている。毎月上旬の数日間に分割して実行される夜間バッチ処理では、実績データに対する各種の締め処理が行われる。 Aグループが得意先からの受注や出荷を行う営業日は、年末年始を除き平日と土曜日である。受注にはEDIを用いる。受注データ中の納品日には受注日の翌営業日から7日先までの営業日を設定可能であり、受注日の翌営業日が設定されることが多い。
 
〔物流システムの概要〕  Aグループは各社共通の物流システムを使用している。現行基幹システムでオンライン運用時間内に受信した受注データを基に、夜間に出荷指示データ送信処理が出荷指示データを作成し、物流システムに送信する。  Aグループは出荷当日に得意先に納品可能な体制を整備しており、物流システムは出荷指示データに基づき、受注データで指定された納品日に得意先への出荷を行う。
 
〔情報システム担当役員から提示された再構築と移行に関する指示〕  A社の情報システム担当役員から再構築と移行に関して次の指示があった。  ・ERPと分析ツールのサポート期限までの期間が短いので、新しい基幹システム(以下、新基幹システムという)と新しい情報系システム(以下、新情報系システムという)の構築では、業務プロセスの見直しは行わない。  ・ERPと分析ツールのバージョンアップを作業の中心とし、重要な経営方針である、業務の効率化と高付加価値型業務へのシフトに直接関連する改善案件の実施だけをプロジェクトの対象とする。  ・過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにする。  ・移行作業によるシステムの停止に伴う、受注や出荷などの業務への影響は最低限に抑える。特に受注や出荷において、得意先からの受注データが移行期間中に滞留して出荷が遅れることは避ける。
 
〔情報システム部長から提示された再構築と移行に関する方針〕  A社の情報システム部長からは再構築と移行に関する次の方針が提示された。  ・マスターデータの勘定科目コードや各種のコードが、A社と関連会社との間で統一されていない。新しいシステムとして再構築する時に関連会社のコードをA社のコードに統一し、4社を一斉に移行する。コードの統一が必要な理由は、予算管理や連結決算の際に、関連会社の経理担当者が表計算ソフトでA社のコードに合わせた集計を別々に実施しており、各社から、これらに必要な経理担当者の事務処理の負担が大きいとの意見が以前から寄せられているからである。  ・業務への影響が少ないいずれかの土日を移行期間とし、新基幹システムの本稼働日を月曜日とする移行計画としたい。この場合、移行期間中の土曜日の受注を停止するために、本稼働日の月曜日に品物を受け取りたい得意先に対して、①移行期間前の適切なタイミングに協力を依頼する。  ・各社の既存のアドオンは、新基幹システムでも継続利用する。  ・現行情報系システムの帳票の定義は、新情報系システムでも継続利用する。  ・現行基幹システムの実績データは前月分と当月分だけ更新できる。このことを利用して移行作業によるシステムの停止期間を短縮したい。  ・移行期間前後のマスターデータの登録や情報系システムの使用に対する運用制限が必要な場合は、各社に協力を仰ぐ。
 
