K社は全国に2、000の営業所を持つ運送会社である。このたび、宅配便サービスの差別化及び再配達率の改善を図るために、既存システムである配達情報管理システム(以下、配達システムという)の改善を行うことにした。
〔現在の業務の概要〕
K社での集荷から配達までの業務の流れを図1に示す。K社では、届け先の個人又は企業(以下、届け先顧客という)の住所での受取、配達先の営業所での受取(以下、営業所受取という)に対応している。依頼主は送付伝票を記載する際に配達予定日配達予定時間帯及び受取場所を指定できる。
配達システムでは届け先顧客に配達予定連絡サービスを提供している。配達予定連絡サービスでは、送付伝票に配達予定日、配達予定時間帯が明記されており、かつ届け先顧客の電子メールアドレスが配達システムに登録されていた場合に、その日付と時間帯を該当の届け先顧客に通知する。
荷受け、配達先の営業所到着、配達開始、配達完了の各タイミングで送付伝票の伝票番号のバーコードを携帯情報端末(以下、配達端末という)で読み取ると、配達システムに、個々の荷物がどのような状況にあるのかを示すステータス(以下、配達状況という)が登録される。
(1) 集荷輸送業務
・配達員が個人又は企業の依頼主を訪問し、集荷する。
・集荷時には、送付伝票を貼り付け、送付伝票のバーコードを配達端末で読み取り、配達状況を“荷受け”にする。
・配達システムに送付伝票の依頼主名、届け先顧客名、郵便番号、住所、電話番号、配達予定日及び配達予定時間帯を登録すると、配達システムが配達予定日及び配達予定時間帯を配達予定連絡サービスの対象の届け先顧客に通知する。
・荷受け後、配達元の営業所から配達先の営業所に、配達業務の時間帯に合わせて輸送する。
(2) 仕分業務
・配達先の営業所には、1日複数回荷物が輸送されてくる。仕分担当者は荷物の到着後に送付伝票のバーコードを配達端末で読み取り、配達状況を“営業所到着”にする。到着した荷物は当日に再配達する荷物と併せて仕分けする。荷物の仕分け後、配達員に次の便で配達するよう依頼する。
・配達先の営業所受取を指定された場合は営業所倉庫に保管する。
(3) 配達業務
・各配達員の担当区域は、営業所ごとに管理されており、配達システムには登録されていない。配達員は自分の担当区域を把握しており、担当区域外に配達することはない。
・配達員は配達時に配達端末を携帯する。
・配達業務は午前1便、午後2便の計3便行う。各便の出発時刻は決まっており担当区域にかかわらず、全配達員共通である。
・各便の全ての荷物に対して引渡し又は不在の場合の対応を実施したら当該便の配達業務を完了とし、営業所に帰還する。
・各便の配達順序は営業所を出発する前に配達員があらかじめ決定する。
・配達員は仕分けされた荷物を自動車、リアカー付き自転車又は台車(以下、これらを配達車両という)を利用して配達する。配達車両に荷物を積み込む際に配達端末で配達状況を“配達開始”にする。配達にどの配達車両を使用するかは配達員が判断し、配達端末に入力する。
・配達端末は配達システムと連携している。配達員が、次の配達先の送付伝票のバ-コードを読み取ると、配達システムが蓄えている過去の配達実績情報及び現在の交通情報に基づいて、使用する配達車両に応じた推奨移動経路と配達到着予想時刻を配達端末に提示する。
・配達員は荷物の引渡しまでを担当する。届け先顧客に荷物の引渡しを終えたタイミングで、配達端末で配達状況を“配達完了”にする。届け先顧客に引き渡す際には社名と氏名を名乗っている。
・配達時に届け先顧客が不在の場合、配達員は不在連絡票を投かんする。
・1便目、2便目の配達業務完了後は配達車両から荷物を降ろさない。3便目の配達業務完了後に配達車両から荷物を降ろし、営業所倉庫に保管する。
・配達時の移動経路、移動時間及び駐停車時の時間を配達端末が自動的に記録し、配達実績情報として配達システムに保存する。
(4) 再配達受付業務
