システム監査技術者 2024年 午後1 問02
システム監査報告書の作成に関する次の記述を読んで、設問に答えよ。
B社は、中堅の食品専門商社である。近年の厳しい経営環境の中、ITコスト低減のために、従来オンプレミスで開発・運用していた基幹システムを1年前にクラウド環境に移行した。B社内部監査室のシステム監査チームは、クラウド環境に移行した基幹システムの信頼性及び安全性について、ITコスト低減による問題が生じていないか、統制の整備状況及び運用状況のシステム監査を実施した。
〔システム監査報告書案の作成〕
システム監査チームは、監査結果をまとめ、表1のとおり、システム監査報告書案を作成した。また、システム監査チームが実施した監査手続及びその結果は、表2~表4に示す監査調書にまとめられている。
内部監査室長は、監査調書を参照しながらシステム監査報告書案をレビューした。




〔内部監査室長の指示〕
内部監査室長は、監査調書及びシステム監査報告書案をレビューし、次のように内容を見直すよう、システム監査チームに指示した。
(1) 表1の“8.総合評価”については、“1.監査目的”に照らすと、記載内容が不十分であるので、必要な事項を追記すること。
(2) 表1の“9.発見事項”(1)に関連して、次の2点を確認すること。
① 表2及び表3の“監査結果”を踏まえると、“改善提案”がこれで妥当かどうか疑問である。情報システム部と協議の上、“改善提案”の内容を必要に応じて修正すること。
② 表3の“監査手続”の下線部について、網羅性の観点から、“監査結果”の②でシステム変更申請書からサンプリングするのに先立って実施した監査手続とその結果を監査調書に記載しておくこと。
(3) 表1の“9.発見事項”(2)の“改善提案”の内容については、表2の“監査結果”から、情報システム部の業務に支障を来す可能性があると考えられる。“改善提案”の内容が実行可能かどうか、情報システム部と十分にコミュニケーションを取って検討すること。
(4) 表2の“監査結果”から、情報システム部の来年度以降の体制について懸念すべき事項があるので、今後継続して確認していくこと。
設問1:
問題文を見る〔内部監査室長の指示〕(1)について、不十分な点を、35字以内で答えよ。
模範解答
統制の整備状況と運用状況についての評価が明記されていない点
解説
解答の導き方
-
まず「1. 監査目的」を確認します。監査対象について、「統制の整備状況及び運用状況の観点から評価及び検証を行う」とあります。つまり、総合評価では、統制が適切に整えられているかと、その統制が実際に運用されているかの両方を評価する必要があります。
-
一方、現在の「8. 総合評価」には、基幹システムの信頼性及び安全性は「おおむね良好」とあります。また、発見事項があったことも記載されています。しかし、統制の整備状況と運用状況それぞれについて、どのように評価したのかは明記されていません。
-
したがって不十分なのは、監査目的で評価するとした二つの観点、すなわち統制の整備状況と運用状況についての評価が、総合評価に明記されていない点です。
誤りやすいポイント
- 「おおむね良好」と書かれているため、監査目的に沿った評価も十分に示されていると思い込まないようにします。信頼性・安全性の評価だけでは、統制の整備状況と運用状況を評価したことが明確になりません。
- 発見事項が記載されていることと、総合評価に必要な評価が記載されていることは別です。発見事項の説明だけでは、統制全体をどのように評価したかは分かりません。
- 監査目的と総合評価を対応させて確認します。目的に掲げた評価観点が、総合評価にも反映されているかが判断のポイントです。
FAQ
Q: 発見事項が記載されていれば、統制の運用状況も評価したことになりますか?
A: 発見事項は個別の問題を示すものです。統制全体の運用状況をどのように評価したかは、総合評価に明記する必要があります。
A: 発見事項は個別の問題を示すものです。統制全体の運用状況をどのように評価したかは、総合評価に明記する必要があります。
Q: 「信頼性及び安全性はおおむね良好」という記載では、なぜ不十分なのですか?