〔X社から提供されたERPと分析ツールのバージョンアップに関する情報〕  X社からは、バージョンアップに関する次の情報提供を受けた。  ・新基幹システムを新規に構築する場合は、サーバに新バージョンのERPをインストールした上で、各種の定義の設定やアドオン追加などによる構築を行う。  ・現行基幹システムを基にして新基幹システムを構築する場合は、サーバに新バージョンのERPをインストールした上で、ERP移行ツールを用いてERPの標準機能と各種の定義を新基幹システムに移行する。  ・ERPの現行バージョンと新バージョンとではデータ構造が異なる。そのため、現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更した上でデータを移行する必要がある。データ移行の要件に基づき、ERP移行ツールを使用したデータ移行とするか、個別のデータ移行プログラムを使用したデータ移行とするかを選択する必要がある。ERP移行ツールを使用する場合、データ構造の変更はERP移行ツールの中で行われるが、コード変換のようにデータの値を加工することはできない。   なお、現行基幹システムでコード変換などのデータの値の加工を行ってからERP移行ツールを使用する方法は、作業手順が複雑になるので推奨していない。  ・既存のアドオンは、X社が提供する手順書を用いて移行する。  ・現行基幹システムを停止した後に新基幹システムに移行するデータ量が多ければ多いほど、システムの停止期間が長くなる。  ・分析ツールは、新バージョンを導入しても既存の帳票の定義がそのまま使用できる。X社から提示されたERPの新バージョンへの移行パターンを表1に示す
システムアーキテクト試験(令和5年 午後I 問1 表1)
〔立案した移行計画〕  B課長は、再構築と移行に関する指示と方針に合致する移行パターンを検討した。その過程で、パターン1は再構築と移行に関する指示と方針に合致しないと判断した。  また、パターン2はデータ移行時に制約事項があり、再構築後も現在発生している業務上の問題を解決できないことから、再構築と移行に関する指示と方針に合致しないと判断し、パターン3を選択した。  新情報系システムへのデータ移行においては、②A社のデータは現行情報系システムから新情報系システムにそのまま移行するが、関連会社のデータは、新基幹システムに移行したデータに基づいて集計を行ったデータを新情報系システムに登録することにした。  これらを踏まえ、B課長は再構築と移行に関する指示と方針に基づいた移行計画を立案した。立案した移行計画の概要を表2に示す。
システムアーキテクト試験(令和5年 午後I 問1 表2)

システム再構築における移行計画に関する次の記述を読んで、設問に答えよ。

設問1

〔情報システム部長から提示された再構築と移行に関する方針]について、本文中の下線①で,得意先に依頼すべき内容を30字以内で答えよ。

模範解答

金曜日までに、月曜日が納品日の品物を発注すること

解説

解答の論理構成

  1. 出題箇所の確認
    • 【問題文】「移行期間中の土曜日の受注を停止するために、本稼働日の月曜日に品物を受け取りたい得意先に対して、①移行期間前の適切なタイミングに協力を依頼する。」
  2. 現行リードタイムの把握
    • 「受注データ中の納品日には受注日の翌営業日から7日先までの営業日を設定可能であり、受注日の翌営業日が設定されることが多い。」 ⇒ 月曜日納品のためには前営業日(通常は金曜日)の受注が必要。
  3. 土曜日の取扱い
    • 物流側は「金曜日までの受注データに基づき、土曜日の出荷は通常どおり実施する。」
      ⇒ 出荷には影響しないが、受注はできない。
  4. 依頼内容の導出
    • よって得意先に依頼すべきは「月曜日納品分は金曜日までに発注(受注データ送信)してほしい」という一点。

誤りやすいポイント

  • 「土曜日に出荷しない」と勘違いし、在庫前倒し出荷を提案してしまう。
  • 受注リードタイムを読み飛ばし「木曜日まで」と早めすぎてしまう。
  • 依頼相手を「物流会社」や「社内営業部門」と誤解して書く。

FAQ

Q: なぜ「金曜日」までなのですか?
A: 【問題文】に「受注日の翌営業日が設定されることが多い」とあり、月曜日は土日の次の営業日なので前営業日は金曜日になるためです。
Q: 土曜日の出荷が通常どおりなら依頼しなくても良いのでは?
A: 出荷自体は可能でも「受注データを受け付けられない」ため、月曜日納品希望分を受注できず納品遅延が生じるおそれがあります。そこで事前発注をお願いする必要があります。

関連キーワード: 移行計画, システム停止, リードタイム, 受注データ, 出荷指示

設問2

〔X社から提供されたERPと分析ツールのバージョンアップに関する情報〕について、表1中のaに入れる適切な字句を35字以内で答えよ。

模範解答

a: 現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更

解説

解答の論理構成

  1. (a) が置かれている文
    「(ア)現行基幹システムから新基幹システムに移行するデータを抽出し、それらのデータを (a) する。」
  2. データ移行に関する前提
    「ERPの現行バージョンと新バージョンとではデータ構造が異なる。」
  3. 必要な作業
    「現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更した上でデータを移行する必要がある。」
  4. 以上より、(a) に入る語句はデータ構造を“現行→新”へ変更する作業を示す必要がある。
  5. よって解答は「現行バージョンのデータ構造から新バージョンのデータ構造に変更」となる。

