L社は、大手クレジットカード会社である。L社は、融資保証で利用している融資保証システム(以下、現行システムという)の老朽化に伴い、新システムを構築することにした。
〔融資保証の概要〕
L社は、金融機関と提携し、法人顧客(以下、顧客という)に融資保証をしている。融資保証をすることで、顧客から所定の信用保証料(以下、保証料という)を受け取り、万が一、顧客の借入金の返済が滞った場合に、顧客に代わって金融機関に立替払をする。L社が融資保証をすることで、顧客には金融機関から融資枠の拡大や融資を受けやすくなるというメリットがある。融資保証の概要は、次のとおりである。
(1)申込み
顧客は、事業資金を調達するために、金融機関へ融資の申込みと同時にL社への保証委託を申し込む。L社への保証委託の申込みは、金融機関を通じて行う。
(2)承諾
L社は、顧客の事業内容、経営計画や申込人である顧客代表者の信用情報などを確認し、保証可能と判断した場合は金融機関に保証を承諾する旨を連絡する。
(3)融資
金融機関は、顧客と融資契約を締結し、顧客へ融資を実行する。この際、顧客は、所定の保証料を、金融機関を通じてL社へ支払う。L社は、金融機関と保証約を締結し、顧客と保証委託契約を締結する。
(4)返済
顧客は、返済条件に基づき借入金を金融機関に返済する。
(5)代位弁済
諸事情で顧客の借入金の返済が滞った場合、金融機関からの請求に基づき、L社が借入金残高の全額を顧客に代わって金融機関に立替払をし、その後、顧客はL社に返済する。
それぞれの契約関係の概要を図1に示す。
〔現在の業務と現行システムの概要〕
L社では、現行システムを利用し、融資保証をしている。金融機関と事前に締結している保証取引基本契約に基づき決められた融資保証の条件を融資保証商品(以下、商品という)として管理している。金融機関からの融資保証の申込みは、金融機関側の都合によりファックス(以下、FAXという)で受け付けている。申込みには、新規申込と契約変更申込の二つの種別(以下、申込種別という)があり、申込種別の単位に異なるFAX番号を設定して、金融機関と申込種別の単位で担当者を割り当てている。また、個人情用情報を外部用機関から取得し、審査に利用している。L社では、全てのシステムで遵守が求められている情報セキュリティ規則で、外部用機関との接続は特定の端末(以下、外信端末という)に限定しており、社内のネットワーク及びシステムとの接続を許可していない。現在の主な業務と現行システムの概要は、次のとおりである。ここで、契約変更申込の業務は省略している。
(1)保証申込業務
L社は、金融機関から顧客の財務諸表、保証委託契約申込書及びその他必要な書類(以下、申込書類という)をFAXで受する。申込対象の商品は、保証委託契約申込書に記載されている。商品ごとに必要な申込書類が異なっており、担当者は必要な申込書類とその内容を業務マニュアルで確認している。申込書類に不備があった場合、FAX送元の金融機関に問い合わせる。不備がなかった場合、現行システムに申込書類の内容を入力し、保証案件として登録する。現行システムは、保証案件の契約状態を管理しており、保証申込の受付時の契約状態を“受付中”にする。
(2)保証審査業務
担当者は、申込書類の記載内容を基に申込人の個人信用情報を外信端末で確認し、確認した内容を現行システムに入力する。また、顧客の売上高、用格付及び商品ごとの保証料の算出に用いる利率から保証料を計算し、現行システムに入力する。審査に必要な内容を現行システムに入力した後、保証審査を決裁者に依頼する。決裁者は、現行システムに入力されている保証案件の内容を確認して審査を行い、保証可能と判断した場合、可決と判定し、契約状態を“実行待ち”にする。保証不可能と判断した場合、否決と判定し、契約状態を“無効”にする。担当者は、契約状態を基に回答書を作成し、金融機関へFAXで送信する。回答書には、判定の結果と保証可能な場合だけ保証料を記載している。