A: 監査目的は信頼性・安全性だけでなく、統制の整備状況と運用状況の観点から評価することも含んでいます。その二つの観点での評価が読み取れないためです。
A: 監査目的は信頼性・安全性だけでなく、統制の整備状況と運用状況の観点から評価することも含んでいます。その二つの観点での評価が読み取れないためです。
関連キーワード: 内部統制、統制の整備状況、統制の運用状況、監査目的、総合評価
設問2:
問題文を見る〔内部監査室長の指示〕(2)の①について、修正後の改善提案として考えられる内容を、50字以内で答えよ。
模範解答
変更したプログラムの本番環境へのリリース時に変更管理ツール上での申請、承認機能を活用する。
解説
解答の導き方
-
まず、発見事項(1)が何の問題を示しているかを確認します。表3では、監査対象期間のシステム変更申請書20件を調べたところ、情報システム部長の承認記録がないものが3件ありました。承認の押印が漏れていたという説明もあります。したがって、申請書に承認記録を残すよう求めるだけでは、同じ漏れが再発する可能性があります。
-
次に、現在の仕組みに改善に利用できる機能があるかを確認します。表2には、変更管理ツールに「本番環境へのリリース時に本ツール上での申請、承認を必須とすることができる機能」がある一方、その機能を使用していないとあります。つまり、承認を確実に通す仕組みは既にありますが、活用されていません。
-
この機能を使えば、本番環境にプログラムをリリースする際、ツール上の申請と承認を経るようにできます。承認記録を手作業で残すよう求めるだけでなく、既存の機能によって申請・承認の手続を実行させる改善提案が適切です。そのため、変更したプログラムの本番環境へのリリース時に、変更管理ツール上での申請、承認機能を活用する内容に修正します。
誤りやすいポイント
- 「情報システム部長が承認し、記録を残す」とだけ提案することです。これは現状のルールを言い換えたにとどまり、承認の押印漏れを防ぐ仕組みの改善になっていません。
- システム変更申請書のサンプリング件数や承認記録がない件数を、改善提案の中心にすることです。問われているのは、発見事項(1)に対する改善提案の修正内容です。
- 表2にある変更管理ツールの機能を見落とすことです。既存機能を活用すれば、リリース時に申請と承認を経る統制を実現できます。
FAQ
Q: 承認記録を残すよう再度周知するだけでは、なぜ不十分なのですか?
A: 表3では承認の押印漏れが確認されているため、周知だけでは漏れを防げる保証がありません。申請・承認を必須にできる機能を活用し、手続を仕組みで実施させることが重要です。
A: 表3では承認の押印漏れが確認されているため、周知だけでは漏れを防げる保証がありません。申請・承認を必須にできる機能を活用し、手続を仕組みで実施させることが重要です。
Q: 改善提案では、承認者を変更することまで述べる必要がありますか?
A: この設問では、表2に示されたツールの機能を活用する改善が導かれます。承認者の変更ではなく、本番環境へのリリース時にツール上で申請・承認を行うことが要点です。
A: この設問では、表2に示されたツールの機能を活用する改善が導かれます。承認者の変更ではなく、本番環境へのリリース時にツール上で申請・承認を行うことが要点です。
関連キーワード: 変更管理、承認統制、監査証跡、IT統制
設問3:
問題文を見る〔内部監査室長の指示〕(2)の②について、先立って実施した監査手続として監査調書に記載しておくべき内容を、50字以内で答えよ。
模範解答
本番環境のプログラムに対する全ての変更ログについて、システム変更申請書があることを確かめる。
解説
解答の導き方
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この設問では、表3の「監査結果」の②でサンプリングを行う前に、どのような監査手続を実施しておくべきかを問われています。ポイントは、表3の監査目標にある「基幹システムの本番環境のプログラムに対する全ての変更」が、監査対象から漏れていないかを確かめることです。
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表3の監査手続②では、「変更ログ及び関係書類の閲覧」によって、全ての変更が承認されていることを確かめるとしています。しかし、監査結果では、システム変更申請書を母集団として20件をサンプリングしています。この方法だけでは、申請書が作成されていない変更があっても、そもそもサンプリング対象に含まれないため、未承認の変更を見落とすおそれがあります。
-
そこで、サンプリングの前に、実際に本番環境で行われた変更を記録した変更ログを基に、変更ログに記録された変更それぞれに対応するシステム変更申請書があるかを確かめます。これにより、変更の全体を把握した上で、申請書からサンプリングして承認状況を確認できます。
誤りやすいポイント
- システム変更申請書からサンプリングするだけでは、申請書が作成されていない変更を発見できません。
- サンプリングした申請書の承認印を確認する手続と、変更の全体が申請書で網羅されていることを確かめる手続は、目的が異なります。
- 「全ての変更が承認されているか」を確かめるには、実際の変更記録を起点として申請書の有無を確認する必要があります。
FAQ
Q: なぜ変更ログを起点に確認するのですか?