誤りやすいポイント

  • 「コード変換」と混同する
    コード変換は処理(イ)で実施。処理(ア)の主眼はデータ構造変換である。
  • 「移行ツールなら自動で済む」と早合点
    パターン3は「個別のデータ移行プログラム」を採用するため、ツール頼りにしない。
  • 「データを加工する」の一言でまとめてしまう
    質問は何を“加工”するのかを具体的に問うている。構造なのか値なのか切り分けが必要。

FAQ

Q: 移行ツールを使えば構造変換も不要ですか?
A: パターン2ならツール内で構造変換が自動実行されますが、パターン3では自前プログラムで対応するため文中の(a)が必要です。
Q: コード統一(コード変換)とデータ構造変更は同時にできますか?
A: 可能ですが役割が異なります。コード変換は処理(イ)、構造変更は処理(ア)で先に実施し、その後コード変換を行います。

関連キーワード: データ移行, データ構造変換, コード変換, ERPバージョン管理

設問3〔立案した移行計画〕について答えよ。

(1)パターン2を選択した場合に再構築後も解決できない業務上の問題とは何か。25字以内で答えよ。

模範解答

経理担当者の事務処理の負担が大きいこと

解説

解答の論理構成

  1. 課題の所在
    • 【問題文】「マスターデータの勘定科目コードや各種のコードが、A社と関連会社との間で統一されていない」
    • 同じく「…経理担当者の事務処理の負担が大きい」と明記。
  2. コードを統一する理由
    • 経理部門の負担軽減が目的と【問題文】に明示。
  3. パターン2の制約
    • 【問題文】「ERP移行ツール…コード変換のようにデータの値を加工することはできない」。
    • よって、コード統一が行えず、課題が残る。
  4. 結論
    • 以上より、パターン2を選択すると「経理担当者の事務処理の負担が大きいこと」が解決できない。

誤りやすいポイント

  • 「システム停止期間の長短」を問題視し、経理負担を見落とす。
  • 「アドオン移行手順」と混同し、データ移行の制約(コード変換不可)を読み飛ばす。
  • 「受注・出荷影響」を優先して誤答する。

FAQ

Q: なぜコード統一がパターン2ではできないのですか?
A: ERP移行ツールは「データの値を加工」できず、コード変換は不可と【問題文】に規定されています。
Q: 経理担当者の負担とは具体的に何を指しますか?
A: 予算管理や連結決算時に、各社のコードを「表計算ソフトでA社のコードに合わせた集計」を行う作業量です。
Q: パターン3はどのようにして負担を解消しますか?
A: 個別のデータ移行プログラムでコード変換を行い、関連会社のコードをA社へ統一できるため、経理の手作業が不要になります。

関連キーワード: データ移行, コード変換, マスターデータ, ERP, 業務効率化

設問3〔立案した移行計画〕について答えよ。

(2)本文中の下線②において、関連会社のデータ移行に当たりA社のデータと同じ移行方法を採らず,新基幹システムに移行したデータに基づいて集計を行ったデータを新情報系システムに登録することにした理由を35字以内で答えよ。

模範解答

関連会社の新基幹システムのデータはコード変換が行われるから

解説

解答の論理構成

  1. 方針確認
    【問題文】「関連会社のコードをA社のコードに統一した上で4社を一斉に移行」とある。
  2. コード変換の実施場所
    【問題文】「コード変換…複数のデータ移行プログラムを事前に開発し、実行する」とあるため、関連会社データは新基幹システムへ入る時点で変換される。
  3. ERP移行ツールの制約
    【問題文】「ERP移行ツール…データの値を加工することはできない」ため、変換後の値を保持するのは基幹側のみ。
  4. 情報系システムの移行要件
    【問題文】「過去の経営状況を新たな切り口でも分析」かつ「帳票の定義は…継続利用」とあるため、情報系にも統一後コードで揃えなくては帳票が壊れる。
  5. 結論導出
    このギャップを解消するには、関連会社分は新基幹システムで変換済みのデータを集計し直してから登録するしかない。
    →「関連会社の新基幹システムのデータはコード変換が行われるから」となる。

