D社は、スーパーマーケットなどの小売店向けの弁当、総菜の製造及び販売を行うメーカである。このたび、品質管理の効率化を図るため、品質管理システム(以下、新システムという)を構築することになった。
〔製造から出荷までの流れ〕
D社の製品は、仕込、加熱、冷却、包装という工程を経て完成する。各工程に対して、原材料や前工程で製造された仕掛品の投入を行う。仕込から冷却までの工程では仕掛品を製造し、最後の包装工程では製品を製造する。それぞれの原材料、仕掛品、製品を品目と呼ぶ。原材料や仕掛品は工程に投入され、異なる品目の仕掛品や製品が製造される。出荷は1日に3回行い、その単位を便と呼ぶ。その便で出荷する全ての製品を製造し、品質管理規定に従った最終確認を行った後に、出荷を開始する。
〔現行の製造及び品質管理の概要〕
D社では、品質検査担当者(以下、検査担当者という)が各工程で製造された仕掛品及び製品の品質検査を行っている。あらかじめ定められた検査基準に基づき、仕掛品及び製品の製造後の状態や異常の有無を、検査用の機器や目視確認などによって検査する。
現在の品質検査実施準備から出荷前承認までの各業務は、次のとおりである。
(ア) 品質検査実施準備
品質検査責任者(以下、検査責任者という)は各品目の品質検査における検査基準を定める。D社では複数の検査担当者が従事しており、曜日、便、及び品目ごとに検査担当者を1人ずつ割り当てている。しかし、特定の製造日と便における検査担当者の都合などによって、担当する一部又は全部の品目の品質検査を実施できない場合がある。その場合、検査責任者はその製造日、便の製造指示が出る直前に、品目ごとに他の検査担当者への変更を行う。
検査担当者は、検査結果記入用の帳票(以下、品質記録票という)を品質検査の各実施場所に持参する。品質記録票は品目ごとに作成し、1枚に複数回の検査結果を記入する。
(イ) 製造指示作成
製造管理システムが、各品目の製造すべき数を算出し、製造日、便ごとの製造開始までに、自動で製造指示を作成する。通常、必要な数を複数回に分けて製造する。1回で製造する品目のまとまりをロットと呼び、ロットNo.と呼ぶ連番を付番する。
製造指示は、製造日便、品目、ロットNo.の組合せで一意となる。
(ウ) 製造実績入力
製造担当者はロットごとに製造を行い、直ちにその実績を製造管理システムに入力する。さらに製造管理システムから製造日、便、品目コード、品目名称、ロットNo.、製造完了日時を記載したラベルを出力し、ロットを運搬する容器に貼付した上で、検査担当者に渡す。
(エ) 品質檢查
検査担当者は、受け取った全てのロットに対して製造完了日時が古い順にロットの品質検査を実施し、ロットごとの検査結果を1回分の実績として品質記録票に記入する。品質検査のうち、製品の品質検査を製品検査という。検査の結果によって、次のいずれかの対応を行う。
(a) 合格:
品質検査結果に問題がない場合、検査担当者は品質記録票に合格となった旨を記入し、合格したロットを、仕掛品の場合は次工程の製造担当者に、製品の場合は出荷担当者に渡す。
(b) 不合格:
品質検査結果に問題がある場合、品質記録票に不合格になった旨を記入し、製造担当者に通知する。不合格になったロットは以降の製造には使用しない。製造担当者は直ちに、製造管理システムで、不合格になったロットと同じ製造指示数で新たなロットNo.の製造指示を作成し、追加製造を行う。
なお、加熱工程以降の製造指示を作成した場合、前工程の製造指示も自動で作成される。
(オ) 製品検査完了確認
製品検査を担当する検査担当者は、検査責任者に製品検査が完了した旨を報告するために、その便で担当する全ての製品の製品検査が終わった時に、製品ごとに、品質記録票の合格数の合計と、製造管理システムが製造開始までに自動で作成した製造指示数の合計が一致することを確認する。
(カ) 製品檢查完了報告
製品検査を担当する検査担当者は、製品検査の実施場所から電話などを用い、製品検査完了確認を実施した旨を事務所の検査責任者に報告する。
(キ) 出荷前承認
検査責任者は、その製造日、便において、製造すべき製品の製品検査を担当する全ての検査担当者から、製品検査完了報告を事務所で受け、製品検査が完了したことを確認する。加えて、品質管理規定に従い、製造設備の異常有無、従業員の衛生チェック結果など、各部署からの報告に基づいた最終確認を行った上で、出荷前承認記録票に承認日時と承認者を記録する。
〔新システムへの要望〕
新システムを構築するに当たり、検査責任者から次のような要望が出された。
・検査担当者が品質検査指示に基づいて品質検査を実施し、品質検査結果を入力する仕組みとしたい。
・検査担当者の変更時に、変更する製造日、便における各検査担当者の作業負荷を確認したい。そのために、作業負荷の目安となる品質検査の実施見込回数(以下、見込回数という)を参照したい。このとき、変更元となる検査担当者については品目ごと、変更先の検査担当者については検査担当者ごとの見込回数を参照したい。品目ごとの品質検査の回数には曜日、便ごとの傾向がある。また、不合格による追加製造も毎日ある程度発生する。そのため、見込回数は、変更する製造日の前週の同じ曜日、かつ同じ便の、不合格による追加製造分も含めた品質検査の実績回数とする。
・品質検査の実績の中で他の検査担当者への変更が行われていた場合でも、変更前の検査担当者の割当てに従って集計してほしい。
なお、検査担当者の変更は製造日当日にも発生することがあるので、検査担当者変更の登録は製造指示が出る直前に行う。一度変更した検査担当者の内容は、再度変更しない。
・品質記録票や出荷前承認記録票を廃止し、加えて、製品検査の完了状況を事務所でもすぐに参照できるようにすることで、品質検査実施準備から出荷前承認までの業務を効率化したい。
〔新システムの設計〕
新システムへの要望を踏まえ、新システムの設計を行った。
品質検査の実施場所と事務所の両方にPCを設置し、新システムに接続する。新システムの主要なファイルと属性を表1に、機能概要を表2に示す。