システム監査技術者 2009年 午後1 問03
顧客管理システムの監査に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。
M社は、健康食品の通信販売業者である。M社では、顧客管理システムが通信販売事業を支える重要な基盤となっている。内部監査部の監査人は、顧客管理システムに係る統制に不備がないかどうかについて、監査を実施することにした。
〔通信販売業務の概要〕
(1) 受注
顧客は、電話、郵便、ファックス、電子メール又はWeb注文システムを使ってM社に注文する。M社では、顧客からの注文をWeb注文システムで受けた場合、受注データを電子メールで通信販売部に送信する。通信販売部のオペレータは、顧客管理システムを使用して、受注や問合せ対応などの処理を行う。オペレータは、通信販売部員に限定されている。
(2) 配送
商品の配送は、宅配業者に委託している。ルームシェアや2世帯住宅などで姓の異なる人たちが同居している場合や、表札がない場合もあるので、宅配業者は、受取人を厳密に確認できないことがある。
(3) 代金回収
代金の支払は、後払い方式を採用している。その理由は、顧客の購買意欲を妨げないこと、代金引換払い(代引き)では手数料を負担しなければならないことなどである。したがって、商品を受け取った顧客は、商品に同梱された振込用紙を使って、郵便局、銀行又はコンビニエンスストアで代金を支払う。
〔顧客管理システムの概要〕
(1) システム構成
顧客管理システムは、アプリケーションサーバ(以下、APサーバという)及びデータベースサーバ(以下、DBサーバという)で構成されている。M社では、Web注文システムと顧客管理システムをデータ接続すると、情報漏えいなどのリスクが大きいと判断し、データ接続をしていない。Web注文システムから通信販売部に送信された電子メールの内容は、オペレータが顧客管理システムに手入力している。
なお、大量のデータを扱う処理は、情報システム部員がDBサーバにアクセスして行っている。
(2) 主要機能
顧客管理システムには、顧客情報管理、注文管理、入金管理、配送管理などの機能がある。また、顧客情報(顧客ID、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、与信枠など)、注文履歴、入金履歴、問合せ履歴などが蓄積されている。
(3) 顧客の名寄せ機能
オペレータが注文を受けて、氏名、住所及び電話番号を手入力すると、顧客管理システムの名寄せ機能によって、電話番号から“-(ハイフン)”を除去し、住所の“丁目”と“番地”の間に“-”を挿入するなどの変換を行ってから、すべての入力事項と一致する顧客レコードが検索される。該当する顧客が登録されている場合には、顧客情報や注文履歴などが表示され、登録されていない場合には、入力された顧客情報と自動採番された顧客IDを含む顧客レコードが作成されて、その内容が表示される。
(4) 受注・問合せ対応処理
受注や問合せ対応などの処理は、顧客管理システムに表示された情報を基に、オペレータが行う。オペレータには、使用できる機能ごとに“参照だけ可能”又は“参照及び更新が可能”のいずれかの権限が与えられている。
(5) ログ機能
オペレータが顧客管理システムを使用すると、オペレータのユーザID、時刻、表示画面ID、顧客ID、発行したSQL文、正常又はエラーの処理結果などを含む、APサーバのアクセスログが採取される。DBサーバにもログ機能が実装されているが、オペレータの操作との対応付けが難しいので、DBサーバのアクセスログは採取していない。
〔与信管理機能と特別注文の取扱い〕
(1) 与信管理機能
健康への関心の高まりと商品の評判の良さを背景に、ここ数年M社の商品の人気は高く、大量に注文する顧客も少なくない。ところが、昨年、大量に注文した顧客から代金を回収できなかったことがあった。そのことを契機に、与信管理を強化することになった。その一環として、顧客ごとの注文限度額(=与信枠-未収金額)を管理する与信管理機能を、顧客管理システムに追加した。
(2) 特別注文の取扱い
注文限度額を超えた注文(以下、特別注文という)については、警告メッセージを表示し、オペレータが画面上の“許可”ボタンをクリックすると注文を受け付ける仕組みになっている。特別注文の場合には、次のような手順で処理される。
