D社は、化学品を製造・販売するメーカである。製造した化学品を、様々な形状・容量の瓶(以下、容器という)に充填し、製品として顧客へ出荷する。顧客が製品を使用し、空になった容器は、D社が回収して再利用している。
現在は、生産管理システムから受領する製造計画に基づいて化学品を充填し、販売管理システムで製品の販売管理を行っている。このたび、顧客サービスの向上、容器の管理強化及び作業の効率向上のために、容器管理システムを新規に開発することにした。
〔現行業務の概要〕
現行業務の概要は、次のとおりである。
(1)充填
・D社の化学品は見込生産で、日ごとに生産する総量を、生産管理システムで製造計画として決定している。化学品は、製造の最終工程のラインで、化学品ごとに一意に定められた容器種の容器に充填されて、製品となる。“容器種”とは、どのような形状と容量の容器かを表す。
・充填に必要な容器は、製造計画に従って、容器倉庫から出庫される。同じ容器種が、異なる化学品の充填に用いられることもある。
・製品コード、化学品名、ロット番号、充填日を印刷した製品ラベルを生産管理システムから出力し、製品の容器に貼る。
・製品ラベルが貼られた製品を、製品倉庫に入庫・保管する。入庫時に、販売管理システムに入庫登録を行う。
(2)ピッキング
・製品倉庫では、受注した製品の出荷準備のために、販売管理システムから、ピッキングリストを出力する。
・倉庫作業者は、ピッキングリストの指示に従って、製品ラベルを目視確認しながら出荷すべき製品を集める。
・倉庫作業者は、ピッキングされた製品を、出荷場所に移動する。移動時に、販売管理システムに出庫登録を行う。
(3)積込・出荷
・出荷場所では、出荷のために手配された配送のトラック便ごとに、販売管理システムから、積込リスト及び出荷伝票を出力する。
・出荷作業者は、積込リストの指示どおり製品がそろっているかどうかのチェックと、配送業者が積込リストの指示どおり積込みを行ったかどうかの検品を行う。検品に合格したトラック便から出発し、顧客に製品を納品する。
・出荷作業者は、出荷実績を計上するために、出荷場所の端末から、出荷した製品の情報を販売管理システムに入力する。
(4)容器回収
・配送業者は、顧客が空になった容器を保管していた場合、容器返却書を起票して容器を回収し、D社の容器回収場所へ持ち帰る。
・回収作業者は、容器回収場所で、回収された容器と容器返却書の照合を行う。
(5)容器洗浄・検査
・回収された容器は洗浄され、検査担当者が検査を行う。
・検査に合格した容器は、再利用が可能になり、次の化学品の充填に利用されるまで、容器倉庫に保管される。
〔関連部門からの要望〕
容器管理システムを開発するに当たり、関連部門から次のような要望が出された。
(1)容器一つ一つが、今どのような状態にあるのかを管理できるようにしてほしい。
(2)作業者が行っている入力などの作業の負担を軽減してほしい。
(3)顧客が誤って使用期限を過ぎた製品を使ってしまわないように、顧客の下に使用期限間際の製品があれば、その期限の1週間前を過ぎたら、システムで警告を出せるようにしてほしい。
〔容器管理システムの開発方針〕
(1)容器管理システムは、購入、容器倉庫での保管、充填、製品倉庫での保管、出荷、回収、検査などの容器利用サイクルの状態を、容器単位に管理する。
(2)容器一つ一つの管理を行う手段として、無線通信方式のICタグ(以下、RFタグという)を採用する。
(3)容器倉庫、製造の最終工程のライン及び容器回収場所に、ゲート型のRFタグリーダライタ(以下、ゲートアンテナという)を設置する。
(4)製品倉庫、出荷場所、容器回収場所及び容器洗浄場所に、ハンディ型のRFタグリーダライタ(以下、HTという)を導入する。HTは、バーコードの読取りもできる機種とする。
(5)容器管理システムとして、容器購入処理、容器保管処理、充填処理、容器回収処理、容器洗浄・検査処理、及び容器状態検索処理の各機能を新規に開発する。
(6)ピッキング処理、積込・出荷処理、製品在庫管理処理、及び使用期限警告処理は、現行の販売管理システムの改修で対応する。
〔D社で採用したRFタグ及び関連する機器などの説明〕
(1)RFタグの通信距離は数メートルである。
(2)RFタグのデータレイアウトを、図1に示す。RFタグ番号は、RFタグの製造時に書き込まれるタグ固有の番号であり、書換えはできない。容器情報領域は、RFタグを容器に貼付する際に書き込み、書込み口ックを掛ける。書込みロックが掛けられた領域は、ロックを外さない限り値を変更できない。製品情報領域は、書込みが可能で、RFタグ購入時はクリアされている。
(3)ゲートアンテナは、ゲートを通過するRFタグを一括で読み書きできる。RFタグの一括読み書きでは、環境によって数%程度の漏れが発生することを事前検証で確認している。書込みについては、エラーを訂正する機能を備えているので、書込み時の異常は考慮しなくてよい。
(4)HTはRFタグを個別に読み書きでき、バーコードの読取りも可能である。
(5)D社は、容器の誤使用を防ぐために、RFタグへの書込み処理では、対象項目がクリアされていない場合は書き込みできないよう、プログラムでガードする。
〔容器管理システムの処理概要〕
