A社は、食品の取扱いを中心とした商社である。また、 食品の製造又は小売を行っている連結子会社が数社ある。このたび A 社では、会計システムの全面的な再構築を行うことになり、 情報システム部門及び経理部門を中心にプロジェクトチームを立ち上げた。
〔現在のシステム化の状況とその関連する業務〕
A社の現在のシステム化の状況とその関連する業務は、次のとおりである。
(1) 会計システムとその関連業務
会計システムでは、 一般会計処理及び支払手形処理が実施されている。会計システムへのデータ入力は、全て経理部門で起票された仕訳伝票を基に行っている。出力帳票として、一般会計処理では、仕訳帳、総勘定元帳、試算表、貸借対照表及び損益計算書があり、 支払手形処理では、 支払手形及び支払手形管理資料がある。
(2) 販売管理システムとその関連業務
販売管理システムでは、受注処理、出荷・売上処理及び請求処理が実施されている。受注処理では、受注登録、 在庫引当てが行われる。出荷・売上処理では、出荷伝票の発行、出荷実績の登録、受注の消込み、在庫の引落し及び納品後の受領実績登録が行われる。受領実績登録後に、受領書が出荷部門から経理部門に回付され、売上及び売掛金に計上される。請求処理では、得意先の締め日ごとに、 対象となる売上の請求書を発行している。請求に対する入金は全て銀行振込で行われており、経理部門で入金を把握している。
(3)仕入管理システムとその関連業務
仕入管理システムでは、 発注処理、 入荷・検収処理及び在庫管理処理が実施されている。発注処理では、 発注登録、 仕入伝票の発行が行われる。入荷・検収処理では、入荷した時の受取登録、 検品後の検品実績登録、 検収伝票発行及び在庫計上が行われる。また、 発行された検収伝票が経理部門に回付され、買掛金に計上される。買掛金の支払の一部は手形で行われている。在庫管理処理では、販売と仕入に伴う入出庫の処理、月次の棚卸処理及び在庫管理資料の作成が行われている。
(4) 人事給与システムとその関連業務
人事給与システムでは、 給与計算、 賞与計算、 年末調整及び人事管理の各処理が実施されている。人件費の実績は、 給与関連帳票が経理部門に回付され、 一般会計に計上される。また、 給与、賞与、 法定福利費などの人件費の見込情報も人事給与システムで計算している。
現在の会計システムの概要を図1に示す。
〔会計システム再構築の背景〕
(1) A社の経営層からの指示
経営層からの次の指示によって、 会計システムの見直しが必要になった。
① 現在、 月次決算の報告が翌月の半ば過ぎになっている。 連結子会社との連結決算報告も含め、 決算日程を短縮すること。
② 財務報告の信頼性を確保するために、 内部統制に問題がないか、 検討すること。
(2) 取引方法の変更
取引先と調整した結果、 取引方法を次のように変更することになり、 会計システムにもその変更を反映することが必要になった。
① A社の売上計上基準を納品基準から出荷基準へ変更する。
② 買掛金の支払は、全て銀行振込による支払へ変更する。
(3) 経理部門からの課題・要望への対応
経理部門からは、 表1に示す課題・要望が出され、 会計システムの改善が必要になった。
経理部門の管理面での課題として、 特に資金管理関連における資金収支の管理強化が挙げられた。資金収支の実績だけでなく、将来の資金収支予定を正確に把握することが重要になっている。
〔会計システム再構築の方針〕
(1) 再構築後の会計システム(以下、新会計システムという)は、新たに会計ソフトウェアパッケージを導入し、その会計ソフトウェアパッケージがもっている機能を全面的に活用する。また、経営層からの指示、取引方法の変更及び経理部門からの課題・要望への対応に重点をおく。
(2) 既存の販売管理、仕入管理及び人事給与の各システムとの連携を強化する。
① 各システムから新会計システムへ渡す情報は、伝票ではなくデータで渡すことにする。
② 販売管理システムで行っていた請求処理は、会計ソフトウェアパッケージがもっている請求処理に移行する。
(3) 内部統制実施基準に対応したシステムとする。
〔新会計システムの概要〕
新会計システムは、一般会計、売掛金管理、買掛金管理、資金管理、経費管理及び連結会計の六つのサブシステムから構成される。
新会計システムの概要を図2に示す。
〔内部統制面からの検討〕
内部統制実施基準では、“財務報告の信頼性を確保するための IT の統制は、会計上の取引記録の正当性、完全性及び正確性を確保するために実施される”と記述されている。さらに、“正当性とは、取引が組織の意思・意図にそって承認され、行われることをいい、完全性とは、記録した取引に漏れ、重複がないことをいい、正確性とは、発生した取引が財務や科目分類などの主要なデータ項目に正しく記録されることをいう”と記述されている。
また、内部統制実施基準の中で、“IT の統制の構築” における “IT に係る業務処理統制”の具体例の一つとして、入力情報については、“入力情報の完全性、正確性、正当性などを確保する統制” が挙げられている。