① オペレータは、“特別注文申請書”を通信販売部の通信販売課長に提出する。
② 通信販売課長は、“特別注文申請書”に“許可”又は“却下”の記載と押印を行い、“特別注文申請書”を所定の場所に保管する。
③ オペレータは、通信販売課長の判断に従って、“許可”又は“却下”ボタンをクリックして、処理を続行する。
④ “許可”又は“却下”の結果は、顧客管理システムの注文履歴に記録される。
〔C社への業務委託〕
M社では、健康食品の受注増大に対応するために、営業時間外の受注や問合せ対応業務をC社に委託し、夜間及び休日の体制を充実させることにした。これに伴って、C社の受注・問合せ対応要員もオペレータとして、C社内からM社の顧客管理システムを使って、顧客情報、注文履歴、入金履歴、問合せ履歴などを参照・更新できるようにした。ただし、C社のオペレータは、特別注文を取り扱わない。また、C社のオペレータは、M社のオペレータとの業務引継ぎや連絡のために、委託された時間帯以外でも顧客管理システムを使用できる。
〔アクセスログに関する統制〕
M社では、C社への業務委託を契機に、顧客管理システムに関する統制を見直し、アクセスログに関しては次のような統制を行うことにした。
① 〔顧客管理システムの概要〕(5)のとおり、APサーバのアクセスログを採取する。
② 通信販売課長は、C社に業務を委託した時間帯のアクセスログに、異常な行動が記録されていないか、翌日チェックする。
設問1:
問題文を見る〔顧客管理システムの概要〕(3)の顧客の名寄せ機能では、注文限度額を超えた購入を防ぐことができないと監査人は考えた。その理由を、45字以内で述べよ。
模範解答
住所、電話番号、氏名のすべてが一致しないと名寄せされず、注文限度額を超えられるから
解説
解答の導き方
-
まず、注文限度額は「顧客ごと」に管理されています。したがって、同じ顧客からの注文として扱われるかどうかが重要です。
-
名寄せ機能は、入力された氏名、住所及び電話番号を一定の形式に変換した後、「すべての入力事項と一致する顧客レコード」を検索します。電話番号のハイフンを除去したり、住所の丁目と番地の間にハイフンを挿入したりする処理は、表記の違いを整えるためのものです。
-
そのため、表記を整えた後でも、氏名、住所、電話番号のいずれかが登録済みの顧客情報と一致しなければ、登録済み顧客とは判定されません。本文では、該当する顧客が登録されていない場合、「入力された顧客情報と自動採番された顧客IDを含む顧客レコード」が作成されると説明されています。
-
新しい顧客レコードが作成されると、既存の顧客レコードにある未収金額や注文状況と結び付かないまま、別の顧客として注文限度額が管理されます。つまり、登録済み情報と氏名、住所、電話番号のすべてを一致させないことで、同一顧客としての注文限度額の確認を避けられるため、限度額を超えた購入を防げません。
誤りやすいポイント
- ハイフンの除去や挿入を、氏名・住所・電話番号の表記揺れをすべて吸収する処理だと考えないようにします。これらは、本文に示された範囲の形式変換です。
- 名寄せ機能が注文限度額を直接制御すると誤解しないようにします。名寄せは顧客レコードを特定する機能であり、限度額を管理するには、注文を既存の顧客レコードに正しく結び付ける必要があります。
- 氏名、住所、電話番号のうち一つでも一致しなければ、既存顧客として検索されない可能性がある点を押さえます。「すべての入力事項と一致する」ことが判定条件です。
FAQ
Q: 電話番号からハイフンを除去する処理だけでは、なぜ不十分なのですか?
A: その処理で吸収できるのはハイフンの有無による表記の違いです。氏名や住所など、入力事項が登録済みの情報と一致しない場合は、別の顧客レコードが作成される可能性があります。
A: その処理で吸収できるのはハイフンの有無による表記の違いです。氏名や住所など、入力事項が登録済みの情報と一致しない場合は、別の顧客レコードが作成される可能性があります。
Q: この設問では、何が原因で注文限度額を超えられるのですか?
A: 登録済み顧客と一致しない情報で注文すると、新しい顧客レコードが作成され、既存の顧客レコードとは別に注文限度額が管理されるためです。
A: 登録済み顧客と一致しない情報で注文すると、新しい顧客レコードが作成され、既存の顧客レコードとは別に注文限度額が管理されるためです。
Q: 住所や電話番号の表記を正規化すれば、名寄せの問題は解消しますか?
