ITストラテジスト 2010年 午後1 問04
電機メーカーの事業展開に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。
〔F社の現状〕
F社は、家庭用電化製品、太陽光発電装置、電力会社向け電気機器の開発・製造・販売を行っている電機メーカーである。環境保護の気運が高まるにつれ、ここ数年、F社における太陽光発電装置の売上が伸びている。
F社は、近い将来スマートグリッドと呼ばれる電力網全体を制御するシステムが実現されると考え、スマートグリッドに関する製品戦略を検討した。その結果、電力を利用する企業、工場、一般家庭など(以下、これらを総称して需要家という)に設置される高機能型電力メータ(以下、スマートメータという)、及び需要家向けの蓄電機能を備えた太陽光発電システムを、他社に先駆けて開発し、業績を伸ばす方針を打ち出した。
〔スマートグリッドの概要〕
スマートグリッドは、情報通信技術を用い、太陽光発電などの分散型電源や需要家の情報を統合して活用することによって、電力の需給バランスを制御し、高効率、高品質、高信頼度の電力供給システムの実現を目指すものと考えられている。
スマートグリッドを実現するためには、分散型電源に蓄電池を組み合わせたシステムを用いて発電の急激な電力変動を平準化する技術の開発と、スマートメータを活用して電力網全体のバランスを追随制御する技術の開発が、それぞれ重要と考えられている。
〔スマートメータの概要〕
スマートメータは、需要家側の発電状況や家庭用電化製品などの電力使用状況を電力会社へ送信したり、電力会社から制御情報を受信して需要家側からの電力の送電量を制御したりする機能をもっている。
〔国内外における電力事情の調査結果〕
F社は、スマートグリッドを視野に入れたスマートメータ開発の観点から、国内外の電力事情の調査を行った。その結果、次のような電力事情が判明した。
(1) 国内の電力事情
・諸外国と比べて、電力安定供給について厳しい運用が求められている。
・気象条件、生活様式、産業構造などによって、季節ごと及び時間ごとに電力需要が大きく変化する。
・スマートグリッドなどを、近未来の技術として取組みを進めている段階であり、エネルギーの運用効率向上及び環境保護の両面から、大きな期待が寄せられている。
(2) 海外の電力事情
・電力供給の信頼性が日本に比べて低く、停電が多発している国がある。こうした国では、停電範囲の拡大を防止する制御技術、及び電力供給が復旧するまでの電力自給(代替電力・蓄電)技術が求められている。
・太陽光発電、風力発電などを推進している国では、発電量を監視し、蓄電池への充電量を制御することによって、不安定な電力供給を安定させる技術が求められている。
・スマートグリッドにおけるスマートメータに関する通信手順の標準規格化に注力している国がある。
・各国のメーカーは、スマートグリッドに関連する特許取得を始めている。
〔スマートメータに関連するヒアリング結果〕
F社では、国内の電力会社、需要家に対して、スマートメータに関連するヒアリングを実施した。その結果から、電力会社の抱える問題、需要家の要望を次のように整理した。
(1) 電力会社の抱える問題
・太陽光発電及び風力発電による電力量は、気象条件によって大きく変動するので、大量に導入されるようになると、電力網全体の需給バランスの変動が大きくなる。電力会社は、その変動に適応できなくなると、電力の安定供給に支障を来すおそれがあると考えている。
・電気自動車が普及し、一斉に充電を開始すると、電力の安定供給に支障を来すおそれがある。
(2) 需要家の要望
・時間帯によって電力の売買単価が異なる時間別料金制度となっているので、電力が高いときに売り、安いときに買うなどの、経済的な電力売買のスケジューリングを行いたい。
・外出先から、自宅の家庭用電化製品の運転状況が分かるようになれば便利である。また、外出先から、消し忘れた家庭用電化製品の電源を切ることができれば、より安全性を高めることができる。
〔製品戦略会議〕
