システム監査技術者 2019年 午後1 問02
システムの開発計画の監査に関する次の記述を読んで、設問1~5に答えよ。
A社は、機械部品、工具などを製造・販売している中堅企業であり、業務拡大のために、営業支援システムを刷新することになった。現在、A社内で要件定義を行っており、設計工程以降はベンダに外部委託する計画である。
昨今、他社でシステム開発の外部委託を巡るトラブルで訴訟に発展する事例が発生していることから、A社の監査室に対してシステム監査の実施が指示された。しかし、監査室は、これまでシステム監査の経験がほとんどないので、外部のシステム監査人S氏に今回のシステム監査チーム(以下、監査チームという)に参画してもらい、助言を受けながら監査を実施することにした。
〔予備調査の結果〕
監査チームは、A社の新しい営業支援システム(以下、新システムという)の開発計画の状況を、次のとおり把握した。
(1) A社の営業戦略を担う営業統括部と現行システムを管理するシステム部が中心となって、システム企画書を作成した。
(2) A社のシステム部では、数名の部員が主に委託先への発注業務などの事務的な作業を行っているだけで、ここ10年以上大きなシステム開発は行っていない。また、現行システムの運用・保守は、開発を担当したZ社に任せている。
(3) 新システム開発プロジェクトで要件定義を開始する際に、システム部のT課長がプロジェクトマネージャ(PM)に任命された。T課長は、他部署から異動してきたばかりで、システム開発プロジェクトのPMに任命されたのは初めてである。
(4) T課長は、現行システムの仕様を十分に把握していないので、現行システムを熟知しているZ社の担当者に依頼して、現行仕様を基に要件定義書の原案を作成してもらった。
(5) 営業統括部が、営業戦略上重要な新規機能の要件を要件定義書の原案に付け加えた。そして、関連部門が現行システムに対する要望事項に大中小の重要度を付加し、T課長に提出した。その後、システム部が、関連部門にインタビューしながら業務上の代替手段などを検討し、要望事項にプロジェクトとしての優先順位を付与した上で、“要望事項一覧”として要件定義書に追記した。
(6) 要件定義書を作成した後、Z社を含む複数のベンダに見積りを依頼し、そのうちの1社に基本設計からシステムテストまでの工程を請負契約で委託する。開発委託先が決まったら、開発スケジュールを詳細化し、プロジェクト計画書を作成することになっている。
(7) システム部は、システムテストまでの工程の成果物が過不足なく納品されていることを確認する。また、システムテストのテストケース及びテスト結果を確認して検収を行う。検収完了後から本番リリース準備開始前までにA社内でユーザ受入テストを実施する。
(8) 開発着手後も要件の追加・変更が見込まれるので、委託先には一定の条件下で要件の追加・変更を依頼する前提で発注する。
〔リスクの洗い出し〕
監査チームは、予備調査の結果を基に、新システムの開発計画のリスクを洗い出した。その内容は、次のとおりである。
(1) T課長が関連部門からの要望を整理できず、要件定義書をまとめきれない。その結果、“開発範囲が確定しない”、“開発に着手できない”、“プロジェクト計画書を作成できない”などの状況に陥るリスクがある。
(2) 業務要件が十分に固まっていない状態で開発に着手することによって、後から要件の追加・変更が頻発し、計画どおりにプロジェクトを進められないリスクがある。
(3) 委託先への発注窓口であるシステム部の体制が不十分で、開発着手後も委託先に“丸投げ”の状態となるリスクがある。その結果、“進捗状況を十分に把握できず、進捗遅れ・予算超過を適時に把握できない”、“開発着手後の追加・変更要求を要件として委託先に依頼できない”といった状況に陥るリスクがある。
(4) PMの責任・権限が曖昧なことから、T課長が判断に迷った場合に、プロジェクトとしての意思決定ができないリスクがある。
〔本調査の計画〕
監査チームは、リスクを洗い出した後、表1に示す監査手続書を作成し、S氏に助言を求めることにした。

〔S氏からの助言〕
S氏からの助言内容は、次のとおりである。
(1) 表1の項番1の監査手続について
重要度の項目が、要望事項一覧に漏れなく設定されているかどうかを確認するだけでは不十分である。
(2) 表1の項番3の監査手続について