容器管理システムの処理概要は、次のとおりである。
なお、容器一つ一つが、今どのような状態にあるかの管理を行うために、容器状態管理ファイルを設ける。
(1)容器購入処理
・容器の購入時に、RFタグに容器種コード、容器番号を書き込み、容器に貼付して、容器倉庫へ運ぶ。RFタグに書き込む際、容器種コード、容器番号をキーにして容器状態管理ファイルに登録し、容器状態区分を“未使用”にする。
(2)容器保管処理
・化学品の充填が可能になった容器を容器倉庫に入庫する。その際に、ゲートアンテナでRFタグを読み込んで、容器状態管理ファイルによるチェックを行い、充填可能な状態であることを確認する。その後、入庫処理を行い、それぞれの容器について、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“容器倉庫入庫”にする。
・容器の出庫は、製造計画で決定した化学品の当日分の生産総量と製品マスタに登録されている情報を用いて、①どの容器が何個必要かを計算し、出庫指示を出す。出庫時に、ゲートアンテナでRFタグを読み込んで、それぞれの容器について、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“容器倉庫出庫”にする。
(3)充填処理
・製造の最終工程で、製品がゲートアンテナを通過する際に、一つ一つのRFタグの製品情報領域へ製品コード、ロット番号、充填日の書込みを行う。この際、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“充填済”にする。
・製品は製品倉庫に運ぶ。
(4)容器回収処理
・容器回収場所のゲートアンテナで、回収した容器のRFタグを一括して読み込む。
・容器返却書に記載された容器返却数をシステムに入力して、RFタグの読込み件数とのチェックをシステムで行い、数が一致したら、それぞれの容器について、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“回収”にする。
・数が不一致の場合は、まず、容器返却数のシステムへの入力が正しいことを確認して、その後、HTによる個別の読込みに切り替える。個別読込み時に、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“回収”にする。個別読込み件数と容器返却書に記載された容器返却数が不一致の場合は、エラー処理を行う。
(5)容器洗浄・検査処理
・回収した容器は、容器洗浄場所で洗浄され、検査担当者が再利用の可否についての検査を行った後、RFタグの製品情報領域をクリアする。検査に合格した容器は容器倉庫へ運び、不合格となった容器は廃棄する。検査結果によって、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“合格”又は“廃棄”にする。
・廃棄した容器に貼付してあったRFタグは、容器からはがして、再利用できるように、HTを用いて、②ある処理を行う。
(6)容器状態検索処理
・容器状態管理ファイルの情報を任意の条件で検索する。
容器管理システムで使用する主要なファイルを表1に示す。
〔販売管理システムの改修〕
容器管理システムの新規開発に伴い、販売管理システムを、次のとおり改修する。
(1)ピッキング処理
・ピッキングリストへバーコードを印字し、HTでピッキング指示データを受ける。
・ピッキング指示データに基づき、HTで、ピッキング対象となる容器のRFタグを読み込む。ピッキング指示データとRFタグ情報をチェックし、製品コードが合っていればRFタグへ受注伝票番号を書き込み、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“ピッキング済”にする。合っていなければエラー処理を行う。
(2)積込・出荷処理
・積込リストへバーコードを印字し、HTで積込指示データを受ける。
・HTで、積込対象となる製品のRFタグを読み込み、積込指示データとRFタグ情報をチェックする。
③データ内容及び数が合っていれば、検品を完了して出荷する。この際、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“出荷”にする。合っていなければエラー処理を行う。
・HTの検品を完了した実績データを取り込んで、
(a)。
(3)製品在庫管理処理
・製品倉庫への入庫時に、HTでRFタグを読み、読み込んだデータで入庫実績を計上できるようにする。この際、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“製品倉庫入庫”にする。
・製品倉庫からの出庫時に、HTでRFタグを読み、読み込んだデータで出庫実績を計上できるようにする。この際、容器状態管理ファイルの容器状態区分を“製品倉庫出庫”にする。
(4)使用期限警告処理
・顧客の下にある、使用期限が過ぎそうな製品及び使用期限が過ぎた製品を、容器管理システムの容器状態検索処理を利用して次の条件で検索し、顧客に警告を発することができるようにする。
条件:容器状態管理ファイルの容器状態区分の値が “
(b)”で、
(c) が本日日付の1週間後より前の日付である容器