F社では、スマートメータ及び蓄電機能を備えた太陽光発電システムを開発し、業績を伸ばすという方針の下、製品戦略会議を開くことにした。製品戦略会議に先立ち、これまで電力事情調査、ヒアリングなどで把握した状況を、次のように整理した。
(1) 蓄電池
・太陽光発電装置と組み合わせる蓄電池には、蓄電・放電の特性、蓄電容量、設置環境、性能保証期間、安全性など、太陽光発電システムに適した仕様が必要である。
・F社は蓄電池の技術をもっていないので、自社開発及び製造を行うには、基盤技術及び製造設備を整えるための膨大な時間、並びに設備投資が必要である。
・スマートグリッドの進展によって、蓄電池の市場規模が拡大し、先行メーカーがしのぎを削る市場となることが想定される。
(2) 太陽光発電システム
・住宅の新築・改築に合わせて太陽光発電システムを導入する例が多く、今後30年程度の間に緩やかに普及することが考えられる。
(3) スマートメータのもつ通信手順
・電力会社及び家庭用電化製品との通信手順は、標準化されても時代とともに変化するので、通信手順の更新が必要となる。
・通信手順の移行期間中は、古い通信手順の家庭用電化製品とも通信しなくてはならない時期がある。
製品戦略会議の結果、F社は、太陽光発電システムと組み合わせる蓄電池については、大手蓄電池メーカーと技術提携し、専用品として調達することにした。
設問1:スマートメータの機能について、(1)、(2)に答えよ。
(1)国内向けのスマートメータ要求仕様を整理した。
(a) 需要家の要望を実現するための機能を二つ挙げ、それぞれ20字以内で述べよ。
(b) 通信機能に求められる要件を二つ挙げ、それぞれ20字以内で述べよ。
模範解答
(a):
①:経済的な電力売買のスケジューリング
②:外出先からの家庭用電化製品の監視制御
(b):
①:通信手順の更新を可能とすること
②:複数の通信手順に対応可能とすること
解説
解答の論理構成
-
需要家の要望整理
・問題文には、需要家が
①「電力が高いときに売り、安いときに買うなどの、経済的な電力売買のスケジューリングを行いたい。」
②「外出先から、自宅の家庭用電化製品の運転状況が分かるようになれば便利である。また、外出先から、消し忘れた家庭用電化製品の電源を切ることができれば、より安全性を高めることができる。」
と記載されています。
→ スマートメータ側に必要なのは、①売買タイミングを自動調整する機能、②遠隔から機器状態を確認・制御する機能です。 -
通信機能に求められる要件整理
・問題文「通信手順は、標準化されても時代とともに変化するので、通信手順の更新が必要となる。」
・問題文「通信手順の移行期間中は、古い通信手順の家庭用電化製品とも通信しなくてはならない時期がある。」
→ スマートメータには、①将来の手順へ更新できる仕組み、②新旧手順を併存させる互換性が不可欠です。 -
よって解答は
(a)
① 経済的な電力売買のスケジューリング
② 外出先からの家庭用電化製品の監視制御
(b)
① 通信手順の更新を可能とすること
② 複数の通信手順に対応可能とすること
誤りやすいポイント
- 需要家の「安全性向上」を単に“見守り機能”とだけ書き、制御要素を落とすと減点対象です。
- 通信手順に関し「高速化」や「暗号化」など一般論を書き、問題文の要求(更新・互換)に触れない答案が散見されます。
- 遠隔操作を「スマホ連携」など端末側の記述に寄せると、本質であるスマートメータ側の機能説明になりません。
FAQ
Q: 時間帯別料金への対応は「売電スケジューラ」と書いても良いですか?
A: 機能が伝われば評価されますが、設問はスマートメータの機能を聞いているため「経済的な電力売買のスケジューリング」の方が意図が明確です。
A: 機能が伝われば評価されますが、設問はスマートメータの機能を聞いているため「経済的な電力売買のスケジューリング」の方が意図が明確です。
Q: 通信手順の標準化動向を書く必要はありますか?
A: 設問は“求められる要件”を問うだけなので、詳細な標準名は不要です。「更新可能」「複数手順に対応」で十分です。
A: 設問は“求められる要件”を問うだけなので、詳細な標準名は不要です。「更新可能」「複数手順に対応」で十分です。
Q: 遠隔制御機能にセキュリティ対策も含めるべきですか?