新システム開発プロジェクトの体制図の閲覧だけでなく、要件定義書作成時の議事録の閲覧、及び体制図に記載された利用部門の代表者へのヒアリングを行って確認する必要がある。
(3) 表1の項番4の監査手続について
進捗状況を適時に把握できるよう、委託先との進捗会議の実施頻度を確認しておくことは重要である。さらに、“委託先からは、進捗報告資料のほかに成果物の一部とテスト結果を提出してもらい、システム部が進捗報告の内容と比較することを計画しているかどうか”を確認する必要がある。
〔本調査の実施〕
監査チームは、表1の監査手続書、及びS氏からの助言を踏まえて、要件定義書の完成前に本調査を実施した。その内容の一部は、次のとおりである。
(1) 表1の項番2の監査手続について
監査チームは、開発に着手した後の体制と役割が明確になっていることを把握した。ただし、検収完了後の体制については確認できなかった。監査チームは、検収完了後から本番リリース準備開始前までのA社内の体制について、更に詳細に確認することにした。
(2) 表1の項番5の監査手続について
T課長が作成した、委託先向けの“要件の追加・変更に関する手順”には、必要と考えられる事項は網羅されていた。そこで、監査チームは、これらの手順が委託先との間で合意可能かどうかを、T課長にヒアリングして確認した。T課長によると、“委託先に対して手順の遵守を求めることは、契約時に双方で確認するので問題ない”との回答であった。この結果を受けて、S氏は利用部門向けにも“要件の追加・変更に関する手順”の周知が必要であると指摘した。監査チームは、追加の監査手続として、要件の追加・変更の要求がある程度増えても期間内に対応できるような対策が設けられているかどうかを、T課長に確認することにした。
設問1:
問題文を見る〔S氏からの助言〕(1)において、S氏が“不十分である”と考えた理由を、50字以内で述べよ。
模範解答
重要度の設定の確認だけではプロジェクトとしての優先順位が検討されているかどうか確認できないから
解説
解答の導き方
-
まず、要望事項には「重要度」と「プロジェクトとしての優先順位」の二つがあると読み取れます。本文では、関連部門が要望事項に「大中小の重要度」を付けた後、システム部がインタビューを行い、業務上の代替手段なども検討して「プロジェクトとしての優先順位」を付与しています。
-
この二つは同じものではありません。重要度は、関連部門がそれぞれの要望をどれほど重視しているかを示すものです。一方、プロジェクトとしての優先順位は、代替手段なども考慮して、開発計画の中でどの要望を優先するかを判断したものです。
-
表1の項番1の監査手続では、「重要度」の項目があり、「大中小」のいずれかが漏れなく設定されていることを確認します。この確認で分かるのは、各要望に重要度が記入されているかどうかです。システム部が要望を検討し、プロジェクトとしての優先順位を決めたかどうかまでは確認できません。
-
したがって、重要度の記入漏れだけを確認する手続では、プロジェクトとして優先順位が検討されたかを確かめるには不十分です。
誤りやすいポイント
- 「重要度」と「プロジェクトとしての優先順位」を同じ意味だと捉えないようにします。本文では、別々の主体が異なる段階で付与しています。
- 「大中小」が漏れなく設定されていることを確認すれば、優先順位も検討済みだと判断するのは誤りです。記入の有無と、優先順位を決定した過程の確認は別です。
- 要望事項一覧に優先順位の欄があるかどうかだけでなく、監査手続が実際に何を確認できるかに注目します。
FAQ
Q: 重要度を付けることには、どのような意味がありますか?
A: 関連部門が各要望をどれほど重視しているかを示します。ただし、それだけでプロジェクト内の採否や実施順序が決まるわけではありません。
A: 関連部門が各要望をどれほど重視しているかを示します。ただし、それだけでプロジェクト内の採否や実施順序が決まるわけではありません。
Q: 優先順位を検討したことを確認するには、何に注目すればよいですか?
A: 要望の重要度を確認するだけでなく、業務上の代替手段などを踏まえて、プロジェクトとして優先順位を付与したかを確認する必要があります。
A: 要望の重要度を確認するだけでなく、業務上の代替手段などを踏まえて、プロジェクトとして優先順位を付与したかを確認する必要があります。
Q: 項番1の監査手続では、何が確認できますか?