(3)保証料入金及び保証契約書類受領業務
金融機関で顧客に融資が実行された際、顧客が金融機関を通じて保証料を入金する。L社は、保証料が全額入金されていること、及び金融機関から保証契約書類を受領していることを確認し、対応する保証案件の契約状態を“実行中”にする。また、外部信用機関に保証開始の報告をする。
(4)融資残高管理業務
L社は、金融機関から融資残高のデータ(以下、残高データという)を、毎月、第1営業日に受領する。金融機関から送付された残高データを現行システムに取り込み、保証案件ごとに融資残高を更新する。完済された融資があった場合、対応する保証案件の契約状態を“終了”にして、外部用機関に保証完了の報告をする。また、担当者は、必要に応じて現行システムを参照し、融資残高レポートを作成して経営層に報告している。融資残高レポートには、全ての保証案件が代位弁済になった場合にL社が金融機関に支払う金額を記載する。
(5)代位弁済管理業務
金融機関から代位弁済請求書を受領した場合、対応する保証案件の契約状態を“代弁”にする。契約状態が“代弁”となった保証案件は、債権管理システムに登録し、その後の業務を債権管理システムで実施する。
〔新システムへの要望〕
新システムに対して、利用部門の担当者から次のような要望が出された。
(a)インターネット経由で申込みができるポータルサイトを金融機関に提供したい。ポータルサイトでは、金融機関から審査状況の問合せや保証申込の結果を照会できるようにしたい。ただし、ポータルサイトが利用できない金融機関もあるので、FAXでの受付は継続したい。
(b)FAXで受信した申込書類を電子化し、新システムで参照できるようにしてほしい。また、受信した申込書類を一覧化し、担当者を割り当ててほしい。
(c)申込書類の内容を新システムに入力する業務を効率的にしてほしい。
(d)業務マニュアルを用いて実施している、必要な申込書類がそろっているかどうかのチェックを新システムで行ってほしい。
(e)外部用機関から情報を取得する機能を設けて、新システムで確認できるようにしてほしい。
(f)保証審査業務で必要な保証料を新システムで算出してほしい。
(g)保証審査業務で決裁者が審査する前に、新システムで確認可能な項目を用いて顧客に関する1次審査を行ってほしい。
(h)新システムで作成した回答書をFAXで金融機関に送付してほしい。
(i)保証申込業務と保証審査業務の作業の進捗状況が分かるようにしてほしい。
(j)金融機関からの保証料の入金を入金データとして新システムに取り込み、保証案件と突合してほしい。また、保証料が全額入金されたことが分かるようにしてほしい。
(k)保証可能と判断した後に、ある条件を満たした場合、新システムで契約状態を“実行中”に変更してほしい。
(l)融資残高レポートを新システムから出力してほしい。
〔新システムの方針〕
L社情報システム部のM課長は、次のような新システム構築の方針を立てた。①新システムへの要望のうち、一部の要望は、ある理由から新システムへの実装はL社として不適合と判断し、見送ることで利用部門と合意した。
・保証申込業務と保証審査業務の作業の進捗状況の可視化を目的として、保証案件に申込状態を設けて、管理する。
・保証料が全額入金されたことを管理するために、保証案件に入金状態を設ける。
・保証契約書類を金融機関から受領したことを管理するために、保証案件に書類受領状態を設ける。
・FAXで受信した情報を電子化するFAXサーバを導入する。FAXサーバからは、ヘッダー情報として送信日時、送信元FAX番号、受日時及び受情FAX番号、明細情報として申込書類イメージデータを取得する。
・申込書類の内容を新システムに入力する業務の効率化を目的として、OCRを導入しFAXで受信した申込書類イメージデータを読み取る。
〔新システムの設計〕
新システムへの要望と方針を踏まえ、M課長は、新システムの設計を次のように検討している。新システムの主な機能概要を表1に示す。