システム監査技術者 2011年 午後1 問02
システム開発プロジェクトの監査に関する次の記述を読んで、設問1~3に答えよ。
C社は、傘下に多数の子会社を抱える企業であり、子会社全体の財務管理を支援する情報システム(以下、財務管理支援システムという)を開発した。当初の計画では、1年5か月で開発して稼働を開始する予定であったが、詳細設計工程及びコーディング・単体テスト工程での大幅な作業遅延・工数増加によって、6か月のスケジュール遅延とコスト増加が生じた。
開発した財務管理支援システムは順調に稼働を開始したものの、スケジュール遅延とコスト増加の問題を重視した社長は、再発防止のために財務管理支援システムの開発プロジェクトの監査を監査部に指示した。監査部では監査チームを編成し、進捗管理に重点を置いて監査を実施することにした。
〔開発プロジェクトの概要〕
監査チームは、開発プロジェクトの概要についてヒアリングを行った。その結果は次のとおりである。
(1) 財務部が、財務管理支援システムの開発をシステム開発部に依頼したところ、システム開発部から、“ほかの優先開発案件で手一杯なので、開発を少し待ってほしい”と言われた。財務部は早期の開発を望んでいたので、システム開発部と協議した結果、開発実績のあるJ社に開発を委託することにした。
(2) 開発体制は、図1のとおりであった。C社からは、専任メンバとして財務部のX氏、Y氏及びZ氏、兼任メンバとして業務に精通した財務部員が開発プロジェクトに参加し、J社と連携をとるようにした。

(3) プロジェクト期間中、毎週金曜日の夕方に進捗会議を開き、図2の進捗管理表を用いて進捗状況の確認を行った。進捗会議には、C社財務部の専任メンバ3名と、J社の責任者、業務アプリケーションチーム及び共通基盤チームの各チームリーダが出席していた。

(4) 要件定義から詳細設計までの各工程では、財務部の兼任メンバ3名が成果物をレビューし、そのレビュー結果を踏まえて、X氏が各工程の終了判定を行った。コーディング・単体テスト工程の終了判定は、J社のテスト実施者の完了報告をもって、X氏が行った。
(5) システム開発の計画及び実績は、図3のとおりであった。

〔監査手続〕
監査チームは、表1に示す監査ポイントを基に、監査手続を実施した。
〔監査結果〕
(1) 表1の項番①の監査手続を実施した結果、図2のような進捗管理表が作成されており、作業項目ごとに今週の作業実績、来週の作業予定などの記載があることが分かった。そこで、監査チームは、進捗会議が適切に行われていたと判断した。
(2) 表1の項番②の監査手続を実施した結果、部長あて報告資料及び社長あて報告資料は、各工程終了時にすべて提出されており、プロジェクトの進捗状況について報告されていたことが分かった。そこで、監査チームは、部長及び社長への報告は問題がないと判断した。
(3) 表1の項番③の監査手続を実施した結果、各工程の終了判定基準は、当該工程の終了判定の約1か月前に作成されていたことが分かった。そこで、監査チームは、当該工程の状況を考慮して終了判定基準を作成していたと判断した。また、終了判定資料をレビューした結果、J社業務アプリケーションチームの担当者の完了報告だけに基づいて、Y氏とZ氏が作成していたことが分かった。
設問1:
問題文を見る〔監査結果〕(1)について、監査部長は、“実施した監査手続では、スケジュール遅延の把握とスケジュール遅延への対応が適切に行われていたと判断するのは難しい”と指摘した。表1の項番①において、サンプリングによる監査手続では分からないことと、それを補完するために適用すべき監査手続を、それぞれ40字以内で述べよ。
模範解答
分からないこと:スケジュール遅延が進捗会議で網羅的に報告され、対応が有効であったか。
監査手続:プロジェクトの一定期間を通して進捗管理表をすべてレビューする。
解説
解答の導き方
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まず、監査ポイント①が確かめようとしているのは、進捗管理表が作られていたかだけではありません。「スケジュール遅延を把握し、適切に対応していたか」まで確認する必要があります。
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図2の進捗管理表には、作業項目ごとの今週の実績や来週の予定、備考などが記載されています。したがって、抽出した表を見れば、その時点の作業状況や遅延の記載を確認できます。しかし、サンプリングでは、抽出されなかった時期に発生した遅延や、その後の対応まで漏れなく確認できるとは限りません。