誤りやすいポイント

  • ERP移行ツールでもコード変換できると誤解し、同一方法で情報系へ移行できると判断してしまう。
  • 「帳票定義がそのまま使える=データもそのままコピー」と短絡し、コード統一の影響を見落とす。
  • A社と関連会社で運用が同一と勘違いし、差分処理の必要性を意識しない。

FAQ

Q: なぜA社のデータはそのまま移行できるのですか?
A: もともと新基幹システムで採用する「A社のコード体系」で登録されているため、追加のコード変換が不要だからです。
Q: 情報系システムへの登録を稼働後に行う理由は?
A: 基幹システムの停止期間短縮と、コード変換後データの確定を待って正確に集計・登録するためです。
Q: コード変換表のメンテナンス負荷は考慮していますか?
A: 移行用プログラムに組み込み、移行リハーサルで検証することで本番時の作業を最小化する計画です。

関連キーワード: データ移行, コード変換, ERP移行ツール

設問3〔立案した移行計画〕について答えよ。

(3)表2中の下線③は、再構築と移行に関するどのような指示又は方針に基づいた施策か。35字以内で答えよ。

模範解答

過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにすること

解説

解答の論理構成

  1. 指示の確認
    【問題文】「・過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにする。」
  2. 移行計画の施策確認
    【問題文】表2 基本施策 下線③「現行のシステムの全ての過去データを、新しいシステムへの移行対象とする。」
  3. 対応関係
    過去データをすべて移行することで、旧システムで保持していた売上・製造原価などの実績を新情報系で再集計・再分析できるようにする。
    よって③は上記指示を実現するための施策である。

誤りやすいポイント

  • 「コード統一」や「停止期間短縮」など、他の指示・方針と混同しやすい。
  • 移行データ量が増えるデメリットばかりに目が向き、分析要件の優先度を見落としがち。
  • 過去データ=直近数年分と早合点し、 “全て” というキーワードを軽視するケース。

FAQ

Q: 全データ移行は停止期間を長引かせませんか?
A: 長くなりますが、【問題文】で「過去の経営状況を新たな切り口でも分析できるようにする。」と明示されており、分析要件が優先されています。
Q: 直近データだけ移行し、過去分は後から追加ではダメ?
A: 追加作業は再度の停止や整合性確認が必要となり、リスクやコストが高まるため、一括移行が選択されました。

関連キーワード: データ移行, バージョンアップ, データ分析, コード変換

設問3〔立案した移行計画〕について答えよ。

(4)表2中の下線④で示す実績データの範囲を10字以内で答えよ。また、その範囲の実績データを事前移行期間に移行できる理由を25字以内で答えよ。ここで、移行するデータ量については問題がないことを確認できているものとする。

模範解答

範囲:前々月以前 理由:前々月以前の実績データは更新されないから

解説

解答の論理構成

  1. 事前移行で扱えるのは、稼働中でも内容が変化しないデータ
    • 【問題文】「現行基幹システムの実績データは前月分と当月分だけ更新できる。」
    • よって更新が発生しないのは“前々月以前”。
  2. 表2の指示
    • 「(ア)事前移行期間にマスターデータと④ある範囲の実績データを移行する。」
    • 稼働中に移行するためには“更新されないデータ”でなければならない。
  3. 上記1・2より
    • 事前移行対象=「前々月以前」。
    • 更新が行われないから事前移行しても矛盾が起きない。

誤りやすいポイント

  • 「前月以前」と回答してしまう
    • 前月分はまだ締め処理前で修正可能、更新衝突の恐れあり。
  • 「当月以前」と回答してしまう
    • 当月は運用中に日々増減するため事前移行に適さない。
  • 「締め処理後データ」と曖昧に書く
    • 記述要求は具体的な範囲指定。

FAQ

Q: 事前移行で“前々月以前”を選ぶメリットは?
A: 停止後に移行するデータ量を大幅に削減でき、システム停止時間を短縮できます。
Q: 前月・当月データを停止後に移行するのはなぜ?
A: 締め処理や日々の取引で更新が続くため、停止後に一括移行して整合性を確保します。
Q: コード統一と事前移行は別問題?
A: はい。コード統一は事前に変換プログラムで対応し、実績データの更新有無は移行タイミング判断の材料です。

関連キーワード: データ移行, 差分更新, システム停止時間短縮, コード変換
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