・営業所の再配達受付担当者は、不在連絡票を受け取った届け先顧客から再配達の依頼を電話で受け付ける。受取場所の変更は受け付けない。再配達を受け付ける際は、届け先顧客から再配達希望日、再配達希望時間帯を確認する。ただし、再配達希望日が当日で、かつ再配達希望時間帯の受付締切時刻経過後は、再配達希望は受け付けない。
・再配達希望日が配達日当日の場合は、配達員に再配達希望時間帯を指示し、当日中に再配達してもらう
〔宅配便サービスの改善要望〕
宅配便サービスの改善に当たって依頼主と届け先顧客に要望をヒアリングした結果は、次のとおりである。
(1) 依頼主
・依頼主が誰なのかを届け先顧客に通知してほしい。
・配達が完了したことを依頼主に通知してほしい。
(2) 届け先顧客
・午前中(9時〜12時)などは配達予定時間帯の幅が広く、配達予定連絡が来ても待ち時間にストレスを感じる。待ち時間を減らしてほしい。
・帰宅して不在連絡票を確認しなくても再配達依頼できるようにしてほしい。
・荷物が届く前でも再配達依頼時と同様に配達日、配達時間帯などを変更できるようにしてほしい。また受取場所の変更もできるようにしてほしい。
・配達員として誰が来るのかが分かるようにしてほしい。
〔改善後の配達システムの新機能〕
宅配便サービスの改善要望を踏まえ、K社情報システム部のL課長は次の(1)〜(5)の新機能を配達システムに追加することにした。
(1) 配達予定時刻計算機能配達員から配達端末を用いて連携された情報を基に、推奨移動経路で移動した場合の各受取場所への配達予定時刻を計算する。
(2) 配達予定情報通知機能配達先の営業所を出発したタイミングで、配達予定時刻と①ある情報を配達予定情報として届け先顧客に通知する。
(3) 不在連絡票通知機能配達員が不在連絡票を投かんし、配達状況を“不在連絡済”にしたタイミングで、不在連絡票の内容を届け先顧客に通知する。
(4) 配達完了通知機能配達員が荷物を引渡し配達状況を“配達完了”にしたタイミングで、配達完了のお知らせを依頼主と届け先顧客に通知する。
(5) 配達条件変更機能配達希望日、配達希望時間帯及び受取場所(以下、配達条件という)の変更を配達先の営業所の担当者が電話で受け付ける。ただし、配達状況が“配達完了”又は“不在連絡済”の荷物については受け付けない。配達条件の変更を受け付ける際は、配達条件を確認し、配達システムに入力する。配達システムは、入力された配達条件に基づいて配達状況を変更する。
受取場所を配達先の営業所以外へ変更する場合は、配達日を翌日以降に指定してもらう。また、(a)の場合、かつ(b)の場合においては、配達条件の変更を受け付けない。
入力された配達条件は、配達条件変更通知として配達端末に表示される。変更後の受取場所として配達先の営業所が指定された場合は、配達状況を“営業所倉庫保管”として、営業所帰還時に荷物を降ろすことを配達員に指示する。変更後の配達希望時間帯が当該便の配達時間帯でない場合は、配達状況を“営業所戻り”とし、当該便では荷物の配達を行わないことを配達員に指示する。
〔配達システム改善後の配達業務の概要〕
配達システム改善後の配達業務の主な変更点は次のとおりである。
・配達員は営業所出発前に、配達時に使用する配達車両に加えて配達員の氏名を配達端末で配達システムに入力し、あらかじめ決めておいた配達順序の順番に送付伝票のバーコードを読み取り、配達状況を“配達開始”にする。
・次の配達先に荷物を届ける前に送付伝票のバーコードを読み取る。その際に配達条件変更機能によって配達条件が変更されていた場合は配達端末にその内容が表示されるので、その内容に従い、必要に応じて届け先顧客と調整する。配達条件変更通知がなかった場合は送付伝票に記載された受取場所に届ける。
・配達端末で配達状況を入力するケースとして次の二つを追加する。受取場所に配達員の担当区域外を指定されていた場合は、配達員が、配達状況を“担当区域外”にする。不在連絡票を投かんした場合は、配達員が、配達状況を“不在連絡済”にする。
・配達員が配達状況を“担当区域外”にした場合又は配達システムが配達状況を“(c)”に変更していた場合には、営業所に帰還した際に、これまでの配達業務では行わなかった作業を実施する。