システム監査技術者 2016年 午後1 問03
プロジェクト管理の監査に関する次の記述を読んで、設問1~5に答えよ。
A法人は、ある地方公共団体の外郭団体である。A法人では、現行の基幹システムの老朽化と保守サポートの期限切れに伴い、新たに基幹システムを開発することになった。現在、要件定義工程が終了したところである。
A法人のシステム部門は要員が少なく、開発規模が大きいことから、基幹システム再構築プロジェクト(以下、Sプロジェクトという)では、開発及びプロジェクト管理支援業務を外部に委託することにした。
監査部のシステム監査チーム(以下、監査チームという)は、今年度の監査計画に従い、Sプロジェクトの管理業務及び体制の妥当性の確認を目的とするシステム監査を実施した。
〔プロジェクトの体制〕
基本設計工程以降のSプロジェクトの体制は、図1のとおりである。
(1) ステアリングコミッティは、Sプロジェクトの重要な意思決定を行う組織であり、システム担当役員、情報システム部長及び各利用部門の担当役員で構成されている。
(2) プロジェクトマネージャ(PM)には、情報システム部のT課長が任命されている。
(3) 開発委託先は、サブシステムごとに分割し、W社、X社、Y社及びZ社に発注されている。
(4) PMOの業務は、P社に委託されている。
〔プロジェクト管理基準の概要〕
A法人は、システム開発の経験が少ないことから、独自のプロジェクト管理基準を保有していない。そこで、P社のプロジェクト管理基準をベースにし、A法人の要望を取り入れた、Sプロジェクト用のプロジェクト管理基準(以下、管理基準という)を作成し、使用することにした。管理基準は、表1のとおりである。

〔システム監査の計画〕
システム監査計画の中で策定した監査要点及び監査手続の概要は、表2のとおりである。
〔システム監査の結果〕
システム監査計画に基づいて実施した監査の結果は、次のとおりである。
(1) 表2の項番1の監査要点について、T課長は現行システムの運用の責任者を兼務していることを、体制図の閲覧及び関係者へのインタビューによって確認した。P社との間では週次で進捗会議が実施されており、T課長は、毎回進捗会議に参加している。T課長はインタビューで“兼務していても特に支障はない”と答えている。監査チームは、これらの監査手続を実施した結果、T課長が管理業務を円滑に実施できていると判断した。
(2) 表2の項番2の監査要点について、T課長にインタビューした。T課長は、“要件定義工程終了後、スケジュールの変更が発生したので、ステアリングコミッティの開催を要請し、対面で報告しようとした。しかし、出席者の都合がつかず、書面によって審議することになり、承認されるまでに約2週間を要した”と説明した。
(3) 表2の項番3の監査要点について、監査チームは、管理基準、及び進捗会議の議事録を閲覧し、PMOが管理基準に記載されている役割を果たしているか確認した。次に、P社にインタビューし、P社がプロジェクトの推進に苦慮していることを把握した。
(4) 表2の項番4の監査要点について、P社にインタビューした。その結果、要件定義書の次工程への引継ぎに問題があり、基本設計に遅れが発生していることが分かった。このときのP社の説明は、次のとおりである。
① 要件定義工程では、現行システムの保守を担当しているG社が業務分析を行った。
② G社は、現行システムの機能を基に要件を洗い出し、要件定義書を作成した。
③ 情報システム部長とT課長が要件定義書をレビューし、承認した。
④ 要件定義書に関しては、基本設計の開始前にG社から各委託先に説明があったが、G社は基本設計の開始後、現行システムの保守に追われ、余分の期間と要員を確保できなかった。その影響で、各委託先の疑問に対して、G社からは回答が速やかに得られないことが多かった。
〔システム監査の報告〕
監査チームは、監査結果を基に、監査報告書を作成した。その内容は、次のとおりである。
(1) 〔システム監査の結果〕(2)について、ステアリングコミッティが十分に役割を果たしているとはいえないので、このままの体制で開発を進めた場合はリスクが大きい。
(2) 〔システム監査の結果〕(3)について、Sプロジェクトの管理業務はP社への依存度が高い。開発工程が進むに従って、進捗会議での報告内容は変化し、解決すべき課題も蓄積されていくと考えられる。それに伴い、発注者側の責任者であるT課長は、進捗報告の粒度、タイミングなどの管理業務の内容を改善していく必要がある。監査チームとしては、進行中のSプロジェクトの管理状況の適切性を確認するために、今後も随時フォローアップする。
(3) 〔システム監査の結果〕(4)について、要件定義を担当した委託先とは異なる委託先に開発を委託する場合には、基本設計工程の計画段階で考慮しておくべきことがある。今回は、スケジュールへの影響に対する考慮が不十分であったと考えられる。
設問1:
