ITストラテジスト 2009年 午後1 問04
監視カメラシステムの企画に関する次の記述を読んで、設問1〜3に答えよ。
E社は、自動車メーカー向けの小型カメラを製造している。E社の主力製品は、自動車をバックさせるときの後方確認用カメラである。近年は、車線境界線を監視してハンドル操作をサポートしたり、運転者の表情やまぶたの動きを監視して休憩を促したりするための、画像監視機能をもつ監視カメラシステムも製造している。この画像監視機能は、撮影した画像の中の動く部分を監視し、指定された動きと同一とみなったときや、動きが定められた時間以上停止したことを検知するものである。
現在E社は業績が悪化しており、新たな市場展開によって業績を回復しなくてはならない状況にあることから、H市の新交通システムの導入に伴う監視カメラシステムのメーカー選定に応募することにした。
〔H市の新交通システム及び監視カメラシステムの概要〕
H市では、市郊外の住宅地域と市中心部及び商工業地帯を結ぶ公共交通機関の導入を決定している。この公共交通機関に関しては運用コストを抑えることが重要課題であることから、車両を無人運転にして少人数の駅員で運用できる新交通システムが採用された。駅員は、液晶付携帯型IP電話を用いて相互に連絡をとることができる。
各駅構内及び車両内には監視カメラシステムを設置し、ほかの鉄道との乗換駅となるH市中央駅には監視カメラシステムの拠点となる監視室を設ける。
H市の監視カメラシステムに対する要件事項は、次のとおりである。
(1) 駅構内・車両内の不審物、転倒者、何らかの原因で動かなくなった者、暴力行為などの異常状態を監視し、発見時には、最寄りの駅員がすぐに対応できるようにする。
(2) 車両内の監視カメラの画像は、必要に応じて無線で監視室に送る。
(3) 駅構内の監視カメラは全体で100台、監視カメラを1台設置した車両が最大20車両稼働するので、車両内の監視カメラは全体で最大20台である。
(4) 駅構内の監視カメラは、高所などに設置されるので、運用開始後の保守が難しい。後に、機能追加及び設定値変更が必要となったときの保守方法を考慮する。
なお、H市からの情報によると、監視室と各駅とを結ぶ通信回線はほかの用途でも使用するので、監視カメラシステムに割り当てられる帯域幅は、10Mビット/秒程度になるとのことであった。
また、E社で行った画像監視機能開発において、次の事項が判明している。
・個体認識・解析のアルゴリズムには、設置場所の人の流れや設置環境によって調整すべき設定値が多くあること
・これらの設定値は、設置されるカメラごとに運用実績を見ながら調整する必要があること
〔応募説明会〕
H市は、監視カメラシステムのメーカー選定に当たり、応募説明会を開き、前述の要求事項(1)〜(4)を踏まえた技術提案書及び価格を、各メーカーに提示してもらうことにした。この説明会にはE社のほかに、F社、G社の2社が出席した。
〔E社が入手した競合メーカーの概要〕
F社は、オフィスビル向けの監視カメラシステムメーカーである。F社の監視カメラシステムは、カメラで撮影した画像を監視室等に常時送信して監視室の表示モニタに画像を表示し、記録装置に画像データを常時記録するものである。1台の表示モニタで、最大4台のカメラの画像を同時に表示することができる。多数のカメラを設置する場合は、表示モニタの台数を増やすか、表示する画像を手動で選択しなければならないと推測される。
G社は、工場向けの無人搬送車メーカーである。G社の無人搬送車は、人やほかの搬送車などの障害物とぶつからないよう、搬送車前方に設置されたカメラで走行方向の障害物を監視しながら工場内の決められたコースを走行し、無線で指示された経路に従って指示された物品を搬送するものである。
設問1:
E社が、技術提案書を作成するに当たり、克服しなくてはならない課題を挙げよ。
また、その課題にどのように取り組むべきかを、50字以内で述べよ。
模範解答
課題:無線を用いた通信技術の取込み
取組:無線を用いた通信技術をもつメーカーとの共同開発や、技術又は部品の購入について検討する
解説
解答の論理構成
-
要求事項の把握
要件(2)に「車両内の監視カメラの画像は、必要に応じて無線で監視室に送る。」とあります。したがってシステムに“無線伝送”機能は必須です。 -
E社の現状整理
冒頭で「E社の主力製品は、自動車をバックさせるときの後方確認用カメラ」と記載されていますが、無線通信装置を製造しているとは書かれていません。 -
ギャップの特定
無線技術が要求される一方、E社はカメラ開発が主で無線の実績が見当たりません。よって「無線を用いた通信技術の取込み」が克服すべき課題になります。 -
取組方針の導出
自社にノウハウが不足している場合の一般的解決策は、
・外部企業との「共同開発」
・既存「技術又は部品の購入」
です。モデル解答はこれを端的にまとめています。
結果として
課題:無線を用いた通信技術の取込み
取組:無線を用いた通信技術をもつメーカーとの共同開発や、技術又は部品の購入について検討する
が最適解になります。
課題:無線を用いた通信技術の取込み
取組:無線を用いた通信技術をもつメーカーとの共同開発や、技術又は部品の購入について検討する
が最適解になります。
誤りやすいポイント
- 有線帯域「10Mビット/秒程度」に注目し過ぎて、主題を“画像圧縮”と誤認しがちです。根本要求は無線伝送への対応です。
- 「車両内カメラ最大20台」の数字からスループット計算に走り、課題を容量設計と誤答するケースがあります。
- E社が画像解析アルゴリズムを保有する点に引きずられ、課題を「画像AI精度」としてしまうミスも頻発します。
FAQ
Q: なぜ“共同開発”と“購入”を併記するのですか?