A: 変更ログから確認すれば、申請書が作成されていない変更も確認対象に含められるためです。
A: 変更ログから確認すれば、申請書が作成されていない変更も確認対象に含められるためです。
Q: サンプリングでは何を確認しますか?
A: 変更ログと申請書の対応を確認して母集団の網羅性を確かめた後、申請書をサンプリングして承認状況を確認します。
A: 変更ログと申請書の対応を確認して母集団の網羅性を確かめた後、申請書をサンプリングして承認状況を確認します。
Q: この設問で重視される監査上の観点は何ですか?
A: サンプリング対象の母集団に、実際に行われた変更が漏れなく含まれているかという網羅性です。
A: サンプリング対象の母集団に、実際に行われた変更が漏れなく含まれているかという網羅性です。
関連キーワード: 網羅性、サンプリング、変更管理、監査証拠、監査手続
設問4:
問題文を見る〔内部監査室長の指示〕(3)について、支障を来す可能性がある情報システム部の業務を、25字以内で答えよ。
模範解答
本番環境におけるインシデント発生時の緊急対応
解説
解答の導き方
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設問は、発見事項(2)の改善提案を実施すると、情報システム部のどの業務に支障が出る可能性があるかを尋ねています。改善提案では、システム開発チームリーダーに更新権限を付与せず、本番環境の作業を全てシステム運用チームが行うとしています。
-
影響を判断するには、表2にあるシステム開発チームリーダーの担当業務を確認します。表2には、同リーダーが「本番環境におけるインシデント発生時の原因調査及び緊急対応を行っている」とあります。
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このうち、改善提案で直接影響を受けるのは緊急対応です。緊急対応では、本番環境のプログラムやデータを直ちに修正するなど、本番環境を更新する作業が必要になることがあります。提案のとおり開発チームリーダーから更新権限をなくすと、リーダー自身がこの作業を行えなくなります。一方、代わりに作業を担うシステム運用チームは「基幹システムの機能や仕様については熟知していない」とされているため、インシデント発生時に、これまで開発チームリーダーが担っていた緊急対応を円滑に行えなくなる可能性があります。
-
したがって、支障が出る可能性がある業務は、本番環境でインシデントが発生した際の緊急対応です。
誤りやすいポイント
- 改善提案の「本番環境の作業を全てシステム運用チームが行う」という部分だけを見て、通常の本番環境の更新作業を答えないようにします。設問が問うているのは、表2から読み取れる業務への影響です。
- システム開発チームリーダーが行う「原因調査」と「緊急対応」のうち、更新権限がなくなることで直接行えなくなるのは、本番環境を変更する作業を伴う緊急対応です。原因調査は必ずしも本番環境の更新を伴わないため、支障がとくに懸念される業務として緊急対応を捉えます。
- 改善提案の妥当性全般を論じるのではなく、支障を来す可能性がある情報システム部の業務を簡潔に答えます。
FAQ
Q: システム開発チームリーダーの原因調査も答えに含めるべきですか?
A: 表2には原因調査も記載されていますが、改善提案で失われるのは本番環境の更新権限です。原因調査は更新権限がなくても進める余地がありますが、本番環境を速やかに変更する必要がある緊急対応は、権限がなければ行えません。そのため、支障が懸念される業務としては緊急対応を答えます。
A: 表2には原因調査も記載されていますが、改善提案で失われるのは本番環境の更新権限です。原因調査は更新権限がなくても進める余地がありますが、本番環境を速やかに変更する必要がある緊急対応は、権限がなければ行えません。そのため、支障が懸念される業務としては緊急対応を答えます。
Q: なぜシステム運用チームへの業務移管が問題になるのですか?