問題文を見る〔システム監査の結果〕(1)について、T課長がSプロジェクトを円滑に管理できているか判断するために必要な、表2の項番1の①~③以外の監査手続を、40字以内で述べよ。
模範解答
P社にインタビューし、T課長がPMの役割を果たしていることを確認する。
解説
解答の導き方
-
設問が求めているのは、表2の項番1にある①~③とは別に、T課長がSプロジェクトを円滑に管理できているか判断するための監査手続です。したがって、既に行った体制の確認、進捗会議への出席状況の確認、T課長本人へのインタビューとは異なる確認方法を考えます。
-
既存の手続で分かるのは、T課長が進捗会議に出席していることと、本人が「兼務していても特に支障はない」と考えていることです。しかし、会議に出席しているだけでは、PMとして必要な判断や調整を適切に行っているかまでは分かりません。また、本人への確認だけでは、自己評価に偏る可能性があります。
-
そこで、T課長の業務を別の立場から把握している関係者に確認します。表1では、PMOについて「プロジェクトに関わる進捗報告及び課題を整理し、PMに報告すること」と定めています。P社はPMO業務を委託されているため、進捗や課題をT課長に報告する過程で、T課長がPMとしてどのように対応しているかを把握できる立場です。
-
したがって、P社にインタビューし、T課長がPMの役割を果たしているか確認する手続が適切です。本人の説明だけでなく、PMO側からも確認することで、管理業務の実態をより客観的に判断できます。
誤りやすいポイント
- 進捗会議に毎回出席していることを、PMとしての役割を果たしている証拠とみなすことです。出席状況だけでは、管理の質や実効性までは確認できません。
- T課長本人の「特に支障はない」という説明だけで、円滑に管理できていると判断することです。本人以外の関係者からも確認する必要があります。
- 開発委託先に確認すればよいと考えることです。この設問では、進捗や課題を整理してPMに報告するPMOの立場を利用するのが適切です。
FAQ
Q: なぜP社へのインタビューが有効なのですか?
A: P社はPMOとして進捗や課題を扱い、PMに報告する立場にあります。そのため、T課長の管理上の対応を、本人とは異なる視点から確認できます。
A: P社はPMOとして進捗や課題を扱い、PMに報告する立場にあります。そのため、T課長の管理上の対応を、本人とは異なる視点から確認できます。
Q: 進捗会議への出席記録では、何が不足しますか?
A: 出席していた事実は分かりますが、報告された課題への対応や、関係者との調整が適切だったかまでは分かりません。
A: 出席していた事実は分かりますが、報告された課題への対応や、関係者との調整が適切だったかまでは分かりません。
Q: インタビューでは、どのような点を確認すればよいですか?
A: 進捗や課題の報告に対してT課長が適切に対応しているかなど、PMとしての役割を果たしている実態を確認します。
A: 進捗や課題の報告に対してT課長が適切に対応しているかなど、PMとしての役割を果たしている実態を確認します。
関連キーワード: プロジェクト管理、PMO、監査手続、監査証拠、インタビュー
設問2:
問題文を見る〔システム監査の結果〕(3)について、図1の体制に起因して監査チームが把握したと思われる課題を、30字以内で述べよ。
模範解答
複数の委託先間にまたがって調整すべき事項が発生すること
解説
解答の導き方
設問は、〔システム監査の結果〕(3)に関連して、図1の体制から生じる課題を問うています。したがって、P社がプロジェクトの推進に苦慮しているという事実だけでなく、図1で委託先やチームがどのように分かれているかに注目します。
本文には、開発を「サブシステムごとに分割し、W社、X社、Y社及びZ社に発注」したとあります。図1でも、各社がそれぞれ別のサブチームに配置されています。つまり、各委託先が個別に担当作業を進める体制です。
この体制では、各サブチーム内の進捗確認だけでなく、複数のサブシステムに関係する課題や、サブシステム間の作業の依存関係について、委託先同士の調整が必要になることがあります。PMOは各サブチームから進捗報告を集め、課題を整理してPMに報告する役割を担うため、こうした調整事項が増えると、プロジェクトの推進に苦慮する一因になります。
したがって、体制に起因する課題は、複数の委託先にまたがる調整事項が発生することです。
誤りやすいポイント
- P社が推進に苦慮しているという事実だけを述べても、図1の体制に起因する課題を説明したことにはなりません。
- 「委託先が複数ある」だけでなく、委託先間の調整が必要になる点まで示すことが大切です。
- 〔システム監査の結果〕(4)にある要件定義書の引継ぎの問題は、別の監査要点に関する内容です。この設問では、〔システム監査の結果〕(3)と図1の体制に注目します。
FAQ
Q: 各委託先の進捗を個別に把握できていれば、調整は不要ですか?