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また、進捗会議は毎週金曜日に開かれています。遅延への対応が適切だったかを判断するには、遅延が進捗会議で網羅的に報告されたかに加えて、対応後に状況が改善したかも追う必要があります。表を単発で確認するだけでは、遅延の発生から報告、対応、その後の進捗までのつながりを十分に評価できません。
-
そこで、プロジェクトの一定期間に作成された進捗管理表をすべてレビューし、時系列で確認します。そうすれば、遅延が網羅的に報告されていたか、対応が有効だったかを確かめやすくなります。
誤りやすいポイント
- 進捗管理表に実績や予定が記載されていることだけで、進捗会議が適切に行われたと判断しないようにします。記載の有無と、遅延の把握・対応の適切さは別の確認事項です。
- サンプリングで確認した表に遅延が記録されていても、プロジェクト全体の遅延が漏れなく把握されていたとは限りません。
- 監査手続を「進捗管理表を確認する」とだけ書くと、サンプリングを繰り返すだけになるおそれがあります。一定期間の全ての表を、時系列でレビューする点が重要です。
- 遅延の把握だけでなく、遅延への対応が有効だったかも問われています。報告されていたかだけに絞らないようにします。
FAQ
Q: サンプリングでは、進捗管理表の何が分かりますか?
A: 抽出した表に記録された作業実績や予定、遅延の記載などは確認できます。ただし、対象外の時期も含めて遅延が網羅的に報告され、対応が有効だったかまでは判断しにくいです。
A: 抽出した表に記録された作業実績や予定、遅延の記載などは確認できます。ただし、対象外の時期も含めて遅延が網羅的に報告され、対応が有効だったかまでは判断しにくいです。
Q: なぜ一定期間の進捗管理表を全て確認するのですか?
A: 表を時系列で並べて確認すると、遅延の発生、報告、対応、その後の進捗の変化を追いやすくなるためです。
A: 表を時系列で並べて確認すると、遅延の発生、報告、対応、その後の進捗の変化を追いやすくなるためです。
Q: 進捗管理表の記載内容が具体的なら、対応の有効性も確認できませんか?
A: 具体的な記載は状況把握に役立ちますが、対応後に遅延が改善したかを確認するには、その後の表との比較が必要です。
A: 具体的な記載は状況把握に役立ちますが、対応後に遅延が改善したかを確認するには、その後の表との比較が必要です。
関連キーワード: 進捗管理、サンプリング、監査証拠、是正措置、時系列レビュー
設問2:
問題文を見る表1の項番②の監査ポイントは、プロジェクトリーダからの報告の適切性を確かめる上では不十分である。追加すべき監査ポイントとそれを確認するための監査手続を、それぞれ40字以内で述べよ。
模範解答
監査ポイント:報告資料に遅延の事実及びその対応策が適切に記載されていたか。
監査手続:進捗管理表と報告資料を突き合わせ、進捗遅れや重要な課題の報告内容を確かめる。
解説
解答の導き方
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表1の項番②では、プロジェクトリーダが進捗状況を適時に報告していたか、特に大幅な遅延が生じた場合に速やかに報告していたかを確認しようとしています。監査手続は、部長あて報告資料及び社長あて報告資料を全件閲覧する方法です。
-
しかし、報告資料を閲覧して、資料が作成・提出されていたことを確認するだけでは、報告の中身が適切だったかまでは分かりません。実際、監査結果で分かったのは、資料が「各工程終了時にすべて提出」されたことと、進捗状況が報告されていたことです。報告資料に遅延の事実や対応策が漏れなく、適切に記載されていたかは確認できていません。
-
したがって、追加する監査ポイントは、報告資料に遅延の事実と対応策が適切に記載されていたかどうかです。監査手続では、進捗管理表と報告資料を突き合わせ、進捗遅れや重要な課題について、報告内容を確認します。
誤りやすいポイント
- 報告資料が提出されていたことを、報告内容も適切だったことと同じだと考えてしまうことです。資料の存在確認と、記載内容の妥当性確認は別です。
- 既存の監査ポイントに「適時に報告」とあるため、提出日だけを確かめれば十分だと考えることです。遅延の事実や対応策が報告に含まれていたかも確認する必要があります。
- 報告資料だけを見て、そこに書かれた内容の正しさを判断することです。進捗管理表など、報告の根拠となる記録との照合が必要です。
FAQ