A: 表2によると、システム運用チームは基幹システムの機能や仕様を熟知していません。そのため、インシデント発生時に必要な対応を円滑に進められない可能性があります。
A: 表2によると、システム運用チームは基幹システムの機能や仕様を熟知していません。そのため、インシデント発生時に必要な対応を円滑に進められない可能性があります。
Q: 更新権限を制限すること自体が不適切なのですか?
A: 更新権限の制限と、インシデント対応を誰が担うかは別の観点です。権限を適切に制限しつつ、緊急時に必要な対応を実行できる体制も検討する必要があります。
A: 更新権限の制限と、インシデント対応を誰が担うかは別の観点です。権限を適切に制限しつつ、緊急時に必要な対応を実行できる体制も検討する必要があります。
関連キーワード: アクセス権管理、職務分掌、インシデント対応、変更管理
設問5:
問題文を見る〔内部監査室長の指示〕(4)について、懸念すべき事項を、45字以内で答えよ。
模範解答
情報システム部長の退職に際して部長のノウハウの伝承が適切に行われない。
解説
解答の導き方
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〔内部監査室長の指示〕(4)は、表2の「監査結果」から分かる、情報システム部の来年度以降の体制に関する懸念を問うています。したがって、現在の業務分担に問題があるかどうかだけでなく、今後の体制に影響する情報を探します。
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表2には、情報システム部長が「情報システム部の中で最も経験年数が長く、利用部門の業務知識も豊富」とあります。さらに、要件定義で利用部門をサポートし、各チームの作業内容もチェックしています。このことから、部長は経験や業務知識を生かして、情報システム部の業務を幅広く支えていると分かります。
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その部長について、表2には「来年退職予定」とあります。部長が退職すると、要件定義で利用部門を支援する知識や、各チームの業務をチェックするための経験が失われるおそれがあります。後任への引継ぎや知識の共有が十分でなければ、部長が担ってきた業務を継続することが難しくなります。
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したがって、懸念すべきなのは、部長の退職そのものではなく、退職に伴って部長の経験や知識が適切に引き継がれないことです。これを「部長のノウハウの伝承が適切に行われない」という内容で表します。
誤りやすいポイント
- 情報システム部長の退職予定だけを挙げ、退職によって生じる懸念まで説明しないことです。問われているのは、退職に伴うノウハウ伝承上の懸念です。
- 表2にある「システム開発チームとシステム運用チームの役割分担が明確でない」と答えることです。表2では、体制図や職務分掌規程によって業務と職務分掌が明確に規定されていることが確認されています。
- 部長が担っている知識や役割を無視して、一般的な人員不足の問題として答えることです。部長の経験年数、利用部門の業務知識、要件定義での支援が根拠になります。
FAQ
Q: 部長の退職が予定されているだけで、なぜ懸念になるのですか?
A: 部長は経験年数が最も長く、利用部門の業務知識も豊富で、要件定義の支援や各チームの作業確認も担っています。その知識や経験が引き継がれないと、退職後に業務を継続するうえで問題となる可能性があるためです。
A: 部長は経験年数が最も長く、利用部門の業務知識も豊富で、要件定義の支援や各チームの作業確認も担っています。その知識や経験が引き継がれないと、退職後に業務を継続するうえで問題となる可能性があるためです。
Q: 現在の職務分掌が明確であることは、懸念がないことを意味しますか?
A: いいえ。現在の業務と役割が明確であることと、部長の退職後にその知識や経験を引き継げることは別の問題です。ここでは、来年度以降の体制を継続して確認する必要があります。
A: いいえ。現在の業務と役割が明確であることと、部長の退職後にその知識や経験を引き継げることは別の問題です。ここでは、来年度以降の体制を継続して確認する必要があります。
関連キーワード: ナレッジマネジメント、業務継続、職務分掌、引継ぎ