A: 要望事項に重要度が漏れなく設定されていることは確認できますが、プロジェクトとしての優先順位の検討までは確認できません。
A: 要望事項に重要度が漏れなく設定されていることは確認できますが、プロジェクトとしての優先順位の検討までは確認できません。
関連キーワード: 要件定義、重要度、優先順位、監査手続、監査証拠
設問2:
問題文を見る〔S氏からの助言〕(2)において、S氏が議事録の閲覧、及び利用部門の代表者へのヒアリングを行って確認する必要があるとした理由を、40字以内で述べよ。
模範解答
利用部門の代表者の要件定義書の作成への十分な関与を確認する必要があるから
解説
解答の導き方
-
まず、この監査手続で確認したいのは、利用部門の代表者が要件定義書の作成に実際に関わっているかどうかです。表1の項番3では、要件定義書の作成時に利用部門の代表者が参画しているかを監査要点としています。
-
体制図から分かるのは、利用部門の代表者がプロジェクトに参加する予定になっているかどうかです。しかし、体制図に名前があるだけでは、要件定義書の作成に実際に参加したか、また十分に意見を述べたかまでは分かりません。
-
本文では、要件定義書の原案をZ社の担当者が作成し、営業統括部が新規機能の要件を加えた後、関連部門の要望事項をシステム部が整理しています。このような作成過程では、利用部門の代表者がどのように関与したかを確認することが重要です。
-
そこで、議事録を閲覧すれば要件定義の場での参加状況を確認でき、代表者へのヒアリングを行えば、役割や関与の程度を確かめられます。つまり、体制上の参加予定だけでなく、要件定義書の作成への十分な関与が実際にあったかを確認するためです。
誤りやすいポイント
- 体制図に利用部門の代表者が記載されていれば、要件定義への参加も確認できたと考えてしまうことです。体制図が示すのは、主に参加予定や役割です。
- 議事録の閲覧とヒアリングを、単なる参加の有無の確認と捉えることです。重要なのは、要件定義書の作成にどの程度関与したかまで確認することです。
- 利用部門の代表者がプロジェクトに参画すること自体を目的と考えることです。監査では、利用部門の業務上の要望を要件定義に反映できるだけの関与があったかを確かめます。
FAQ
Q: 体制図だけでは、なぜ確認として不十分なのですか?
A: 体制図は参加する予定や役割を示すものであり、要件定義書の作成に実際に参加したかまでは示さないからです。
A: 体制図は参加する予定や役割を示すものであり、要件定義書の作成に実際に参加したかまでは示さないからです。
Q: 議事録とヒアリングでは、何を確認できますか?
A: 議事録では会議への参加や議論の状況を、ヒアリングでは代表者の役割や実際の関与の程度を確認できます。
A: 議事録では会議への参加や議論の状況を、ヒアリングでは代表者の役割や実際の関与の程度を確認できます。
Q: ここでいう「十分な関与」とは、何を指しますか?
A: 利用部門の代表者が、業務上の要望や意見を要件定義書の作成に反映できるように関わっていることです。
A: 利用部門の代表者が、業務上の要望や意見を要件定義書の作成に反映できるように関わっていることです。
関連キーワード: 要件定義、利用部門、監査証拠、議事録、ヒアリング
設問3:
問題文を見る〔S氏からの助言〕(3)について、S氏が監査手続の追加を助言した理由を、45字以内で述べよ。
模範解答
委託先が進捗状況を正確に報告しているかどうかをA社として確認する必要があるから
解説
解答の導き方
設問は、S氏が進捗管理に関する監査手続を追加するよう助言した理由を問うています。
表1の項番4では、委託先との進捗会議の実施頻度や、進捗報告として求める内容を確認します。会議の頻度を確認すれば、進捗を適時に把握するための仕組みがあるかは分かります。しかし、委託先から提出された進捗報告の内容が正しいかどうかまでは、それだけでは確かめられません。
そこでS氏は、進捗報告資料だけでなく「成果物の一部とテスト結果」も提出してもらい、システム部が進捗報告の内容と比較する計画かどうかを確認するよう助言しています。報告された進捗と、成果物やテスト結果から確認できる状況を照らし合わせれば、委託先の報告が実態に沿っているかをA社側で確かめられます。
したがって、追加の監査手続が必要なのは、進捗を定期的に報告してもらうだけでなく、その報告の正確性をA社自身が確認する必要があるからです。
誤りやすいポイント
- 進捗会議の回数や頻度を確認すれば、進捗状況を正確に把握できると考えることです。会議の頻度は適時性に関わりますが、報告内容の正しさを裏付けるものではありません。
- 委託先に進捗報告を求めること自体を、報告内容の確認と混同することです。成果物やテスト結果との照合が、報告の正確性を確かめる手段になります。
- 委託先の報告を信頼できるかという一般論にとどまり、A社側で報告の正確性を確認する必要がある点を述べないことです。
FAQ
Q: 進捗会議の実施頻度を確認するだけでは、なぜ不十分なのですか?
A: 会議の頻度から分かるのは、進捗を報告・確認する機会がどの程度あるかです。報告された進捗が実態に合っているかまでは分からないためです。
A: 会議の頻度から分かるのは、進捗を報告・確認する機会がどの程度あるかです。報告された進捗が実態に合っているかまでは分からないためです。
Q: 成果物やテスト結果を進捗報告と比較するのはなぜですか?