Q: 各工程終了時に報告資料が提出されていれば、適時に報告されたと判断できますか。
A: それだけでは判断できません。大幅な遅延が発生した時点で速やかに報告されたか、資料の提出時期や内容を確認する必要があります。
A: それだけでは判断できません。大幅な遅延が発生した時点で速やかに報告されたか、資料の提出時期や内容を確認する必要があります。
Q: なぜ進捗管理表と報告資料を突き合わせるのですか。
A: 進捗管理表に記録された作業実績や遅延、課題が、部長や社長への報告資料に適切に反映されているかを確かめるためです。
A: 進捗管理表に記録された作業実績や遅延、課題が、部長や社長への報告資料に適切に反映されているかを確かめるためです。
Q: 報告資料に対応策が書かれていれば、それだけで十分ですか。
A: 記載の有無だけでは十分ではありません。把握されている遅延や課題に対応した内容になっているかを、進捗の記録と照合して確認します。
A: 記載の有無だけでは十分ではありません。把握されている遅延や課題に対応した内容になっているかを、進捗の記録と照合して確認します。
関連キーワード: 進捗管理、監査証拠、報告統制、証憑突合、スケジュール遅延
設問3:
問題文を見る〔監査結果〕(3)について、終了判定が形式的になってしまうリスクがある。監査チームが改善勧告すべき内容を、40字以内で述べよ。
模範解答
プロジェクト開始時に終了判定基準を定め、成果物によって終了判定を行う。
解説
解答の導き方
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この設問は、終了判定が形式的になるリスクをなくすため、判定基準をいつ定め、何を根拠に判定するべきかを考える問題です。
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監査結果では、終了判定基準が「当該工程の終了判定の約1か月前に作成されていた」とあります。工程の状況が分かってから基準を作ると、その時点の進捗に合わせた基準になり、あらかじめ定めた客観的な基準で判定できなくなるおそれがあります。そのため、基準はプロジェクト開始時に定めておく必要があります。
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また、終了判定資料は「J社業務アプリケーションチームの担当者の完了報告だけに基づいて」作成されていました。完了報告だけでは、成果物が必要な品質や条件を満たしているかを直接確認できません。報告を受けるだけでなく、成果物を基準に照らして確認し、終了判定を行うことが必要です。
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以上から、改善勧告では、終了判定基準をプロジェクト開始時にあらかじめ定め、成果物によって終了判定を行うことを示します。
誤りやすいポイント
- 基準を「各工程の終了判定の直前」に作成することを改善策にしないようにします。判定時点に近いほど状況を反映できますが、事前に決めた基準に照らして判定するという目的に反します。
- 完了報告の提出を確認するだけでは不十分です。報告の内容を裏付ける成果物を確認する必要があります。
- 基準を早く定めるだけでなく、その基準に基づいて実際に判定するところまでが改善内容です。
FAQ
Q: 終了判定基準を工程開始時ではなく、プロジェクト開始時に定めるのはなぜですか?
A: 判定の直前に基準を作ると、工程の進捗や結果に合わせて基準が変わるおそれがあるためです。あらかじめ定めておけば、事後的な調整を避けやすくなります。
A: 判定の直前に基準を作ると、工程の進捗や結果に合わせて基準が変わるおそれがあるためです。あらかじめ定めておけば、事後的な調整を避けやすくなります。
Q: 完了報告は終了判定に使えないのですか?
A: 完了報告を参考にすることはできますが、それだけを根拠にするのは不十分です。成果物を確認し、判定基準を満たしているか確かめる必要があります。
A: 完了報告を参考にすることはできますが、それだけを根拠にするのは不十分です。成果物を確認し、判定基準を満たしているか確かめる必要があります。
Q: 成果物による判定では、何を確認しますか?
A: 工程に応じて、設計書、プログラム、テスト結果などを確認し、あらかじめ定めた基準を満たしているかを判断します。
A: 工程に応じて、設計書、プログラム、テスト結果などを確認し、あらかじめ定めた基準を満たしているかを判断します。
関連キーワード: 終了判定基準、成果物、監査証拠、レビュー、プロジェクト管理