A: 表記の違いを減らす効果はありますが、入力された情報が異なる場合にも同一顧客だと特定できるとは限りません。設問のポイントは、名寄せの一致条件が厳密であることです。
A: 表記の違いを減らす効果はありますが、入力された情報が異なる場合にも同一顧客だと特定できるとは限りません。設問のポイントは、名寄せの一致条件が厳密であることです。
関連キーワード: 名寄せ、データ正規化、顧客識別、与信管理
設問2:
問題文を見る〔与信管理機能と特別注文の取扱い〕(2)の特別注文の処理手順に関して、通信販売課長の許可を得ない特別注文が行われていないかどうかを確認するために、監査対象とすべき記録(書類又はデータ)を、20字以内で述べよ。また、その対象について確認すべき内容を、45字以内で述べよ。
模範解答
記録:注文履歴の中の、許可された特別注文
確認すべき内容:対応する特別注文申請書が存在し、“許可”の記載と通信販売課長の押印がある。
解説
解答の導き方
この設問では、注文限度額を超える特別注文について、通信販売課長が許可していないのに注文が処理されていないかを確認するため、何を調べ、何を確かめるかを考えます。
まず、特別注文の手順では、オペレータが「特別注文申請書」を提出し、通信販売課長が「許可」又は「却下」を記載して押印します。その判断に従ってオペレータが画面上で処理を続け、最終的な結果は顧客管理システムの注文履歴に記録されます。
ここから、確認に使う記録は二種類あると分かります。注文履歴は、システム上で特別注文がどのように処理されたかを示す記録です。一方、特別注文申請書は、通信販売課長がその注文を許可したかどうかを示す記録です。
監査では、まず注文履歴の中から「許可」と記録された特別注文を対象にします。システム上の記録だけでは、オペレータが許可ボタンをクリックしたことは分かっても、通信販売課長が実際に許可したことまでは確認できないためです。
次に、対象となる注文に対応する特別注文申請書を確認します。申請書が存在することに加え、通信販売課長による「許可」の記載と押印があることを確かめます。これにより、注文履歴上は許可されていても、課長の承認を得ていない注文が処理されていないかを確認できます。
誤りやすいポイント
- 注文履歴に「許可」と記録されていることだけで、通信販売課長の承認があったと判断しないようにします。注文履歴は処理結果の記録であり、承認そのものの証拠ではありません。
- 特別注文申請書を確認するだけでは、申請した注文が実際にシステム上で処理されたか分かりません。注文履歴と対応する申請書を結び付けて確認します。
- 申請書が存在するだけでなく、「許可」の記載と通信販売課長の押印があることも確認します。「却下」の申請書や、承認を確認できない申請書では、許可の根拠になりません。
FAQ
Q: なぜ注文履歴の中から「許可」された特別注文を確認するのですか?
A: 実際に許可扱いで処理された注文を特定し、その一つ一つについて通信販売課長の承認があったかを確かめるためです。
A: 実際に許可扱いで処理された注文を特定し、その一つ一つについて通信販売課長の承認があったかを確かめるためです。
Q: 申請書に押印があれば、注文履歴との照合は不要ですか?
A: 不要ではありません。申請書は承認の証拠ですが、その申請に対応する注文がシステム上でどのように処理されたかは注文履歴で確認します。
A: 不要ではありません。申請書は承認の証拠ですが、その申請に対応する注文がシステム上でどのように処理されたかは注文履歴で確認します。
Q: 申請書の「許可」の記載だけでなく、押印も確認するのはなぜですか?