A: いいえ。各社の進捗を個別に把握するだけでは、複数のサブシステムに関係する課題や作業の依存関係を解決できない場合があります。委託先間の調整も必要です。
A: いいえ。各社の進捗を個別に把握するだけでは、複数のサブシステムに関係する課題や作業の依存関係を解決できない場合があります。委託先間の調整も必要です。
Q: なぜP社の推進上の苦労と、委託先の分割が結び付くのですか?
A: 委託先がサブシステムごとに分かれているため、サブシステムをまたぐ課題が生じた場合は、関係する委託先の間で調整しなければならないからです。
A: 委託先がサブシステムごとに分かれているため、サブシステムをまたぐ課題が生じた場合は、関係する委託先の間で調整しなければならないからです。
Q: 要件定義書の引継ぎも、ここで述べる課題に含めますか?
A: この設問では含めません。問われているのは〔システム監査の結果〕(3)について、図1の体制から把握される課題です。
A: この設問では含めません。問われているのは〔システム監査の結果〕(3)について、図1の体制から把握される課題です。
関連キーワード: 委託先管理、プロジェクト管理、サブシステム、進捗管理
設問3:
問題文を見る〔システム監査の報告〕(1)について、監査チームが考えたリスクを、45字以内で述べよ。
模範解答
A法人での意思決定がタイムリに行われず、工程の遅延や手戻りが発生するリスクがある。
解説
解答の導き方
-
まず、ステアリングコミッティに求められている役割を確認します。管理基準では、「マイルストーン、開発スケジュール、スコープ、予算などの重要事項」はステアリングコミッティが承認するとされています。したがって、スケジュール変更の承認は、同コミッティが担う重要な意思決定です。
-
次に、実際の対応にかかった時間を見ます。T課長は、対面で報告しようとしたものの出席者の都合がつかず、書面審議となり、「承認されるまでに約2週間を要した」と説明しています。承認自体は行われていますが、必要な決定に時間がかかった点が問題です。
-
この状態で開発を続けると、スケジュールなどの重要事項についてA法人の意思決定が遅れ、後続工程に影響するおそれがあります。決定を待つことで工程が遅れたり、決定が遅れたまま作業を進めた結果、後から設計や作業のやり直しが発生したりするリスクを述べればよいです。
誤りやすいポイント
- ステアリングコミッティが承認した事実だけを見て、役割を果たしていると判断しないようにします。意思決定の適時性も重要です。
- 問われているのは、承認に時間がかかった原因や改善策ではなく、そのまま開発を進めた場合に生じるリスクです。
- リスクを「約2週間の遅延」とだけ書くと、今回の事象に限定した説明になりやすいです。今後の意思決定の遅れが、工程遅延や手戻りにつながる点まで示します。
FAQ
Q: ステアリングコミッティが承認しているなら、問題はないのではありませんか。
A: 承認したことだけでなく、必要な時期に意思決定できることも大切です。承認までに時間がかかると、後続工程の開始や計画の見直しに影響します。
A: 承認したことだけでなく、必要な時期に意思決定できることも大切です。承認までに時間がかかると、後続工程の開始や計画の見直しに影響します。
Q: 「工程の遅延」と「手戻り」の両方を書くのはなぜですか。
A: 意思決定を待てば作業の開始が遅れる可能性があり、決定を待たずに作業を進めれば、後の決定に合わせて作業を修正する可能性があるためです。
A: 意思決定を待てば作業の開始が遅れる可能性があり、決定を待たずに作業を進めれば、後の決定に合わせて作業を修正する可能性があるためです。
関連キーワード: プロジェクトガバナンス、意思決定、ステアリングコミッティ、スケジュール管理、手戻り
設問4:
問題文を見る〔システム監査の報告〕(2)について、監査チームがフォローアップとして確認すべき内容を、45字以内で述べよ。
模範解答
プロジェクトの進行に合わせて、T課長がP社の管理業務の内容を随時見直していること
解説
解答の導き方
-
監査報告(2)では、「Sプロジェクトの管理業務はP社への依存度が高い」と指摘されています。つまり、P社に管理業務を委託しているだけでなく、発注者側がその業務を適切に管理することも重要です。
-
さらに、開発工程が進むにつれて「進捗会議での報告内容は変化し、解決すべき課題も蓄積されていく」とされています。したがって、当初の管理方法をそのまま続けるのではなく、プロジェクトの状況に応じて管理の仕方を見直す必要があります。
-
報告(2)は、その見直しを担うのが「発注者側の責任者であるT課長」であり、進捗報告の粒度やタイミングなどを改善する必要があると述べています。よって、フォローアップでは、プロジェクトの進行に応じて、T課長がP社の管理業務の内容を随時見直しているかを確認します。
誤りやすいポイント
- P社が管理基準どおりに進捗管理や課題管理を行っているかだけを確認するのではありません。設問は、監査報告(2)のフォローアップであり、報告で指摘した改善が行われているかが中心です。
- 会議の開催回数や報告書の有無だけでは、進捗に合わせた管理内容の見直しを確認できません。
- P社への委託に任せきりにせず、発注者側の責任者であるT課長が管理内容を調整しているかに着目します。
FAQ
Q: フォローアップでは、P社の作業状況を確認するのではないのですか?