A: 時間とコストのトレードオフを踏まえ、両案を並立させることで審査側に柔軟性を示せるためです。
A: 時間とコストのトレードオフを踏まえ、両案を並立させることで審査側に柔軟性を示せるためです。
Q: 無線方式(Wi-Fi か LTE か等)は指摘しなくてよいのですか?
A: 設問は“課題と取組”の提示が目的であり、具体方式は技術提案書詳細フェーズで検討すれば十分です。
A: 設問は“課題と取組”の提示が目的であり、具体方式は技術提案書詳細フェーズで検討すれば十分です。
Q: 他社との競争優位性は確保できますか?
A: カメラと画像監視アルゴリズムはE社の強みなので、無線技術を補完できれば総合提案力で競合と戦えます。
A: カメラと画像監視アルゴリズムはE社の強みなので、無線技術を補完できれば総合提案力で競合と戦えます。
関連キーワード: 無線通信, 共同開発, 技術導入, 画像監視, 帯域幅
設問2:
E社は、技術提案書の作成に当たり、監視カメラシステムにどのような特徴をもたせることによって、F社、G社との差別化を図るべきか。重要すべき提案項目を二つ挙げよ。また、各提案項目について、システムアーキテクトに指示すべき検討内容を、それぞれ40字以内で述べよ(①、②は順不同)。
模範解答
①:
提案項目:異常状態の自動検出機能
検討内容:現在自社が保有している技術で、要求される異常状態検出が可能か否か
②:
提案項目:遠隔からの設定値調整機能
検討内容:遠隔からの調整の対象となる設定値と設定値範囲及び設定方法
解説
解答の論理構成
-
要件に適合し、かつ差別化が必要
- H市が求める要件(1)は「駅構内・車両内の不審物、転倒者、何らかの原因で動かなくなった者、暴力行為などの異常状態を監視し、発見時には、最寄りの駅員がすぐに対応できるようにする。」
- 競合のF社は「カメラで撮影した画像を監視室等に常時送信」し、人手によるモニタリングが前提。自動検知機能は示されていない。
- 競合のG社は「搬送車前方に設置されたカメラで走行方向の障害物を監視」するが、駅構内・車両内の多様な異常を検出する仕組みは提示されていない。
-
E社が活かせる自社技術
- E社は自動車向けカメラで「撮影した画像の中の動く部分を監視し、指定された動きと同一とみなったときや、動きが定められた時間以上停止したことを検知」する画像監視機能を保有。これは異常検知ロジックに直結する。
- さらに、開発で判明した課題として「設置されるカメラごとに運用実績を見ながら調整する必要があること」がある。高所設置で保守が難しいという要件(4)に対し、遠隔で設定を変更できる仕組みを入れれば大きな提案価値となる。
-
帯域幅制約を踏まえたメリット
- H市からは「監視カメラシステムに割り当てられる帯域幅は、10Mビット/秒程度」と通知されている。
- 画像を常時送るF社方式は帯域を圧迫する恐れがある。一方、カメラ側で異常を自動検知し、必要時のみ通報・画像を送信する方式は帯域制約にも適合する。
-
以上を踏まえ、
①「異常状態の自動検出機能」
②「遠隔からの設定値調整機能」
が、要件充足と競合差別化の両方を同時に満たす最重要項目となる。
誤りやすいポイント
- 競合との差別化を価格やカメラ台数で説明してしまい、機能面の優位性を示せない。
- 要件(4)の「機能追加及び設定値変更が必要となったときの保守方法」を軽視し、遠隔調整機能を盛り込まない。
- 帯域幅「10Mビット/秒程度」の制限を無視し、常時映像送信型の提案を選択してしまう。
- 自動検知と言いながら、検知対象を「不審物」だけに限定し、転倒者や暴力行為への対応を忘れる。
FAQ
Q: 自動検知は誤検知のリスクが高いのでは?