A: 報告内容と、実際に作成された成果物やテストの状況を照合し、委託先の進捗報告が正確かを確認できるからです。
A: 報告内容と、実際に作成された成果物やテストの状況を照合し、委託先の進捗報告が正確かを確認できるからです。
関連キーワード: 進捗管理、監査証拠、成果物レビュー、テスト結果
設問4:
問題文を見る〔本調査の実施〕(1)について、監査チームが確認することにした具体的な内容を、35字以内で述べよ。
模範解答
ユーザ受入テストの役割分担、体制について明確に定められていること
解説
解答の導き方
-
本調査では、開発に着手した後の体制と役割は確認できましたが、「検収完了後の体制については確認できなかった」とあります。したがって、確認が不足しているのは、検収が終わった後のA社内の体制です。
-
その期間に何を行うのかは、本文に「検収完了後から本番リリース準備開始前までにA社内でユーザ受入テストを実施する」と示されています。よって、確認対象は、このユーザ受入テストをA社内で実施するための体制です。
-
体制の確認では、誰がどの役割を担うのかも明確になっている必要があります。そのため、ユーザ受入テストの役割分担と実施体制について、明確に定められていることを確認するのが適切です。
誤りやすいポイント
- 委託先の検収と、A社内で行うユーザ受入テストを混同しないようにします。本文では、検収完了後にユーザ受入テストを実施するとされています。
- 本問は、テストケースやテスト結果の妥当性を問うものではなく、検収後のA社内の体制を問うものです。
- 「ユーザ受入テストを実施する予定があるか」だけでは不十分です。誰が何を担当するのかという役割分担も確認対象です。
FAQ
Q: 検収後の体制を確認するのはなぜですか?
A: 検収後には、委託先の成果物を受け入れる手続とは別に、A社内でユーザ受入テストを行うためです。
A: 検収後には、委託先の成果物を受け入れる手続とは別に、A社内でユーザ受入テストを行うためです。
Q: 体制の確認では、何を明確にすればよいですか?
A: ユーザ受入テストを行う担当や、その役割分担が明確に定められていることを確認します。
A: ユーザ受入テストを行う担当や、その役割分担が明確に定められていることを確認します。
Q: テストの実施予定だけ確認すればよいですか?
A: いいえ。実施することに加え、A社内で誰がどの役割を担うのかも確認する必要があります。
A: いいえ。実施することに加え、A社内で誰がどの役割を担うのかも確認する必要があります。
関連キーワード: ユーザ受入テスト、検収、役割分担、プロジェクト体制、リリース準備
設問5:
問題文を見る〔本調査の実施〕(2)について、監査チームがT課長に確認した対策の具体的な内容を、45字以内で述べよ。
模範解答
開発着手後の追加・変更の要求に対応する際の採用条件を明確にし、利用部門と合意すること
解説
解答の導き方
-
まず、本調査では「要件の追加・変更に関する手順」の内容が必要事項を網羅していることを確認しています。さらに、委託先がその手順を守れるかについても、T課長は「契約時に双方で確認する」と回答しています。したがって、委託先との契約上の手順だけを確認するのでは不十分です。
-
次に、S氏は「利用部門向けにも」手順を周知する必要があると指摘しています。要件の追加・変更を求めるのは利用部門でもあるため、委託先との取り決めだけでは、利用部門からの要求をどのように扱うかが定まりません。
-
そこで監査チームは、追加・変更の要求が増えても期間内に対応できる対策があるかを確認することにしました。要求をすべて採用するのではなく、どの要求を受け入れるかの条件を明確にし、その条件を利用部門と合意しておけば、要求の増加による開発範囲の拡大やスケジュールへの影響を抑えられます。
このため、確認する対策は、開発着手後の追加・変更要求に対する採用条件を明確にし、利用部門と合意していることです。
誤りやすいポイント
- 委託先との手順の合意だけを答えないようにします。本調査では、委託先が手順を守ることは契約時に確認するとの回答を得ています。
- 手順を利用部門に周知することだけで終わらせないようにします。設問が問うのは、要求が増えても期間内に対応するための具体策です。
- 要求の優先順位付けだけに限定しないようにします。ここでは、採用条件を明確にして利用部門と合意することがポイントです。
FAQ
-
Q: 委託先との合意だけでは、なぜ不十分なのですか?
A: 利用部門から追加・変更の要求が出るためです。委託先との手順に加えて、利用部門がどのような条件で要求を採用するかを理解し、合意している必要があります。 -
Q: 利用部門に手順を知らせれば十分ですか?
A: 周知だけでは、要求を採用する基準が利用部門との間で共有されたとは限りません。採用条件を明確にして、利用部門と合意することが必要です。 -
Q: 採用条件を決める目的は何ですか?
A: 追加・変更要求を無制限に受け入れて開発範囲が膨らむことを防ぎ、期間内に対応できる範囲を関係者間で明確にするためです。
関連キーワード: 要件変更管理、変更要求、利用部門合意、開発範囲管理、スケジュール管理