A: P社の作業状況も関係しますが、この設問では、管理業務を委託する発注者側のT課長が、プロジェクトの変化に応じて管理内容を見直しているかを確認することが要点です。
A: P社の作業状況も関係しますが、この設問では、管理業務を委託する発注者側のT課長が、プロジェクトの変化に応じて管理内容を見直しているかを確認することが要点です。
Q: なぜ「随時」見直す必要があるのですか?
A: 開発の進行に伴って、必要な進捗報告の細かさやタイミング、対応すべき課題が変わるためです。
A: 開発の進行に伴って、必要な進捗報告の細かさやタイミング、対応すべき課題が変わるためです。
Q: 「管理業務の内容」とは、具体的に何を指しますか?
A: 進捗報告の粒度やタイミングなど、P社に行わせる管理の方法や内容を指します。
A: 進捗報告の粒度やタイミングなど、P社に行わせる管理の方法や内容を指します。
関連キーワード: プロジェクト管理、進捗管理、課題管理、委託先管理、フォローアップ
設問5:
問題文を見る〔システム監査の報告〕(3)について、監査チームが基本設計工程の計画について確認したと考えられる内容を、50字以内で述べよ。
模範解答
要件定義を担当した委託先とは異なる委託先に開発を委託する場合の引継ぎ期間が考慮されているか
解説
解答の導き方
-
この設問は、要件定義工程の成果物を基本設計工程へ引き継ぐ際に生じた問題を踏まえ、基本設計工程の計画で何を確認すべきだったかを問うています。
-
要件定義工程では、現行システムの保守を担当するG社が業務分析を行い、要件定義書を作成しています。一方、開発はサブシステムごとに分けて各委託先に発注されています。つまり、要件定義を行った委託先と、開発を行う委託先が異なる状況です。
-
要件定義書については、基本設計の開始前にG社から説明がありました。しかし、本文には、基本設計の開始後、G社が「現行システムの保守に追われ」て、各委託先からの疑問に速やかに回答できないことが多かったとあります。説明を一度行うだけでは、基本設計を進める中で生じる疑問への対応まで十分に確保できなかったと考えられます。
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その結果、要件定義書の引継ぎに問題が生じ、基本設計に遅れが発生しました。監査報告でも、異なる委託先に開発を委託する場合について「スケジュールへの影響に対する考慮が不十分」とされています。
-
したがって、基本設計工程の計画については、要件定義を担当した委託先から開発を担当する委託先への引継ぎに必要な期間が、スケジュールに確保されているかを確認するのが適切です。引継ぎ期間には、成果物の説明だけでなく、開発側の質問への回答に必要な期間も考慮されているかがポイントです。
誤りやすいポイント
- 要件定義書が承認されていたことだけを確認するのは不十分です。承認済みでも、開発担当者が内容を理解し、疑問を解消できるとは限りません。
- 「引継ぎができていたか」だけで終わらせないようにします。この設問は、引継ぎで問題が起きた事実を受けて、基本設計工程の計画で必要な期間を考慮していたかを問うています。
- 遅延が起きた後の対処方法ではなく、計画段階でスケジュールへの影響を見込んでいたかに焦点を当てます。
FAQ
Q: 基本設計の開始前に説明が行われていたのに、なぜ引継ぎ期間の確認が必要なのですか?
A: 開始前の説明だけでは、設計を進める中で生じる疑問に対応できるとは限らないためです。質問への回答を受けられる期間や要員も、計画に含まれているかを確認します。
A: 開始前の説明だけでは、設計を進める中で生じる疑問に対応できるとは限らないためです。質問への回答を受けられる期間や要員も、計画に含まれているかを確認します。
Q: この設問では、成果物の承認状況も答えに含める必要がありますか?
A: 中心となるのは、異なる委託先間の引継ぎに必要な期間が計画されているかです。成果物の承認状況より、引継ぎがスケジュールに与える影響への考慮が問われています。
A: 中心となるのは、異なる委託先間の引継ぎに必要な期間が計画されているかです。成果物の承認状況より、引継ぎがスケジュールに与える影響への考慮が問われています。
関連キーワード: 要件定義、基本設計、成果物引継ぎ、スケジュール管理、委託先管理