A: 誤検知率は既存アルゴリズムをベースに現場データで再学習し、遠隔調整機能でしきい値を微調整することで低減できます。
A: 誤検知率は既存アルゴリズムをベースに現場データで再学習し、遠隔調整機能でしきい値を微調整することで低減できます。
Q: 遠隔調整機能はセキュリティ上問題にならないか?
A: 通信経路をVPNで暗号化し、設定変更は認証付きWebコンソール+操作ログ保存で不正操作を防止できます。
A: 通信経路をVPNで暗号化し、設定変更は認証付きWebコンソール+操作ログ保存で不正操作を防止できます。
Q: 帯域が「10Mビット/秒程度」でもライブ映像は送れる?
A: 通常はアラーム時のみ映像を送信し、平常時はメタデータだけを送ることで帯域を確保し、必要に応じて低フレームレートでライブ確認も可能です。
A: 通常はアラーム時のみ映像を送信し、平常時はメタデータだけを送ることで帯域を確保し、必要に応じて低フレームレートでライブ確認も可能です。
関連キーワード: 動体検知, 遠隔保守, 帯域制御, しきい値調整, イベント駆動
設問3:
E社は、今回の受注だけでは開発コストを回収できなくても、今回の受注を獲得すべきと考えた。E社は、今後どのような戦略をとるべきか。二つ挙げ、それぞれ30字以内で述べよ。
模範解答
①:同様な交通システムを有する事業者にシステム提案を行う。
②:付加機能を順次提案し、その機能導入で収益を確保する。
解説
解答の論理構成
-
収益構造の課題認識
- 【問題文】には「E社は、今回の受注だけでは開発コストを回収できなくても、今回の受注を獲得すべきと考えた。」とある。
- すなわち単体案件では赤字になるが、長期的に利益を生む布石として受注を狙う戦略が求められる。
-
横展開によるスケールメリット
- 新交通システムと同規模・同方式の案件は全国に存在する。
- E社は「小型カメラを製造」し「無人運転」にも対応できる技術力を持つ。
- 初号機となるH市案件で実績を作り、同業他社の公共交通へ横展開することで量産効果が期待できる。
-
ライフサイクルでの追加収益
- 駅構内カメラは「後に、機能追加及び設定値変更が必要」と明示されている。
- さらに「設置されるカメラごとに運用実績を見ながら調整する必要」があるため、ソフトウェア更新・アルゴリズム最適化の需要が継続的に発生する。
- H市向け導入後も追加機能や保守契約を提案すれば利益回収のチャンスが増える。
-
よって、模範解答は
①「同様な交通システムを有する事業者にシステム提案を行う。」
②「付加機能を順次提案し、その機能導入で収益を確保する。」
の二本立てとなる。
誤りやすいポイント
- 「開発コストを回収できなくても…」という記述を読み飛ばし、短期採算の手段ばかり考えてしまう。
- 追加機能=ハード増設と短絡し、ソフトウェア更新・アルゴリズム調整の継続収入を見落とす。
- 競合他社(F社・G社)の特徴を自社戦略と混同し、横展開のターゲットを誤る。
FAQ
Q: 横展開の提案先は必ず公共交通機関でなければいけませんか?
A: いいえ。無人運転や遠隔監視を求める物流・倉庫なども候補ですが、問題文では「新交通システム」の実績を活かすと読み取るのが自然です。
A: いいえ。無人運転や遠隔監視を求める物流・倉庫なども候補ですが、問題文では「新交通システム」の実績を活かすと読み取るのが自然です。
Q: 追加機能の具体例は何を想定すればよいでしょうか?
A: AI画像解析の高精度化、IoT連携、クラウド蓄積によるビッグデータ分析、スマートフォンへの通知機能などが考えられます。
A: AI画像解析の高精度化、IoT連携、クラウド蓄積によるビッグデータ分析、スマートフォンへの通知機能などが考えられます。
Q: F社やG社との差別化ポイントを戦略に盛り込む必要はありますか?
A: 盛り込めれば理想ですが、本設問は「今後どのような戦略をとるべきか」を問うため、横展開と追加機能という二大方策を明示すれば十分です。
A: 盛り込めれば理想ですが、本設問は「今後どのような戦略をとるべきか」を問うため、横展開と追加機能という二大方策を明示すれば十分です。
関連キーワード: PoC, スケールメリット, ライフサイクル収益, アップセル, ソフトウェア更新