A: もちろん実製品では重要ですが、今回の設問で必須とされるのは需要家の要望を満たす“監視制御”自体です。
A: もちろん実製品では重要ですが、今回の設問で必須とされるのは需要家の要望を満たす“監視制御”自体です。
関連キーワード: スマートメータ, 遠隔制御, 時間帯別料金, 通信プロトコル, 互換性
設問1:スマートメータの機能について、(1)、(2)に答えよ。
(2)スマートメータに対する需要家側からの入力情報を二つ挙げ、それぞれ20字以内で述べよ。
模範解答
①:太陽光発電装置の発電出力情報
②:家庭用電化製品の電力使用情報
解説
解答の論理構成
-
入力情報を抽出
【問題文】の〔スマートメータの概要〕には、
「“スマートメータは、需要家側の発電状況や家庭用電化製品などの電力使用状況を電力会社へ送信”」とあります。
ここから、需要家側でスマートメータに伝えられる情報は
・需要家で発電している設備の“発電状況”
・需要家が利用している“電力使用状況”
の二系統であると読み取れます。 -
設問との対応
設問は「スマートメータに対する需要家側からの入力情報を二つ挙げよ」と求めています。
よって、前項の二系統を具体的に書けば良いことになります。 -
解答の具体化
発電状況 → 「太陽光発電装置の発電出力情報」
電力使用状況 → 「家庭用電化製品の電力使用情報」
とすれば、原文と意味が完全に対応します。
誤りやすいポイント
- “電力会社からの制御情報”を書いてしまう
需要家側からの入力ではなく受信側なので失点対象です。 - 「電力量」「需要電力量」など曖昧な表現
発電情報と使用情報の区別が不明確になる恐れがあります。 - 蓄電池の残量・電気自動車の充電量を挙げる
問題文には直接記述がなく、根拠不足と判断されます。
FAQ
Q: 発電装置が太陽光以外(風力など)の場合でも同じ答案で良いですか?
A: 設問文の主要シナリオが太陽光発電なので、それを明示した方が筋が通ります。
A: 設問文の主要シナリオが太陽光発電なので、それを明示した方が筋が通ります。
Q: “家庭用電化製品”を“家電”と略しても採点されますか?
A: 原則として問題文と同じ語句を用いる方が安全です。
A: 原則として問題文と同じ語句を用いる方が安全です。
Q: スマートメータの入力情報に“気象データ”は含まれますか?
A: 問題文にその記述はないため、今回の解答対象には含めません。
A: 問題文にその記述はないため、今回の解答対象には含めません。
関連キーワード: スマートグリッド, 発電出力, 電力使用状況, 需要家, 通信手順
設問2:
スマートグリッドが海外で進展することは、スマートメータのビジネスチャンスになるとF社は考えた。特に海外向けのスマートメータを開発するに当たり、注意すべき課題を二つ挙げ、それぞれ20字以内で述べよ。
模範解答
①:通信手順の標準規格化を踏まえた開発
②:多様なニーズに対する適応能力
解説
解答の論理構成
- 海外展開では仕様の共通化を無視できません。問題文には「スマートグリッドにおけるスマートメータに関する通信手順の標準規格化に注力している国がある。」とあり、国ごとに標準が策定されつつあることが示唆されています。したがって、通信仕様を国際標準に合わせて設計できるかが最大の課題となり、「通信手順の標準規格化を踏まえた開発」が解答①となります。
- 次に、国や地域で電力事情が大きく異なる点に注意が必要です。問題文では、
・「電力供給の信頼性が日本に比べて低く、停電が多発している国がある。」
・「太陽光発電、風力発電などを推進している国では…不安定な電力供給を安定させる技術が求められている。」
と述べられ、さらに「各国のメーカーは、スマートグリッドに関連する特許取得を始めている。」ともあります。つまり停電対策、再エネ連携、知財動向など多岐にわたる要求の違いに対応できる製品設計力が必要です。ここから「多様なニーズに対する適応能力」が解答②となります。
誤りやすいポイント
- 「標準規格化」を見落とし、自社独自仕様だけで十分と判断してしまう。
- 海外の電力事情を“停電が多い”に限定的に捉え、再エネ導入国・特許競争などの広範なニーズを漏らす。
- 国内事情(例:「通信手順の移行期間中…」)をそのまま海外課題として転記してしまう。
FAQ
Q: 標準規格化とは具体的に何を指しますか?