A: 通信販売課長による判断であることを、申請書上で確認するためです。
A: 通信販売課長による判断であることを、申請書上で確認するためです。
関連キーワード: 内部統制、監査証拠、承認統制、監査手続、職務分掌
設問3:〔アクセスログに関する統制〕に示された統制だけでは、次の者による不正アクセスを発見するために不十分だと監査人は考えた。その理由を、それぞれ45字以内で述べよ。
設問3(1)
問題文を見るC社オペレータ
模範解答
C社に業務を委託した時間帯以外に顧客管理システムにアクセスしても発見できないから
解説
解答の導き方
まず、アクセスログに関する統制では、APサーバのアクセスログを採取したうえで、通信販売課長が「C社に業務を委託した時間帯」のログを翌日に確認します。つまり、ログは採取されていますが、確認の対象は委託時間帯に限られています。
一方、C社のオペレータについては、「委託された時間帯以外でも顧客管理システムを使用できる」とあります。したがって、委託時間帯以外のアクセスも起こり得ます。
この二つを合わせると、委託時間帯以外に不審なアクセスがあっても、課長が確認するログの範囲から外れているため、統制だけでは発見できません。ログが採取されることと、そのログが確認されることは別だと考えるのがポイントです。
誤りやすいポイント
- APサーバのアクセスログが採取されているため、すべての不正アクセスを発見できると考えてしまうことです。採取していても、確認対象外の時間帯は見逃す可能性があります。
- C社のオペレータは委託時間帯以外にシステムを使えない、と読み違えることです。本文では、引継ぎや連絡のために委託時間帯以外も使用できるとされています。
- 委託時間帯のログ確認に問題があると考えてしまうことです。問題となるのは、確認対象が委託時間帯に限られ、時間帯外のアクセスを確認していない点です。
FAQ
Q: APサーバのアクセスログが採取されているのに、なぜ発見できないのですか?
A: ログの採取範囲ではなく、課長が実際に確認する範囲が委託時間帯に限定されているためです。
A: ログの採取範囲ではなく、課長が実際に確認する範囲が委託時間帯に限定されているためです。
Q: 委託時間帯以外のアクセスは、すべて不正アクセスなのですか?
A: いいえ。本文では引継ぎや連絡のための利用が認められています。ただし、その時間帯のログを確認する統制が示されていないため、不審なアクセスがあっても発見しにくくなります。
A: いいえ。本文では引継ぎや連絡のための利用が認められています。ただし、その時間帯のログを確認する統制が示されていないため、不審なアクセスがあっても発見しにくくなります。
Q: この不足を補うには、どのような確認が必要ですか?
A: 委託時間帯以外のログも確認対象に含め、利用者やアクセス内容に不審な点がないか調べる必要があります。
A: 委託時間帯以外のログも確認対象に含め、利用者やアクセス内容に不審な点がないか調べる必要があります。
関連キーワード: アクセスログ、ログ監視、監査証跡、アクセス管理、委託先管理
設問3(2)
問題文を見るオペレータ以外の者
模範解答
M社の情報システム部員がDBサーバのデータにアクセスしても発見できないから
解説
解答の導き方
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設問は、オペレータ以外の者による不正アクセスを、示されたログの統制だけでは発見できない理由を問うています。まず、オペレータ以外でシステムのデータにアクセスする者を確認します。
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本文には、大量のデータを扱う処理は「情報システム部員がDBサーバにアクセスして行っている」とあります。したがって、情報システム部員がDBサーバに直接アクセスする場合も考える必要があります。
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一方、ログについてはAPサーバのアクセスログを採取するものの、DBサーバのアクセスログは「採取していない」とあります。情報システム部員がDBサーバに直接アクセスしても、その記録を確認できるログが採取されていません。
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さらに、通信販売課長が翌日に確認するのは、C社に業務を委託した時間帯のアクセスログです。確認対象はAPサーバのログなので、DBサーバへの直接アクセスはこの確認から把握できません。したがって、情報システム部員がDBサーバのデータにアクセスしても発見できないことが理由になります。
誤りやすいポイント
- APサーバのログを採取していることだけを見て、システムへのアクセス全体を記録できていると思い込まないようにします。
- 情報システム部員によるDBサーバへの直接アクセスと、オペレータによる顧客管理システム経由の操作は、ログの記録先が異なります。
- 「翌日チェックする」という確認の頻度だけを問題にするのではなく、そもそも発見対象のアクセスが確認するログに記録されるかを考えます。
FAQ
Q: APサーバのアクセスログに、情報システム部員のDBサーバへの直接アクセスも記録されますか?
A: 直接アクセスはAPサーバを経由しないため、APサーバのアクセスログでは把握できません。
A: 直接アクセスはAPサーバを経由しないため、APサーバのアクセスログでは把握できません。
Q: DBサーバにもログ機能があるなら、そこで確認できるのではありませんか?
A: ログ機能が実装されていても、本文ではDBサーバのアクセスログを採取していないため、確認に利用できません。
A: ログ機能が実装されていても、本文ではDBサーバのアクセスログを採取していないため、確認に利用できません。
関連キーワード: アクセスログ、監査証跡、データベースサーバ、ログ監視、アクセス統制