A: 国際的に合意された通信プロトコルやデータフォーマットで、国やメーカーが相互接続を保証できるようにする枠組みです。
A: 国際的に合意された通信プロトコルやデータフォーマットで、国やメーカーが相互接続を保証できるようにする枠組みです。
Q: 多様なニーズに応えるとは、製品設計上どのような対応が必要ですか?
A: 停電対策用バックアップ機能、再エネ連携制御、拡張可能なモジュール設計、地域特有の法規制や特許を考慮したファームウェア更新などが挙げられます。
A: 停電対策用バックアップ機能、再エネ連携制御、拡張可能なモジュール設計、地域特有の法規制や特許を考慮したファームウェア更新などが挙げられます。
Q: 特許競争への対処も“多様なニーズ”に含まれますか?
A: はい。国ごとに既存特許を回避しつつ機能を提供することは市場適応力の一部と考えられます。
A: はい。国ごとに既存特許を回避しつつ機能を提供することは市場適応力の一部と考えられます。
関連キーワード: スマートグリッド, スマートメータ, 通信プロトコル, 標準化, 需要家
設問3:
太陽光発電システムと組み合わせる蓄電池を、市場から汎用品として購入するのではなく、大手電池メーカと技術提携し、専用品として調達することにした技術上の利点を、40字以内で述べよ。
模範解答
電池メーカーの製品戦略を太陽光発電システムの設計に生かすことができる。
解説
解答の論理構成
-
要件整理
- 【問題文】では、蓄電池には「蓄電・放電の特性、蓄電容量、設置環境、性能保証期間、安全性など、太陽光発電システムに適した仕様が必要である。」と明示されています。
- また、F社は蓄電池技術を保有しておらず、「自社開発及び製造を行うには、基盤技術及び製造設備を整えるための膨大な時間、並びに設備投資が必要」と記載されています。
-
技術提携によるメリット
- 大手蓄電池メーカーは既に市場で「先行メーカーがしのぎを削る」ほどの開発・量産実績とノウハウを保有しているため、F社はその知見を取り込みつつ、太陽光発電システムに最適な専用仕様を盛り込めます。
- 結果として、太陽光発電側の設計思想と電池メーカーの「製品戦略」を擦り合わせ、両者の強みを融合した高性能・高信頼のシステムを実現できます。
-
まとめ(解答)
- 上記を踏まえると、技術上の利点は「電池メーカーの製品戦略を太陽光発電システムの設計に生かすことができる。」となります。
誤りやすいポイント
- コスト削減や調達リスク低減など経営面のメリットだけを挙げてしまい、技術上の利点を説明し忘れる。
- 「標準化」「汎用品の互換性」など、市場購入のメリットを逆に強調してしまう。
- 「時間短縮」「投資回避」を主軸に答え、蓄電池性能の最適化という核心を外す。
FAQ
Q: なぜ“汎用品を購入”ではなく“専用品”が求められるのですか?
A: 太陽光発電システムは発電量が天候で大きく変動するため、蓄電・放電特性や安全設計を最適化したバッテリが欠かせません。汎用品では要求仕様を満たせない可能性があります。
A: 太陽光発電システムは発電量が天候で大きく変動するため、蓄電・放電特性や安全設計を最適化したバッテリが欠かせません。汎用品では要求仕様を満たせない可能性があります。
Q: 技術提携とOEM調達の違いは?
A: 技術提携は設計段階から共同で仕様を決定し、双方の技術ロードマップを擦り合わせます。一方OEM調達は完成品を購入する形態が多く、設計への介入度が低くなります。
A: 技術提携は設計段階から共同で仕様を決定し、双方の技術ロードマップを擦り合わせます。一方OEM調達は完成品を購入する形態が多く、設計への介入度が低くなります。
Q: 蓄電池の標準化が進めば専用品は不要になりますか?
A: ある程度の標準化は進んでも、用途特化の最適化は残ります。特に家庭向け太陽光発電では設置環境や充放電パターンが独特で、専用品が優位となる場面が多いです。
A: ある程度の標準化は進んでも、用途特化の最適化は残ります。特に家庭向け太陽光発電では設置環境や充放電パターンが独特で、専用品が優位となる場面が多いです。
関連キーワード: 蓄電池性能, 技術提携, 専用設計, 太陽光発電


